私の正体
「こらっ、リレィ!」
遠くから、声。リレィの姿を見つけ、カリムが走ってきた。
「何やってるんだよ、この阿呆っ」
「……カリム、私の剣はどこだ?」
「って、ハァァ?」
「私はここを出る。色々すまなかった。……で、私の剣は、」
「駄目だね」
リレィの言葉を遮って、カリム。
「今、お前を外に出すことは出来ないし、剣も渡せないな」
「なんでっ、」
偉そうにそう言ってのけるカリムに抗議する。指図される覚えなどない。
「リレィ、しばらくここにいろ。俺がなんとかしてやるから」
「なんとかって、何をだっ? 私はもう大丈夫だっ。一刻も早くここを発って、」
「発って? 発ってどこへ行く? 目的なんか……行く場所なんかないんだろ?」
同情でもなく叱り付けるでもなく、淡々とした口調で言い放つ。その一言にリレィは息を飲んだ。
イクバショナンカ ナインダロ?
どこにも……
「リレィ、俺はお前が何者なのか、多分知っているぞ」
「……え?」
「知りたくないか? 自分のこと」
「今……なん…て?」
嘘だ。
どうして彼が知っているのだ? 自分でもわからないのに、見ず知らずのこの男が私を知っていると? そんな馬鹿な。
「俺はお前がどうしてそんな目に合っているのかわかる。それが知りたかったらとっとと家の中に戻れ」
ピッとドアを指し、カリム。リレィは黙って戻るしかなかった。自分が何者なのか。今まで、知りたくて仕方なかったのだ。けれど誰にも明確な答えを示してもらえなかった。街で一番という占者に占ってもらったこともあったが、何も見えない、と言われたのだ。自分が何者であるか。それがわかれば、もしかしたらこれから先の自分も…自分の在り方も見えてくるかもしれない。
リレィはベッドの上に荷物を投げ下ろし、自分もその横に座った。
「本当に知っているのか?」
後から入ってきたカリムに上目遣いで尋ねる。まだ信じられない。
「ああ、知ってるよ」
カリムは短くそう言うと、椅子に腰掛け、大きく息をついた。
「リレィ、俺は職人なんだ」
「……は?」
いきなり関係ない話をはじめるカリムに、不信な目を向ける。だが、カリムは構わずこう続けた。
「これから話す事、心して聞けよ」
彼の瞳は珍しく、暗く、沈んでいた。