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金魚鉢の金魚

どれだけ魔虫がエサを求めて羽を震わせても、声を馬車から外へ出さない。



死へといざなう音に、気が触れてしまわないように顔を上げて、扉の窓から空を見上げようとしたが、



「…………っ!!!?」



見上げた先に見えたのは空ではなく、魔虫の顔であった。



三角形の独特な顔、顔の半分を占める目に、顔の半分を占める口。



獲物を見付ける為に特化した目、獲物を捕食するのに特化した口。



物見小屋ものみごやで見た魔虫の遺体は気色悪くて顔をしかめる程度だったが、生きた魔虫と顔合わせた感想は、



「死ぬのか……」



顔から生気が失せて冷たくなるのが分かる。



魔虫が大きなカマを上げるのを見ながら理解する、自分は嵌められたのだと。



羽をバタつかせていた魔虫は、馬車の中に何かがいるのを気付いていたのだ。



羽をバタバタとさせていたのは、怯えた獲物が馬車の中から飛び出して来ないかというのもあったのかもしれないが、それと同時に、もう一匹の魔虫を呼んでいたのだ。



あれだけ大きな馬の肉があるにもかかわらず、食事をしていた魔虫は、こっちへと来た。



さっきまでの一触即発の状況など忘れて魔虫は協力して、



『ゴッギンン!!!!』



「うぉあ!!!?」



馬車の中にいる、自分を襲うとする。



馬車の上に乗った魔虫は、大きなカマを窓に差し込んで中の獲物をほじくり出そうとし、馬車の前に陣取っている魔中は『ガリガリ』と馬車をかじって、馬車に穴を空けようとしている。



まるで金魚鉢の中にいる金魚を、猫が狙うかのように馬車をいじくり回す。



こんな状況では生き残る術等すべなど思い付かないが、それでも手にしている剣で、迫って来る大きなカマを払う。



何度も狭い窓から入り込む大きなカマ、自分の真横で鳴り響く馬車を齧る音。



まだ魔虫に狙われてから数秒しか経っていないのに、



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」



老人の精神は限界の瀬戸際せとぎわまで追い込まれる。



上からの大きなカマだけに集中出来れば、まだ冷静さを維持できたかもしれないが、壁横から聞こえる齧る音が神経をイラつかせる。

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