3 英雄たちの止まり木
ガヤガヤと騒がしい喧騒の中に、
酒の臭気、料理の食欲を誘う香りが漂う。
「無事生還を祝しまして、乾杯!」
「「「乾杯っ!」」」
「乾杯。」
ここはいわゆる酒場。
【英雄たちの止まり木】というらしいその名前。
けど、未だにその止まり木は役割を果たしていないというのが、
ここの主人の小粋なジョークらしい。
「はい、おまちどお、
ところでそこの坊や、ここって何ていう名前が知ってるかい?」
ほら来た。
あっ、それと俺、坊やじゃないから。
「英雄たちの止まり木でしたよね?」
「そう、そうなんだけどな…。
はあ…どうしてかそういう奴はこんなところに来ないんだわ。
」
はあ…とわざとらしくため息をついて、
口元を緩ませながら首を振る。
「おい、カバチ!
今日はどんな英雄譚を聞かせてくれるんだい?」
「へい、おやっさん、俺は今日、ゴブリンを倒しました!」
「おう!よくやった!
成り立てにしちゃ、上出来だ!
はい、次、サンタ!」
「はい!僕はオークを!」
「よしよし、次!」
そんな風に励まし、時には面白おかしく貶し、
場のボルテージを上げ、下手な接待の店よりも気分良く、
楽しい雰囲気で飲んでいく。
「ここ、良い雰囲気のお店でしょう?」
「ええ、楽しいお店ですね。」
「それにしてもあなた本当に28なの?」
「まあな。」
このパーティーのメンバーにはここに来る過程で、
大まかな事情は説明したのだ。
「実験の失敗ね…ここに飛ばされたのは別口だっけ?」
「ちょっと知り合いがポカして。」
「本当に不運でしたね。」
「まあ、人生色々あるから。」
「ほう?ガキンチョのくせに生意気ね。」
うりうりと俺の頭を撫でる。
「まあ、見た目だけだからな。」
「ははは、あ〜…悪いけど、ちょっと真面目な話。」
「急にどうしたんだ?」
「酒の席でじゃなくて、
あとで話そうと思ってたんだけど…。
なんかあんた、私達の知らないところで遭っちゃいそうだから…。」
「会っちゃう?」
「いや、遭っちゃう。
ここだけの話、この街にはヤバいのがいるのよ。」
周りを異様に気にして、
顔を寄せてくる。
「ヤバいってどんな風に?」
「生粋のショタコン。」
「あ〜…ラミさんですか…。」
どうやらアンリも顔を寄せて来たようだ。
「知り合いか?」
「あ、はい!サラさんのお姉さんです。」
アンリは顔を赤くして答えた。
俺はジッ見つめ、サラから若干距離を取る。
「ちょ!距離取るな!
私はノーマルだから!
というか、あいつに聞かれたらどうするの!」
キョロキョロと周り見渡し、距離を縮めてくる。
えっ?そんなにヤバいの?想定以上なんだけど…。
「そう、私とあいつは姉妹なの。
だから知ってるの!」
まるで人生最大の汚点だとでも言いたげだ。
「しかもあいつ、かなりの面食いで、
普段は自制が効いてるから、
事件とかにはなりそうにないし、
放っておかれているんだけど…。」
「それなら問題ないんじゃ…。」
サラは首を振る。
「成人する前の子にはね。
なんでも本当の子供は傷つけたくないって。」
「…あっ…まあ…それはキツイかもしれないな。」
察した。ハンパじゃないくらいヤバい。
普段は自制が効いてる分、なおのことヤバい。
制限解除で真っ直ぐこっちに。
「たぶんアストのことかなり好みだし、
姉を犯罪者にはしたくないから、
絶対に年齢をバラさないでね!」
と、サラが念押ししてきたので、頷く。
アンリも私も協力しますからと言ってくれた。
とりあえずラミなる人物はこの街における天敵に認定した。
そして、
女将さんがチラチラとこちらを確認し、
店主がヤベェと顔に出し始めた頃、
「ほらな、
この店のどこにも英雄なんていやしないんだ。
だから、坊主も頑張りな!」
と、ここの一番の年少者に声を掛けて、
厨房の方に戻る。
これがいつもの流れだった。
しかし、今日はこの十八番というべき流れが潰される。
先程助けた戦士ガランは出来上がった様子で、
店主に絡み始める。
「おい、おっさん!」
「誰がおっさんだ、小僧!」
「ひっく、うるせえ、この耄碌ジジイが!
大事なやつを忘れているだろうが、ひっく!」
店主は、こいつ出来上がってやがる、
適当に流すかと相槌を打つ。
「へいへい、そいつは誰のことで?
お前さんが倒したのはCランクのオークだろう?
そいつぁ、英雄とは呼べねえぞ〜。」
はは、確かにな、と周りが囃し立てる。
「俺じゃねぇよ、おっさんども!」
「この少年がオーガを倒したのりゃ〜〜っ!!」
うおっ!
びっくりした。
僧侶のカイくん、静かに呑んでるなと思ったら、
こっちも出来上がってたのね。
店主が真顔でこちらを見ていた。
「えっと…まじ?」
…こくり。
ちなみにオーガはAランクに該当し、
並の冒険者では手も足もでないらしい。
「「「…。」」」
無言の静寂、しかしそれも酔っ払いには意味をなさない。
「魔法でこ〜う、スパッと!」
「そう、そうなんだよ!
一撃でスパッとだ、あっははは!」
「あ〜っはっはっは!」
魔術師アンリと弓使いのサナはいつの間にか、
壁際に移動していた。
二人は両手を合わせて、ごめんと頭を下げている。
ちょ!
そして、俺はいつの間にか自分よりも遥かに大きな大人に囲まれ、
質問攻めに遭うのだった。




