プロローグ・ファイナル
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――創造神の神殿。
主神であるシエラは久し振りの仕事を熟しながら、書類整理に励む大天使の方を見る。
「ファリエル」
主の呼ぶ声に、大天使は返事は無かったが目線だけ向ける。
いつもなら「仕事中ですよ」と言っていたところだが、主の表情に大天使は何かを感じて、黙って聞く事にした。
「私は決めた」
主の「決めた事」とは目標だった――少女と共に、などというふわふわとした目標ではなく確固とした決意の表れ。
――私はこれから行く下界を“最後”にしたい。
それがどういう意味を持つのかはファリエルには分かっていた。
主の決意にただ何も言わずに微笑みだけを返す――その微笑には返事も、安堵も、寂しさすべてが含まれていた。
――貴女がそうしたいのであれば、私は応援していますよ。
照れ臭さ――多感な子が改めて親に「ありがとう」と顔と顔を見合わせて言う時に感じるような、普段寡黙な男が恋人に「愛してる」と言う時に感じるような、口数が少ないが信頼のおける友人に面と向かって「お前が一番大事だ」と言う時に感じるようなそれを、ファリエルは言えなかった。言えなかったが、シエラはそれをちゃんと感じ取っていた。
主の運命が善いものであるようにと、終着駅でないようにと、『運命』を司る大天使はただひたすらに願う。
「――――仕事、再開してくださいね」
「……照れ隠し屋め」
「今の倍の仕事押し付けますよ」
「すみません……勘弁願います」
九か月と少し――長かったよとシエラは今は居ないスティーに愚痴を吐く。
「全く……これからはニゲラやバースに負けないくらい濃厚で長い時間を過ごしてやるからな」
ニヤリとした笑みを浮かべる彼女に、ファリエルはただただ引いていた。
** *
帰ってきたスティー、彼女に抱き着くシエラ。
場所はシエラの住屋の前――スティーの帰りを喜ぶシュアにメアル、ノアが「おかえりなさい」と言い、スティーはぺこりと頭を下げる。
「下界へと出発するのは明日の予定だとシエラ様が先程言ってました」
シュアの言葉に、スティーは「わかりました」と元気に返事をする。
「スティーの髪飾りが反応をしていたね。大丈夫だったかい? 怪我はしなかった?」
「――――まあ、最終的にはバース様が助けて下さったので、命には別状なかったです」
「ええ!? 命に係わるような目に遭ったの!? 犯人は? バースはそいつどうした?」
「大袈裟ですよ。身に染みて勉強になりました」
辛くて痛い場面だったが、今となっては今後の気を付けるべきこととして頭に残っているとスティーは怒りに興奮するシエラを落ち着かせる。
ピュトリスに向かう際にあった事、ニゲラと過ごした日々、メトリーの事、バースと過ごした日々――本に纏めれば数冊は下らない程スティーはその日語った。
そして、それを踏まえて下界でしたい事を寝る直前にまで語り――眠たくなるまでシエラは聞いてくれていた。
「要は、楽しかったんだね。スティーが一番知りたかったことは、知れた?」
重い瞼を何とか開けて、スティーは「はい」と答える。
人を好きになる事は、くすぐったいながらも心地良かった。
そして、自分がシエラに数日の間に抱いたあの感情も確信に変わっていた――ちゃんと「好き」なのだと。
下界には、魔法がある――魔法も学びたい。
下界には、迷宮がある――迷宮探査もしてみたい。
下界には、天界とは色の異なる種族たちがいる――関わってみたい。
下界には、様々な種族の「人間」がいる――話をして、仲良くなりたい。
下界には、国によっては文化も特色も住む人間の種族も違う――その違いも勉強してみたい。
下界には、学校がある。学園恋物語のような青春の一ページをシエラと味わえるかもしれない――そのワクワクとドキドキをもっともっと味わいたい。
下界には、勇者という存在がいるらしい――どんな人なのか見てみたいし、話してみたいし、一緒に冒険をするのも良いかもしれない。
下界には、天界に今は居ない神様が居るらしい。人間と愛を育んでいるとも聞く――話してみたい。どんな方なのだろうかと思うと鼓動が早くなる、鼓動の音が大きくなる。
天界では味わえないドキドキ、天界にはない暇のない忙しい時間――勿論、予想だにしていなかった修羅場などもあるかも知れない。越えられない壁が目の前にいきなり現れるかもしれない。
だけど、だけどもそれを仲間と乗り越えるという冒険を、味わってみたい。
欲張りでなければ、下界は楽しめない。
行き当たりばったりでも良いかもしれない。
――天界は、スティーにとっては駅の改札だ。
「乗りましょう神様――私と一緒に」
大穴に、二人して手を繋いで体を投じる。
不思議と浮遊感は感じない。
こちらを見下ろすシュアとメアル、ノア、ファリエルの姿が小さくなっていく。
(嗚呼……私……遂に下界に行くんだ……)
「スティー、不安かい?」
「いいえ、ドキドキします。楽しみで仕方ありません――――これからどんどん、色んな人たちにお世話になって、色んな経験をして、色んなことを勉強して、ずっとずっとドキドキに包まれながら暮らしていくんだって考えると……居ても立っても居られない気持ちがします」
末永く、宜しくお願いします――――そう言った時、シエラは満面の笑みだった。
二人が天界より降りた時――――広大な平原が広がっていた。
「私たち……ここから始めるんですね」
シエラと、スティーの瞳が――――希望に満ちていた。
プロローグ章はこの回にて終了です。
次回より下界を二人が渡ります。