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元人形少女は神様と行く!  作者: 餠丸
2章〜強欲〜
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1st.人攫い

 ディトストルという国はシエラとスティーが今まで滞在していたテュワシー中央街を南方角に二五十きろ程離れた国である。

 南に進んで、それぞれ通過する村で休み休み向かって、だいたい一週間程で到着する見込みをシエラは立て、計画を練った。


「ディトストルという国はどういう国なんでしょうか。治安が悪いとスルトさんは言っていましたが……心配です」


 スティーの不安げな表情と言葉に、シエラは共に歩きながら「大丈夫だよ」と言って続けた。


「テュワシーではスティーに守られちゃったけど、今度は私が守るからさ」

「ふふ、カッコいいです」


 テュワシーを出てから、もう二時間ほど歩き、今の今までずっとそんな話を繰り返しているが、そろそろシエラに限界が来始めていた。

 つい数秒前まで「今度は私が守るからさ」と格好の言い台詞を吐いていたはいいものの、数秒してゆっくりと腰を下ろした。


「?」


 スティーに関してはグンディーの鍛錬により屁でもないが、シエラはメイとの日常間は平穏で、運動とはかけ離れ、運動らしい運動など体育の授業ぐらいでしかしていない。

 この世界――下界の人間たちは身体能力が高い。何せ魔物と戦うなど日常茶飯事、毎年迷宮にも歩いて行くし、テュワシーは乗り物などの輸入はしていない分、工業技術発展国ニットウや魔道具開発の発展国ドルマリオのように輸送車両で国民が国内外を行き来しないので、半自動的に体力も付いてくるのだ。


 だが、シエラに関しては一か月前くらいまで長距離を歩く走るの行為を殆どしていない。

 メイもシエラに「シエラちゃん……負荷のある運動しないと、いつかバテちゃうよ」と言われていたが、柔軟体操や散歩くらいしかしていない――そのツケがここで来た訳だ。

 迷宮に行く時も、途中途中で体力に限界がきて馬車に乗っていたし、神であっても運動をしているかしていないかで人間と同じく持久力に差が出るらしい。


「私がシエラ様を背負いますから、さあ行きましょう? 先ほど見た感じ、村は近いみたいです」

「くぅ~~……情けない神でごめんよおおおおおお」

「大丈夫ですよ。それにシエラ様は情けなくなんてありません!」

(やさしい……!!)


 スティーの背中は、温かかった。

 グンディー先生の猛特訓を受けていただけはある。ちゃんと筋肉があり、女の子らしさの溢れる体でありながら、皮膚の下の筋肉は物凄く上質で力を抜いている場所はもちもちと柔らかく、いつまで触っていても飽きない。


「あまり触られるとくすぐったいですよ。シエラ様」

「おっと、ごめんよ。いい体をしていたのでつい……」

「…………そういうのは、近辺の村に着いてからでお願いします」


 ただでさえ今、我慢しているのですから――そう言いだしたスティーに、シエラは慌てて手を放す。

 その次、肩に手を乗せて上体を起こす。


「我慢……ってどんな?」


 シエラはここで、すっとぼけることにした。


「今、私の手はシエラ様のふとももに触れているわけですよね」

「うん、そうだね。揉みしだいちゃっているね」

「(言い方……)それと、背中にはシエラ様の胸が当たっているわけで………………」


 そこで、シエラは気づいてしまった。

 スティーの体温が明らかに上がっているのを。


「あ……」


 不味い、これは調子に乗りすぎてしまったとシエラは顔を青くする。

 スティーの目線の先、村が見えた瞬間――加速した。

 砂埃を巻き上げながら、尋常ならざる速度でスティーが草地を走破する。足場が悪いということすら気にせず、まるで第二次成長期の男子のような性に対する昂りを見せ、シエラの重さを感じさせずスティーは村に向かっていった。


 ――村に着くのに、数分と掛からなかった。

 背負っていたシエラを下ろした後、村の入り口であろう場所に居た錆色の髪に男性にスティーが「すみません宿はどこですか」と切羽詰まったように話しかける。


(凄いな……)


