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元人形少女は神様と行く!  作者: 餠丸
2章〜強欲〜
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5th.殲滅


 ゴブリン退治という仕事は、新人冒険者からするとよく「楽な仕事である」とよく勘違いされる。

 曰く――ゴブリンは魔物としては強くない。

 確かに彼の魔物はそこまで強い魔物ではない。補足するとあれば、単体では。


『人間と一緒さ』


 誰かがそう言った。

 古来、魔物にとって人間は天敵として見られていなかったという。ましては龍にとっては羽虫のようなもので、集団で掛かってきて漸く脅威だと言われる。


 四つ目のゴブリンの巣はまさしく、集団の恐ろしさを体現したかのような、ゴブリンの巣であった。

 一番放置してはいけなかった巣だ。

 街からかなりの距離があったことが幸いしただけで、勇者の庇護があって何とかなるならないの問題では決してないと断言できる。

 巣穴より出てくるゴブリンを蟻と比喩出来る程にはわらわらと――そこまで考えた所でスティーは不快感を感じて、玉のような肌にはぽつぽつと鳥肌が立っていた。

 数の規模はどれくらいだろうか。


「シエラ様、あの巣はどれ程の大きさの規模があるんでしょうか」

「分からない……けど一つだけ言えるのは、このゴブリンの巣は元あった洞窟を利用したとかじゃないみたいだ」


 ゴブリンにより構築された巣。

 巣穴の大きさは小規模。恐らくは巣の中にはいくつかのコロニーがある。

 人間が作る建築物ほどは複雑ではないものの、巣穴に関しては見栄えを気にしているかのように整えられた形状をしているし、何より出てくるゴブリンに関しても利己的な印象を感じる。


「スティー。今日一日を使って、このゴブリンの巣を殲滅するんだ」

「わかっています」


 あのゴブリンたちがベレスフに侵攻するかどうかももはや時間の問題だ。


「そして、このゴブリンの巣穴の中には今まで以上に手強い変異体がうようよしているだろうから油断できない」

「はい」

「その為、今日の目標を設定するとしたら?」

「……あの巣のゴブリンの全滅」


 シエラはそのスティーの答えに満足してか、ニッコリとして頷いた。

 このゴブリンの巣を殲滅するのは、少しばかり骨が折れるだろう。だが、ここで漸く二人での、共同作業らしい共同作業が出来る。

 昨日出来なかったこと。


「頑張りましょう」

「うん。とりあえず、外套は絶対に脱がない方針で」

「わかりました!」


 スティーとシエラが、動き出した。


 巣より偵察や多種の雌を調達しに行ったゴブリンたちが帰ってきていないなどの可能性から、この巣のゴブリンの正確な数までは分からないが、一先ず巣にいるゴブリンから倒す事にした。


 シエラが巣のそばに居るゴブリンの動きを権能で封じている間にスティーが地面に手を当てて感知魔法を行使する。

 感知魔法をゴブリンの数の把握をするために用いた理由は、巣の規模を理解するためでもある。

 探知魔法が、任意の対象物を知覚するのに対し感知魔法は対象物を定めず、知覚する。

 後者の魔法を用いてスティーが感知したこのゴブリンの巣の規模に、彼女は目を見開いた。


(この規模の巣を放置するなんて……!!)


