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過去への飛翔  〜なぜ我々はうっかり作ったタイムマシンによって頭を抱えなければならなくなったのか〜

作者: 三須田 急

文化祭がおよそ一週間前に迫った10月26日、我々SF研の3人は人生始まって以来最大の危機に直面していた。

重苦しい空気が部室を支配している直接の原因、それは今朝の各種報道に遡る。


『富士山消滅‼︎隕石の落着が原因か?』


自分が見た新聞にはこんな見出しが印刷されていた。新聞だけで無い、TV、ラジオ、ネットニュースに至るまでこのアホウな話を大真面目に議論させていた。

正直、この段階ではなんとなく心当たりがあったくらいで我々は変わり映えしない退屈な学生生活をエンジョイしていたのだが、状況はホームルーム終了後に一変した。

『富士山隕石は人工物か?外部に文字らしき記号』の見出しがネットニュースのトップに上がった。驚愕すべき事に本文には『外観に高校、SFと判読できる記号がある』とか『縦に2つに割れ、内部から人型のモノが見つかった』などと記されていた。


この記事から導き出された結論は、私を大いに動揺させ、準備に忙しいクラスの学友諸君を顧みずに部室に走らせた。富士山を消し飛ばしたアレは紛れもなく我々が作り出し、文化祭当日の11月3日から本日10月26日に送り出そうと考えていたタイムマシンの成れの果てだった。半分倉庫と成り果てた理科室にある部室の扉を開けると、いつもの2人も椅子に座って項垂れていた。コレが危機の全貌であり、この状態で1時間をドブに捨てていた。


「今朝のアレさぁ…」最初に重い口を開いたのは設計技師長の阿久津だった。「それ以上言うな、聞きたくない」航法主任の私が第2声を絞り出した。搭乗員予定の宇津井なんかは親に叱られている幼児よろしく、今にも泣きそうな顔で机を見つめているだけだ。


「そんなこと言ってもどぉするよ、山が無くなってんだぞ」阿久津が追撃する。「なら、どうしろと言うんだよ。まだヤッテナイことで責任を取れと言うのか。」こちらも容赦なく打ち返す。「少なくとも…正直に話せば…」となんとか言葉を繋いだが、阿久津もその他2名も続かない。


しばしの沈黙の後、宇津井が「…たくない」と呟いた。「嫌だぁ、絶対にお星さまになりたくなぁいぃ」こちらが聞き返すより前に顔を上げて泣き始めた、幼顔が歪んでいる。「落ち着け、ウッチー!まだ天に召されると決まった訳じゃねぇ‼︎」阿久津らしい台詞だが、厳しい現実がそれを許さない。「だとしても…ヤッテナクてもオキチマッタんだから…」意を決して忠告しようとした私に阿久津が切り返す。「やらなきゃタイムパラドックスが起きるかもだろ?だからって誰かを生贄にすんのかよ!」結構な勢いで詰め寄られたため少々後ずさる。


さて、タイムパラドックスと言われてもさっぱり七三わけからんという人もいるだろう。わかりやすく説明すれば、過去に戻って自分の親を削除すれば自分が産まれて来ないということになり自分自身の存在も消え失せるというヤツだ。今回であれば文化祭当日に過去へ行かなければ富士山は吹っ飛ばないが、今日吹っ飛んだはずの富士山と辻褄が合わなくなり、我々の世界が消え失せる可能性があるということだ。


さらに阿久津が「そもそも、お前が計算ミスしたせいでこうなったんじゃぁないのか?」とか言い出したので私も遂に堪忍袋の尾が切れた。「何だよその言い方は!まるで責任とって俺がかつて人間だったモノになれって言ってるみたいじゃねぇか!」と吠えた。そこから、犬のケンカ以下の余りに醜い争いが展開されようとしていた。


その時のことだ!


部室の一角に稲妻でできた球体が生じた。「なんじゃあぁ?ありゃああ⁈」掴みかかる一歩手前の阿久津の驚嘆に私も思わず振り返る。徐々にテスラコイルの中心が人型の枠を作り始め、チリチリし始めた。 「⁈、タイムトラベラーか?」また怒らせそうな憶測を口走ってしまったが、驚きで誰一人動けない。くっきり人型になった後、一人の男がそこに立ち、稲妻も消え失せていた。そこにいたのは全身を銀色のタイツに覆われ、頭頂部にはパラボラアンテナ、目にはシュノーケルに使うゴーグルといった出立の明らかな変質者であった。我々は呆気にとられ、あまりに珍妙な光景に宇津井も泣き止んでポッカリ口を開けるしかなかった。


すると変質者が「時空連続体監視矯正局の戸倉だ!時空逆説現象の兆候が見られたため実力を行使する‼︎」と張り上げ警察手帳のようなモノを見せつけてきた。私なんかはヘッヘへェ〜とひれ伏しそうになったが、阿久津はすかさず問いかけた。「時空連続体監視矯正局ぅ〜、ってことはオッサンは時空警察かなんかか?」相変わらずの物分かりの速さに恐れ入る。「そんなところだ!お前達がタイムトラベルし富士山を木っ端微塵にする歴史を維持するために遣わされたのだ‼︎」。「ふざけんな!例え富士山が噴火しようが、そんな事させてたまるか‼︎」阿久津が変質者と同じ調子で反論した。「えぇい、下がれ狼藉者!邪魔立てすれば公務執行妨害で逮捕だ‼︎」変質者がジリジリと我々に近づいてくる


その時だ!