 シエラはちょっとだけ、感心した。

 かくいう彼女も似た所があり、同じようなことをしているのだが、そこについては自覚がないらしい。

 スティーが男性と話している間、シエラは村の様子を見ることにした。


 ――一見して、寂れた村だという印象を感じる。サグラスが国王を務めるテュワシー国の村であるにもかかわらず、かなり発展途上に見えた。

 テュワシーは基本的に中央街以外は、九割という割合を村が占める。一つの領土、村を貴族が管理し地名等を与える――村の入り口看板には「ファハラ」と書かれているし、地名を与えられてちゃんと管理もされているはずなのに……シエラは疑問を感じて、スティーと話している男性に質問をした。


「あの、ここって……」


 シエラの言いたいことを察したのか、男性は何も気にしていないような表情を変えず、寂れている理由を話した。


「――ここ最近、人攫いが多発してな……こんなにも寂しい村になっちまった」

「人攫い?」


 冷静さを取り戻したスティーが男性に聞いた。

 彼のデュグロスの男イーサンを思い浮かべたが、あの男は人攫いをするような魔族ではないと候補から消した。


(イーサンはその場で強姦して、攫うまではしなかった……)


 数秒間の思慮。その後、男性に対して「犯人像などは……?」と声を掛ける。


「黒い髪色に、三白眼。瞳の色は茶色で背は……結構高いほうだった」

「……えっ?」


 スティーは驚きの声を上げた。

 正直、シエラも驚きを隠さないでいた。

 そこまで分かっているなら、すぐに捕まえられるものじゃないのか? というのがまず第一の疑問なのだ。


「消えるんだよ。俺の娘はまだ無事だが……この前あそこのデフロのとこのサラという娘が攫われた――俺は見たんだ!! 追いかけた! まさかり持って、サラちゃん取り返してやるつってなッ! だけどあの野郎……消えやがった。近くの森まで追い掛けて、辺りをそいつが見回して俺を見つけた瞬間、煙みてえに……サラちゃんごと……」

「…………シエラ様」

「新しい魔法……いや……ちょっと確信持てないな……」


 先程までの雰囲気が一変して、状況も変わる。


 宿を借りた後、スティーとシエラは犯人の能力についての議論を交わすこととなった。


「分身魔法だと思います」


 犯人を捕まえる為、犯人との戦闘になった場合の対策議論――戦闘で相手の能力がどんなものなのかがわかれば、ある程度の対策が立てられる。

 スティーの出した結論に、シエラは待ったを掛けた。


「分身魔法なら、消えた時にサラさんの体はその場に残るはずだ。サラさんごと消えたということはつまり『異収納』の応用……いやでも本人がそこに入ると今度は出るのが難しいという欠点が……」


 そこまで考え、結論を出そうとしたシエラだが、止めた。


「まだ結論を出すには早いか。取り敢えず、この村の人達から情報を集めよう。連れ去られた身内の居る人には申し訳無いけど、こればかりは仕方ない」


 ――夜。この村の夜はテュワシーのように人の声がしない。

 不気味な程静かで、森の方角から梟の鳴き声が少し聞こえる程度だ。少し淋しい気がして、スティーはシエラの手を握った。

 静かな寝息を立てるシエラの寝顔は可愛らしい。いつもは美人だが、寝顔は可愛い。


 そんな寝顔を眺めながら、スティーは眠りに就いた。


 家族が連れ去られた村人に話を聞く。

最初はこの村に来てすぐに話を聞いた男性――錆色の髪に同色の瞳、体格は良いが髪はボサボサで目付きは悪く無精髭で外見を整えていない。左手の人差し指を骨折しているのか、固めていることは気になったが、ジルの話を聞いた。宣伝とまでは行かないが、最近発足したギルドであるということも伝えて、話をきくいた。


「新参ギルドに、こういった業務が務まるのか? 俺は一刻も早く娘を恐怖心から抜け出させてやりてーんだ……ちゃんとした冒険者を呼んでくれねーか?」


 新しいギルドはまだ信用がない――確かスルトもそんなことを言っていた気がするとシエラは思い出し、ジルに対して「信用を得るためにここに来た!」と胸を叩いて言った。

 するとジルはシエラに対して疑いの目を向ける。


(用心深い人なのかな)


