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屋根裏のドブネズミは居間の親子に憧れる

作者: 一布
掲載日:2022/12/16


 いい場所を見つけた。


 暗くて、下に人間が住んでいる。周囲にる虫を食えば、飢えることもない。


 ボロアパート。その屋根裏に住み着いた。


 俺は、人間からドブネズミと呼ばれる生き物。


 屋根裏の床には、亀裂や小さな穴がある。俺はそこから、下にいる人間を観察していた。


 下に住んでいるのは、人間の親子。母親と息子。


 息子は、よく外で喧嘩をしていた。怪我をすることが多かった。(オス)だから、他の雄と争う。争って、勝って、食べ物や(メス)を手に入れる。

 

 勝った奴だけが生き残る。


 老いた奴や弱い奴は、雄でも雌でも死ぬ。生き残った奴の(エサ)になる。


 それが当たり前だ。


 でも、人間は違った。


 母親は、戦いに勝った息子を叱っていた。怪我をした息子を心配していた。


 戦いに勝ったのに、なぜ叱るんだ? 勝って、生き残ったのに。


 母親が体調を崩したとき、息子は必死に看病していた。寝かせて、食べ物を食べさせていた。


 弱った奴がいたら、親であれ兄弟であれ、見捨てるものじゃないのか? 飢えていたら、弱った奴を殺して食うんじゃないのか?


 幼い頃、俺は母親を食った。空腹のところに、弱った母親がいた。生き残るために食った。

 

 自分とはまるで違う生き方をする人間を、俺は、屋根裏から観察し続けた。


 人間の親子は、仲が良かった。互いに助け合っていた。


 そのうち時が過ぎて、俺も老いた。寿命が近付いてきていた。


 屋根裏には敵がいないから、殺されることはない。でも、いつか必ず死ぬ。


 思うように体が動かなくなってきた。虫を捕まえようとしても、逃げられることが多くなった。


 俺の周囲には、誰もいない。俺を助けてくれる奴なんて、誰も。人間の親子とは違う。


「お袋」


 息子は、母親をそう呼んでいる。母親と支え合って生きている。


 あるとき、俺は自分の死期を悟った。ほとんど動かなくなった体。もう、虫を捕まえることもできない。


 もし俺が人間なら、母親が助けてくれたのかな。

 もし俺が人間なら、母親を助けたのかな。


 薄れてゆく意識の中で、俺は母親を呼んでみた。俺に食われて、俺の体の一部となった母親。


「お袋」


 そう呼んでみたけど、俺の口では発音できなかった。ギジィー、という声が漏れただけだった。


 お袋。

 人間って、いいな。


 もし人間に生まれていたら。

 俺は、お袋と仲良くなれたかな。


 消えゆく意識の中で、最後にもう一度、俺は母親を呼んだ。


 お袋。もし人間に生まれたら、親孝行ってやつ、してみたいな。


 俺の鳴き声は、屋根裏に薄く響いて消えた。


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― 新着の感想 ―
[一言] めっちゃ文学してますねぇ。 ドブネズミが人間を観察して、親子の関係を顧みるって、人間同士でも同じことができるよなーって思いました。 ドブネズミはなにかのメタファーなのかなとか、いろいろと邪推…
[良い点] 泣けました。 一生懸命に生きるって素晴らしいことですね。
2022/12/17 08:20 退会済み
管理
[良い点] うわー、普通に本能のままに生きて、天寿を全うしただけなのになんでこんなに切なく感じるのかしら……。 泣けるなぁ。
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