 ゴブリンの数――四千は優に超えている。

 巣の大きさの規模は、地下に向けて五十米。広さにして東西に五百米、南北にして七百米程と知覚。その事実を耳にしてシエラは「やばいね……それ」と口にした。


「ゴブリン以外に数百の動物がいます。馬や鹿といった大型の動物です」

「人間は居ない?」

「居ません」

「それが聞けただけでも結構――行くよ」

「はい!」


 追加で今度は探知魔法を行う。

 ゴブリンの種類を知る為だ。感知魔法では地形や敵などの数は知れても、その種類までは近く出来ないという弱みがある。

 探知魔法はそれと比べて、生物の種類等をみわけられるという強みがある。

 そして、それを用いてスティーはゴブリンの変異体がどれ程の種類存在するかを分析した。


「――――――ッ!?」

「どうしたの!?」


 スティーが驚きの声を漏らしたことにシエラが問い掛けると、スティーは驚愕の言葉を口にした。


「す、数百種程……変異体が居ます」


 その言葉に、シエラは言葉を失った。


* * * 


 巣穴より出てくるゴブリンは、雑兵の可能性が高い。

 変異体については何らかの雌の動物が見つかった際に雑兵――いわば変異体ではなく通常種のゴブリンが巣の中へと報せをし、そして戦闘能力の高いゴブリンの変異体が赴く。

 流石はこれほどの規模の巣を構築及び建築するだけの知性を有することだけはある。


「スティー。私の推測が正しいとするなら……」

「何でしょう」


 膂力のみでゴブリンを音もなく絞め殺しながら、スティーはシエラの言葉に耳を傾けた。


「攫われたであろう馬や、鹿などの動物は――魔物である可能性が高い」


 シエラのその発言に、スティーは理由を聞いた。


「ゴブリンの変異体の生まれやすさというのは、実は生まれた際の母体に関係している」


 最初生まれたゴブリンは、通常種のゴブリンと何ら代わりが無い。

 成長の過程で、遺伝子に魔力等の外部的作用もしくはゴブリン自身の鍛錬などにより変化が見られて変異する――そのし易さというには母即ち母体が影響するそうだ。

 し易さの順にまず人間、そして魔物、次に魔力を持たない動物。


「数百種の変異体が存在するっていうことはそれだけ母体の魔力が高いはずなんだよ」

「なるほど……つまり」

「うん。苗床にされている馬や鹿等がもし魔物だったら、倒しても良い」

「わかりました。シエラ様はどうします?」

「一緒に中に入るよ。スティーは進んでいって良いから、私は後ろから来るだろう雑兵ゴブリンを退治する。勿論、変異体もちゃんと相手するから」

「そんな付け加えなくても、シエラ様が楽をするとか思ってませんから……」

「でも、チョットは思ってたでしょ」

「……ちょっとだけ」

「…………あとで、色々オシオキだ」


 巣穴の側にいたゴブリンたちは全て片付けた。

 あとは巣の中へと入るのみ。近付いていけば行くほど、中にはある程度の灯りが灯されているのが見えた。おまけに人間が作っているかのように、壁に窪みを付けてその中に灯りを設置している。

 中にいるであろうゴブリンの知性に驚かされながら、突き進む。


「気を付けて」

「シエラ様も」


 巣穴は外から見た分にはそこまで大きくなかった。だがそれは下の段差が見えていなかったからだと判明した。


(階段まで……)


 優れた掘削技術――計算された内装。

 奥からは宴を楽しむゴブリンの鳴き声が聞こえてくる。


『ィー?』


 スティーとシエラの気配に気づいたゴブリンが一つの部屋から顔を出した。


「シエラ様、ここらで待機を願います」

「スティー」

「大丈夫です。無茶はしません」

「信じるよ?」

「はい。外から来たゴブリンをお願いします」


 顔を覗かせたゴブリンの喉笛を握る。


『ッ――――――〜〜〜〜〜』

「すみませんね」


 そう呟いて、鍛えた握力で握り潰す。一般人が傍から見れば、どちらが悪役か分かったものではないが、これが、冒険者である。魔物に容赦等してはいけない。


 次々に巣の奥の方からゴブリンが出てくる。

 変異体の種類がやはりと言うべきか凄まじい。

 テュワシーの図書館でゴブリンの変異体の名称や特徴は既にスティーの頭の中に入っている。ここに居るのは殆んどがその文献で見たゴブリン達だ。


 恐らく奥の方には索敵などに適した種類のゴブリンがいる。

 迎え討ってくるのは攻撃に特化したゴブリンたちだろう。通路の広さからして大型のゴブリンたちもいると見た。

 通路の幅と高さからして三米のゴブリンも居るか? 感知魔法で知覚した中には大広間らしき場所も見受けられた。


『フゥゥゥゥゥゥゥ…………!!』


 荒い鼻息を立てて、奥の方から大型種がやってくる。

 ゴブリン・バウラ――大型に変異したゴブリン。大柄を武器に戦う。

 それを、スティーは拳で瞬殺してのける。


「甘いですよ。ゴブリンさん――――どんどん来てください。その方が早く済みます」


 スティーの言葉に応じるように、その言葉の意味を理解しているのか、怒涛の小鬼の行進が始まった。

 対するスティーは、血で血を洗う小鬼退治へと行動に出る。


(ゴブリンの種類――その対抗手段も頭に入ってます)


