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元人形少女は神様と行く!  作者: 餠丸
1章~テュワシー~
40/60

35th.仁

 ――一週間が経った。

 シエラの気分は回復し、今では明るい笑顔を見せているが、スティーの心配する気持ちは消えないでいた。毎日「今日の気分はどうですか?」と聞く彼女に対し、シエラは何かしら心配を掛けさせてしまっていることに負い目を感じている。

 このままでは関係が崩れてしまう。シエラはそう思った。


「スティー、気分転換をしよう」


 そう提案してくるシエラに、スティーは頭に疑問符を浮かべて「気分転換……ですか?」と聞いた。


「そうそう。最近、散歩をしている時に良い場所を見つけたんだ」


 スティーとの仲が悪いわけでは無い。それがその証拠になるかは分からないが、夜になるとお互いの体を求めていたりもしているし、一緒にご飯も食べる。その日その日には楽しかったことの話などもしている。

 だけども正直に言って、気遣っての事であっても毎朝「今日の気分はどうですか?」と聞かれるにも少々の面倒臭さを感じてしまっている事を否定出来ないのだ。これはマズい……とシエラは危惧する。


 寝間着より着替えて普段着になったあと、向かっているのは街の中でも随一の高さを誇る展望塔だ。

 先日、サグラスより教えてもらった場所で、シエラにとってはテュワシーの中でも好きな場所の番付上位に当たる場所になる。


「そういえば、聞いた?」

「何がですか?」

「サグラスあいつ、ミトさんと試合して負けたんだって」


 スティーにとって初耳の情報に、彼女は目を見開いて「え?」と声を出す。


「このテュワシーに居るって掲示板に書いてあった『世界最強の冒険者』ってミトさんの事だったらしいよ。通りで私が気圧されるわけだ。なんちって……」


 その情報に、スティーはミトに対して畏敬にも近い感情を覚えた。今までで彼女にとって失礼に当たる行為はしてなかっただろうか、だとかの思いが脳裏に過り口端が引き攣る。

 サグラスは原初十二神である。神としての位も高いサグラスより強いということは……つまり、ミトは神よりも戦闘能力は高く、自分なんかでは足元にすら及ばないということでもあり……。


「サグラス様って、神全体の中でどれくらいの強さなんですか?」


 その質問に、シエラは「んー……」と声を出して考えたあと、答える。


「番付で言えば十位以内には入るかな。腐っても原初十二神だし、その中でも魔力の扱い方にはかなり上達してたと思うな〜」


 更に畏敬の念が深まった。

 これからはミトには逆らわないほうが良いのだろう。スティーはそう肝に銘じた。


 展望塔に着いたとき、その塔の高さにスティーは感嘆の声を漏らす。

 その高さ約百五十米程。その高さを見れば、確かに展望室から見る街の風景は奇麗に違いない。


「行こ」


 シエラが入口を指差し、スティー手を引いた。


「は、はい!」


 その塔の造りは、数種類ばかりの岩石が煉瓦のように積み上げられたもので、その直径は約五十米。観光客に人気の場所なのか、塔の出入り口からは二人の男女及び旅行鞄を携行した人々が出入りしている。

 中にはお土産屋等様々な店舗があり、中央にはスティーの知らない物があった。


「アレって何ですかね」


 塔の内部中央、硝子の扉に透けて見える人を乗せては上がってきたり下がってきたりする籠のような一室。

 人を数人載せているのにも関わらず、重さを感じさせない速度で上に上がっていく。口をパクパクさせながら驚いているスティーにシエラは笑いながら答えた。


「アレは、昇降機って言うんだって」

「昇降機……?」

「ドルマリオって国から輸入された機械なんだって。入った人の魔力を使って、昇降機下部にある魔石から重力魔法が発せられて上に上がったり下がったり出来るんだって!」

「へぇ……よく知ってますね。流石シエラ様です」

「あそこに居る受付のお姉さんにこの前教えて貰った!」


 受付にいる女性の方を見て言うシエラに気付いたのか、受付の女性がこちらに向けて手を振った。

 そしてスティーはお辞儀をした後、鼓動を速くさせて昇降機に乗る。


「落ちたりとかしない……ですよね?」


 実を言えばスティーは、高い場所に行くのは初めてだ。

 昇降機の安全性は保証されているとシエラが言うが、彼女は袖を摘んで離さない。


(可愛い)


 幽霊も平気で、最近は筋力が爆発的に上昇して、あのデュグロスにも怖気づくこと無く向かっていくスティー。彼女がこれ程怖がる様子には新鮮味を感じてシエラは頬を淡く染めて笑った。

