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プロローグ

『……知らなかったろ……』

 苦痛に歪めていた顔を少しだけ、和らげてカリム。

『え?』

 私は心の動揺を一切押し隠して、カリムを見ていた。

『俺、お前の事、好きだったんだぜ』

 ズシリ、と胸に響く。

『……過去形なのか?』

 ふっ、と笑って見せる。

『最後の我侭だ。キスしてくれよ』

 私はわざと眉をしかめて見せた。今、そんな言葉を聞きたくはなかったからだ。

『バカか。その台詞はシラフのときに言ってくれ』

『俺はマジだぜ?』


 わかっている。もう、彼にはわかっているのだ。だとすれば拒む理由はどこにもない。私はゆっくりと顔を近づけ、カリムの唇にそっと触れた。


『間違ってもこんなんで満足するなよ、お前らしくない。めくるめく快楽はまだお預けなんだからな』

『……ああ、そうだな』

 カリムが微笑んだ。それは、極上の笑み。そして目を閉じ、彼は死んだのだ。もう、何をしても目覚めることのない世界へ行ってしまった。私だけを残して。


 ……いいや、

 私は傍らに横たわる剣を見た。

 忌々しいあの化け物を封印した剣。

 カリムの思いが込められた、私にしか扱えない一本の魔剣。これからも、私はこの剣と共に生きねばならないのだ。

 そういう、運命なのだ。



「……リ…レィ?」

 耳元で発せられた声に驚いて目覚める。起きあがった私を見つめていたのは、マシュ。

「……夢を…見ていた」

 私は体中に汗をかいていた。まだ、あの日の事を鮮明に覚えている。あれからもう随分長い年月が流れた筈なのに……。


「大丈夫だよ、リレィ。もう怖い夢は見ない。大丈夫……」

 マシュの手が優しく私の頭を撫でる。心地よく、頼もしい手だ。私はマシュに甘え過ぎているのかもしれない。時々そんな風に思いながらも、安心してしまう。


『ここにいていいんだよ』


 たった一言で私は救われた。マシュの優しさと、私の弱さ。私は、ずるい女かもしれない。それでも、生きなければならないのだ。

私を縛る鎖を断ち切る事は、一生出来ないのだから。


「しかし驚いたな、リレィが倒れるとは」

 マシュが悪戯っ子のように笑った。

「それはどういう意味だ?」

 なにやら含みのある言い方に、私は少しムッとする。

「いや、だってあのリレィが? って思うだろ? 君を知っている人ならさ」

「……確かにね」

 破壊の女神とまで言われた私が風邪で倒れたとあれば、可笑しくもなるだろう。

「さて、じゃあここらで本題に入ろうか」

「ん?」

 マシュの声色が微妙に変わったのを感じ、私は緊張した。心なしか厳しい目。もしかしたら私の体、よくないのだろうか?

「君の体のことだ。リレィ、実はね、」


 マシュは私の手を取った。そして私は、とんでもない真実を突きつけられることになるのだった。


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