我らと変質者の間に眩い稲妻、あの時と全く同じ光景が広がった。「マズイ、ヤツが来たか!伏せろ‼︎」変質者が怒鳴る。稲妻が全く同じプロセスで送り込んできたのはまたしても人型をしていた、ただ人間ではなかった。その姿はそう、ブリキのロボット玩具だ、胸には“ドーコー”とサインペンで殴り書きされている。「早く隠れたまえ!ヤツは暗殺者ロボットだぞ‼︎」とか叫ばれたので我々は部室の混沌に身を隠した。


「フジサン、スゴイタカイヤマ、ナクシタ、ユルセナイ」ドーコが話した、ますます未来の暗殺者ロボットというのが信じられない。「カタコトで喋りおって!普通に話さんか馬鹿者‼︎」ビシッと指を差しながら無茶な要求をするものだ。「わかった、貴様にもわかりやすく話してやろう」やたらと凛々しい声で喋り出した。「富士山は心の故郷だった、だがそれを消し去った愚か者を地獄に叩き落とすために私は遣わされたのだ。破壊者は全て亡き者としてくれる。」言い終えたと同時にいきなりこちらに向かって走り出してきたので、我々は慌てて混沌を掻き分けた。


そこに立ち塞がったのが不審者だ、「任務する者は何人たりとも許さん!公務執行妨害である‼︎」。

「食いやがれ、我が渾身の一撃!フェータル・クリティカル・ボディシュート‼︎」途轍もなく普通の体当たりをドーコに浴びせた、効くかそんなモンが。ゴーンと鈍い音がしたと同時にドーコがすっ転んだ、ひっくり返った亀よろしく手足をジタバタさせる。「思いの外効くではないか、しかしこれしきの事で屈する私ではない。」横向けに転がり腕立ての要領で立ち上がる。「それではこちらからも仕掛けさせてもらうぞ」まさかと思ったがそのまさかだった。「グランド・ボディ・アタック発動」やはり体当たりだ、腕を振り上げながらこちらの方に走ってくる。「ふん!そのような見え透いた攻撃に当たるっ‼︎」当たるものかと言いかけて思いっきりぶつかった、体がくの字に曲がっている。そのまま混沌の中に突っ込んできたので様子を伺っていた我々は反対側へ慌てて飛び出るしかなかった。


ガッシャーンパリーンと絶対何か壊した音が響いてなお乱闘し続ける、もういい加減ウンザリしてきた。すると阿久津が久しぶりに口を開いた。「オイッ、やるなら外でやれ!タイムマシンが壊れるだろうが!」すっかり忘れていたが確かにそうだ。それでも奴らお構いなしに押し合い圧し合いしている、するとゴットンという音がしたと同時に何だが音がくぐもり始めた。「ア!」阿久津が声を上げ3人とも気がついた、未来からの来訪者たちはタイムマシンにミッチリと収まってしまっていた。3人とも駆け出した時には遅かった、時空跳躍機関が始動し始めた。経験した事のない冷気が周囲を包んだかと思うと我々のタイムマシンは姿を消した。呆然と喪失が一瞬にしてその場を支配した、阿久津なんか崩れ落ちてしまった。


その時、部室の扉が開き顧問の榎田先生がいつも通りの呑気な調子で入って来た。「スゴイ音したけど何も壊してないよねぇ、あとでメンドイ事になられてもいやだしぃ」相変わらず教師としてはよろしくない言葉を発しているが、いつも落ち着きを払っているので我々も気が動転しなくて済むことも多い。「あ、そうそう朝のニュース知ってるぅ?全く酷いイタズラだよねぇ」多分富士山が吹っ飛んだ事だと思うがイタズラで済むのだろうか。「君らが作ってたのとソックリじゃないのぉ、しかも中から出て来たのはブリキの玩具みたいじゃないかぁ、文化祭の出し物とネタがダブるとはねぇ。」


一瞬聞き逃しかけたがハタと気づいて聞き直した。「すいません、中に入ってたのは人じゃないんですか?」聞き返されたからといって先生もあまり動じず話を続ける。「人じゃなくてブリキのロボットみたいなのらしいねぇ、そんじゃあ私はしばらく準備室に戻ってるからなんかあったら呼んでねぇ」と言い残すとまた扉を開けて部室から出て行ってしまった。その直後、我々の心には一筋の光がもたらされた、未来に希望が満ちてきた。「さっきの話…間違いねぇのか?」慌てて取り出した携帯の画面を確認して呟いた「あぁ、間違い無さそうだ…」。「って事は…」宇津井が今日1番嬉しそうな調子で尋ねる。「あぁ、アレは俺たちの仕業じゃないって事だ!」と言い終わる前に「ヤッター!助かったぁ‼︎」と2人が歓喜の声を上げた。「いやぁ〜、一時はどうなるかと…」阿久津が喜びと疲れが混ざり合った安堵の声を上げる。「兎にも角にも、ウッチーの命が助かったんだ、祝杯を上げるとしようや、なぁ!」嬉し泣きでズルズルになっている宇津井の肩に掴んで景気のいい事を言ったが、私は恐るべき事実に気付かされ戦慄した。


















「文化祭の出し物どうすんの…」


end

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