 いや、恐らくだが村の娘たちが日に日に連れ去られていることで神経質になっているのだろう。


「話を聞く前に、まずは現場に言って調査ってとこじゃねーのかい?」


 正論だ。


「……ごめん」


 しゅんと落ち込むシエラに、ジルは続けて厳しく言った。


「あと、初対面で相手に敬意もクソもない言動ってどーなんだ」

「すみません……」


 今までの冒険者の活動中ただの一度も言われたことのない指摘に、スティーは「そういう事もあるのか」と学んだ。

 いや、これはその土地の風習だとかも関係あるか。今現在、シエラに態度で説教をしているジルもジルで、シエラに対して人差し指の先を向けて話している――テュワシーの中央都市では人に対して人差し指の先を向けることを最大級の失礼に当たる――ことを見るに、やはり風習か。


「冒険者歴は?」

「や、約一年です」


 シエラ、サバを読む。


「…………一年ねえ」


 シエラの回答に、ジルは振り返っては彼女に「付いてこい」と言った。

 そして、スティーの方にも冒険者歴の何たらを聞き、シエラと同じ事を言えば、ふんと鼻を鳴らして不機嫌そうな顔。


「シエラ様、気にしなくてもいいと思います」


 こそっと言ったつもりだったが、ジルの耳に入り、小言を言われてしまった。

 そして、そろそろ現場に到着という所でジルが足を止めてこちらを向く。


「……?」


 どうしたのか、と怪訝な顔をするスティーにジルが口を開いた。


「この仕事、失敗したらどうする。責任をどう取る」


 答えに、少し困った。


 ――ジルに対する取材は午前で終わらせた。

 次に話を聞いたのは村の端にある家にするミサという名前の女性だ。結構美人な女性で、男性の言う「細身ながらも出るところは出ている」という体型の女性。

 身長はシエラより少し高いくらい。髪は黒髪で腰まで長い、少し吊り目気味で、下着姿で出てきたものだから驚いた。


「ごめんね。さっきまで寝てたからこのカッコなの」

「あ、ああそうでしたか」


 少し不用心すぎないか、とスティーは言いそうになったが、呑み込んだ。

 もし、攫い魔だったらどうするんだとも思った。


「ジルには会った?」


 家の中に案内されると同時、ミサがふとジルの名前を出した。


「会いました」


 シエラが答える。

 するとミサはジルから何かされなかったか、だとか何か嫌なことを言われなかったかだとかを、ミサが溜息混じりにシエラへと聞いた。


「まあ……結構指摘は貰っ……いただきました」

「……その丁寧な言い回しも、ジルから指摘されて?」

「は、はい」

「これからはそういうの、全然しなくていいよ」


 普段着に着替えながら、ミサはシエラへとジルの事について否定的な言い方をした。

 それに対してスティーがどうしてそんな事を、と聞く。


「あの人、あたしの旦那……だった人。最近離婚したの」


 だからか、と二人は納得した。

 道理で、ジルの気分やら雰囲気やらがぴりぴりとしていたのか、と。今迄のは殆んどが八つ当たりだったのだろうか……しかし、ちゃんと正しいことは言っていたしでよくわからない。


「自分の事、結構棚に上げて人に言う感じの男だから。あいつ人に対して人差し指で差すのよ? 有り得なくない? ……この前、左手人差し指折ってやったわ」


 確かに、ジルは左手の人差し指を固めていたな、とスティーは思い出す。


「どうして、別れたんですか?」

「対して働かないクセして、飯食って酒呑んでさ。それだけならまあカスってだけだから我慢したけど……この前あたしの娘殴ったの、酔っ払ってさ」

「それはいけませんね」

「でしょー? あ、ハンナーー!! 出ておいで、お客さん!!」


 スティーとの会話の合間に、ミサが娘を呼んだ。

 とてとてと可愛らしい足音を立てた後、部屋の扉を開けて「こんにちは!」と声を張って挨拶をしてきた。ミサによく似ていて、とても可愛い。年齢は四歳くらいだろうか、十五くらいにもなれば相当な美人に出来上がるだろう。


「可愛いでしょ。毎朝ちゅーってするのが日課。それがないと一日が始まったって感じがしないわ」

「わかります。その気持ち」

「ちょっ……スティー?!」

「……? ああ、そういう関係? 良いね。あたしもハンナと結婚しよっかな〜?」

「するぅ!!」


 聞けば、ジルが村の門で立っているのもこの家から追い出されているからだそうだ。

 元々、ミサはジルの事が嫌いらしく。一回限りの子作りでハンナが出来たことを嬉しいとも……理由は「あいつの種をそれ以上あたしの中に入れたくない」だとか……スティーは少しだけ怖かった。


