魔虫からの生還
横転した馬車から引っ張り出されて、初めて周りの光景を生で見る。
魔虫によって捕食されて息絶えている馬、マントを羽織った者にバラバラにされた魔虫。
(優しいものだな……)
魔虫に捕食されて息絶えている馬の首には、鎌で裂かれたかのようなパックリと開いた傷がある。
それは魔虫に首を食い破られて、死ぬのは間違い無いのだが、即死が出来ずに苦しんでいたのを介錯した痕。
それにバラバラにされた魔虫だが、こちらは腹だけは傷付けないように残されている。
まるで、朝顔のつぼみの様にぷっくりとした魔虫の腹。
あの中には捕食された馬の一部と、捕食された人間の肉片がある。
残された光景からも、あの子が思慮深いというのは十分に分かる。
「お加減が悪いのでしょうか?」
「犠牲を出してしまったのを悔やんでる」
あの子の事を言うつもりは無い以上、適当な事を言って話をはぐらかそうとしたのだが、
「申し訳ございません!!街道の見回りは間違いなく行っていたのですが、見落としをしてしまいました!!」
何気無く言った言葉が、嫌味になってしまった。
「すまない。そんなつもりは無かったんだ。君達が急いで来てくれたのは分かっているし、いくら巡回をしていても、魔虫が来る時は来てしまう。今回は運が無かったな」
「お心遣い、感謝致します!!」
騎士である彼の立場を重んじて、街道に魔虫がいた事を攻め立てるつもりは無い。
今回の件は騎士団の不徳からではなく、偶発的な出来事だったと、それで済まして咎めずに終わらせると遠回しに伝える。
「大変恐縮ですが、こちらの馬に」
「うむ、助かる……そうだ、あの魔虫の腹には、私の御者が眠っている。連れ帰って欲しい」
「かしこまりました。後から調査隊が来ますので、その者達に」
「頼む」
「それでは……副隊はこのまま調査隊と合流!!本隊はトルート様を護衛する!!」
「了解!!」
トルートを乗せた馬が歩き出すと、騎士団も並走して街へと向かう。