 ゴブリン・ベラウズ――問題無く討伐。

 ゴブリン・クハリ――こちらも討伐。

 ゴブリン・ピット――討伐。

 ゴブリン・ウェング――討伐。

 ゴブリン・アレックス討伐。

 ゴブリン・バレー討伐。ゴブリン・イノカ討伐。ゴブリン・ノンカ討伐。ゴブリン・コロイト討伐。ゴブリン・クェス討伐。ゴブリン・ダイナ討伐。ゴブリン・ズベタ討伐。ゴブリン・デバタ討伐。ゴブリン・シンク討伐。ゴブリン・アフェン討伐。ゴブリン・ミジュマ討伐。ゴブリン・キン討伐。ゴブリン・ヴァンプ討伐。ゴブリン・センカ討伐。ゴブリン・ディオレ討伐。ゴブリン・ヤッケル討伐。ゴブリン・ベアル討伐。ゴブリン・ニナル討伐。ゴブリン・ミゲヴィ討伐。ゴブリン・バーラ討伐。ゴブリン・ジボイ討伐。ゴブリン・ォリー討伐。ゴブリン・キャメル討伐。ゴブリン・ルオト討伐。ゴブリン・セウェル討伐。ゴブリン・ズフィル討伐。ゴブリン・ビマウロ討伐。ゴブリン・イノク討伐。ゴブリン・アイド討伐。ゴブリン・ヅバンス討伐。ゴブリン・ジャンル討伐。ゴブリン・アウル討伐。ゴブリン・リーマン討伐。ゴブリン・サウス討伐。ゴブリン・バンカ討伐。ゴブリン・ガンテ討伐。ゴブリン・シオロ討伐。ゴブリン・ミック討伐。ゴブリン・アイウ討伐。ゴブリン・カリク討伐。ゴブリン・バヤバイ討伐。ゴブリン・ヴァガ討伐。ゴブリン・タヤタ討伐。ゴブリン・カジャコ討伐。ゴブリン・ニタリ討伐。ゴブリン・グリッター討伐。ゴブリン・スノート討伐。ゴブリン・ブリンク討伐。ゴブリン・スクリーチ討伐。ゴブリン・フンプル討伐。ゴブリン・スプラット討伐。ゴブリン・シャッター討伐。ゴブリン・スリンク討伐。ゴブリン・フィズ討伐。ゴブリン・クランク討伐。ゴブリン・プリンクル討伐。ゴブリン・アギオ討伐。ゴブリン・スプリング討伐。ゴブリン・フロプ討伐。ゴブリン・クリップ討伐。ゴブリン・ボンク討伐。ゴブリン・スナッチ討伐。ゴブリン・シャンク討伐。ゴブリン・フリッツ討伐。ゴブリン・スプルン討伐。ゴブリン・クラップ討伐。ゴブリン・クリンク討伐。ゴブリン・スプリンク討伐。ゴブリン・フラップ討伐。ゴブリン・クランプ討伐。ゴブリン・スリンクル討伐。ゴブリン・スクラン討伐。ゴブリン・プランク討伐。ゴブリン・スプリンチ討伐。ゴブリン・フリンクル討伐。ゴブリン・クリンプ討伐。ゴブリン・プランクル討伐。ゴブリン・スクリンクル討伐。ゴブリン・フリンクス討伐。ゴブリン・クリスプル討伐。ゴブリン・ニフエ討伐。ゴブリン・スクランプ討伐。ゴブリン・スリンプス討伐。ゴブリン・ブリンクス討伐。ゴブリン・スクリンジ討伐。ゴブリン・プリンクス討伐。ゴブリン・クランスル討伐。ゴブリン・スプリンス討伐。ゴブリン・フリチル討伐。ゴブリン・キオラ討伐。ゴブリン・スクリンツ討伐。ゴブリン・クリクス討伐。ゴブリン・リンクス討伐。ゴブリン・ブリンクル討伐。ゴブリン・スプリンツル討伐。ゴブリン・プリンチス討伐。ゴブリン・クランル討伐。ゴブリン・クスル討伐。ゴブリン・スクリンクスル討伐ゴブリン・スプランシ討伐。ゴブリン・フランクル討伐。ゴブリン・クリスプス討伐。ゴブリン・スリンクルス討伐。ゴブリン・ブリンクスル討伐。ゴブリン・スプリンシル討伐。ゴブリン・フリンクリ討伐。ゴブリン・クランスルス討伐。ゴブリン・スクリンチス討伐ゴブリン・プリンシル討伐。ゴブリン・スクリンクリ討伐。ゴブリン・フリンクスルス討伐。ゴブリン・スリンクシル討伐。ゴブリン・ブリンクシル討伐。ゴブリン・スプリンチルス討伐。ゴブリン・クリンシル討伐。ゴブリン・フリンチスルス討伐。ゴブリン・スクシルス討伐。ゴブリン・スリンクリス討伐。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!!」


 灯りに照らされて、通路に溜まった血にスティーは自分の顔が映っているのが見えた。


「……流石に気分も悪いです。こんな事……はぁっ……もう二度としたくありません」


 最後あたりでは似通った種類のゴブリンが多かった。

 確か、文献によれば、変異体が成長するに連れて変異の分類は少なくなっていくとあった。よってその名称も似たものになっていく。だが、手強い。

 並の冒険者がこの光景を見れば、裸足で逃げて行くことだろう。

 通路にはゴブリンのばらばらになった肉片や臓物が散らばり、スティーも返り血で着用している外套を血色で染め上げているのだから、誰が見ようとも地獄絵図と言うだろう。


 これだけやってもまだ、全てのゴブリンを倒しきれていないというのだから、いやになるというもの。


「シエラ様、聞こえますか」


 スティーが呼べば、シエラが入口側より声を張って答える。


「聞こえるよ〜。終わった感じ?」

「いえ、まだです。一旦、片付けに来てもらえませんか」


 スティーの言葉にこちらへと向かってきたシエラが悲鳴を上げたのは、言うまでもない。


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