「ハンナがジルに似てなくて良かった〜」


 そこまで言うなら、何故結婚したのかという疑問が生まれた。

 それを察してか、ミサは縁談という名の強制結婚だったと語る。十二歳での結婚だったらしい。そしてすぐに出させてハンナが出来た、というミサに、今度こそ驚いた。

 彼女はこの村の領主の親戚の生まれで、ジルとの格の差はかなり開けている。ジルは、意外ととんでもない男だったようだ。


「ミサって……何歳なの?」

「十七。ちなみにジルは四十三! あたしの親に泣きながら土下座して「娘さんと結婚させてくれーーーーー」って叫んでた。ヤバいよね……オマケにうちの両親に家まで強請るの。本当にサイアク、嫌い、人差し指だけじゃなく股間の早漏小指も折っときゃ良かった」


 もっと良い男性に恵まれたかった〜とミサは愚痴をこぼす。

 ジルに対する悪口が出るわ出るわ、シエラの表情を見るに、嘘を言っていない。本当に嫌いなのだろう。人への好意を自覚していながら、それを否定する人間に対して暖かい目を向けるシエラが今、戦慄している……。


「そろそろ……止めよう。ハンナちゃんが悪口を覚えてしまうよ……」

「それは確かに……止めるわ」


 切り替えの早さにも戦慄していた。


 そして、話を本題へと切り替えた。

 結論から言うと、ミサは犯人に心当たりは無い。連れ去られた女性との面識はあり。仲が良かったらしく、ジルに対する態度とは対照的に心配していた。


「サラは気弱だから、酷いことされて今もずっと泣いてるかも……」


 サラは、幼馴染みだと言った。

 同じ村で生まれた大切な友達だと、ミサは態度を一転させ、両の太腿の間に両手を載せて、シエラとスティーに頭を下げる。


「お金は払います。シエラさん、スティーさん……サラを助けてください」

「おねやいします!!」


 ハンナもまた、頭を下げた。


「任せてください。ギルド『仁』の初仕事、しっかりとやらせて頂きます!」


 ギルド長――スティーが慈愛に満ちた笑顔を見せながら、姿勢を低く、ハンナと目線を合わせて彼女とミサに誓った。


「その間、ミサさんは犯人に攫われないよう気を付けてくださいね」

「わかりました。気を付けます」


 仕事も休む、とミサは言った。


「じゃ、取り敢えずこれを持ってて。肌見離さず持っておくこと」


 シエラはそう言うと、『異収納』より無地の御守を二つ取り出した。

 何をするかと思えば、人差し指で御守の表面をなぞりはじめ、光ったかと思えばそこには、黒い襤褸を纏う狼と大鎌の紋様が描かれた象徴画――『罪過』を司る神ゼバルの象徴画が表れていた。


「えぇ!?」


 貴女は一体……? と聞くミサに、シエラは答えを出さずに玄関へと向かう。


「さ、行こう。スティー」

「は、はい!」


 こんな簡単に神の象徴画を渡して良いのだろうか。そう思うスティーだったが、御守を大事に抱えて深く頭を下げるミサにそういった心配・・・・・・・は要らなそうだった。


「もう、ジル君の悪口は控えるんだよ。冗談なら良いけど」

「……約束します!」


 ――初仕事が、本格的に始まった。

ミサさんの職業:領主の補佐

彼女は普通に超エリートです。十七歳であることを疑う程度にめちゃくちゃ仕事出来ます。めちゃ美人。スタイルも抜群。

理想の男性像は地球で言うキ◯ヌ・リー◯スさんみたいな方です。最低でも「ありがとう」をしっかり言える男性が良いみたいです。そこがしっかりしてればヒモでも良いとのこと(どのみち一般的な男性より稼ぎ良いから)

後悔していることはジルに初めてを捧げたこと。


曰く「官能小説に影響されて、上手くできると自信満々の、勘違い童貞みたいな性行為をしてくる。十二のうら若い女子の裸に鼻息荒くして、接吻してくるの普通に怖い。思わず平手打ちしてしまった。オマケに早漏い。何も感じなかった」


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