 やがて、展望室に着いたのかチンという鈴の音と共に、硝子扉が開く。


「ほら、スティー。見てみて、奇麗だよ」


 発生もしていない昇降機の不具合に怯えるスティーに、シエラが声を掛ける。

 そして、スティーは顔を青くしたまま、扉の先の風景を見やった。


「……わあ……!」


 奇麗な景色を前にして、スティーは恐怖を忘れた。

 小さく見える建物の数々。そしてそれぞれ店の前で声を張り一生懸命に働く老若男女が見えた時、高い所が怖かったはずが、その風景を前にして怖さすら消えていた。


「奇麗でしょ」

「はい……奇麗です」


 そう答えるスティーに、シエラは備え付けられている長椅子へ歩き、スティーにも座る様催促した。

 硝子の大窓から見える景色にうっとりとしているのはシエラとスティーだけじゃなく、他の客たちも同様に感動を覚え、絵に収めようとする画家も居る。


「ここの事は、スルトに教えて貰ったんだ。気分転換にこういう景色のいい場所とかに行ってこいって」

「スルトさんが……?」

「うん。依頼を頼んだ自分が依頼後の精神的苦痛を和らげる責任があるとか言って……あいつ、本当……凄いよ。気遣いとか、仕事の事とか……ずっとずっと永い時を生きた私よりずっと大人だ……」


 スルトの事を褒めるシエラの横顔を見ると、少しだけ泣きそうだった。

 だがしかし、彼女は口端を上げてスティーの手を引いて展望室の端にある扉の方に向かう。


「階段がある。そこから更に上、屋上に行けるんだよ」

「……行きます」


 それ以外何も言わず、スティーはその手に従った。

 ――屋上から見た景色は、室内とは明らかに違い、風がありとても涼しい。何より開放感がある。


「――夢の中で、マックスに会った」

「!」

「私……さ。もう人の悩みとか、人が苦しんでるのを見て、偉そうに言うのはやめる。これからはずっとずっと……勉強する。天界からマックスに見られてるって思って、手を差し出して、助ける冒険をしたい。何も言わない」

「それは……」

「神も、人間と同じように、勉強するべきだったんだ。ニゲラとバースはこのことに気付いていたのかな……天界であの二人の悪口とか聞いたこと無いから……多分、そうなんだと思う」


 シエラ様は、しっかり出来てますよ。そう言おうと思ったスティーだったが、今の彼女にはそんな言葉すら、気休めにすらならないだろうと、何も言わなかった。


「メイちゃんの事は、これから忘れようと思っても忘れられないと思う。今でもちょっとだけ寂しい……もっとお話したい……一緒に、花壇に咲く花にお水やって……」

「……」

「でも、本当は関わっちゃいけなかった……って事だよね」

「そんなことはありません」


 即座に否定した。

 学校生活で、あんなにも楽しそうに笑うシエラを見て「間違った道を進んでる」なんてこと言えるわけが無い。そんなこと、あるはずも無い。親友を作ることが間違っているなんてこと、言ってはいけない。


「シエラ様」

「うん……ごめんね。卑屈になっちゃいけないよね」


 落としそうになった涙の粒を拭いながら、シエラは無理矢理笑う。


「こんな私でも、スティーは付いてきてくれる?」


 もう大丈夫。これからは心配しなくていい。

 潤んだ瞳はそう言っているようにも見える。

 スティーの答えは最初から決まっている。


「ずっと、一緒です」


** *


更に日が経ち、そろそろテュワシーを出ようかと話になった。

 学校に関しては、中退という形を取り、アリアもそれに了承。こっそりと学校に行って、メイと出会せばどうしようかとシエラは不安がっていたが、その予想が当たることはなく手続きを済ませることが出来た。


 アリアは今後どうするのか聞いてみると、実家のあるニットウ国に帰ると言った。

 この学校には新たに校長及び教頭が来る――イーサンのような暴君がまた来るのでは無いかと怯え、退職していった教師の代わりも時期に来るそうだ。


「ちなみにですが、ヴィエラさん、アレンさん、レオさんは貴女方と同じく中退しました」


 スティーとシエラから驚きの声が上がる。


「そして、メリア先生とグンディー先生も退職なされました」


 この学校においての優秀な人材が二人も。学校としては大きい傷を負ったとアリアは言った。

 どうして辞めたのかと聞いてみれば、シエラに対してアリアは「貴女方に付いて行きたいそう」なのだと語る。


「ギルドを設立すると、聞きました」

「どうしてそれを……?」


 ――――時は五日前に遡る。


 スルトに朝早く呼ばれ、何かと思えば、彼が言ったのだ。


「シエラ、スティー。ギルドを設立してみないか」


 その突然の提案に、目をぱちくりさせる二人。

 そんな様子に、何故なのかという疑問を察し、スルトは続ける。


「俺たちは今、テュワシーのギルドから半追放状態にある」


 初耳の情報だ。

 ギルドから半追放状態にある今、他国に行くのに様々な縛りがある。冒険者証があろうと非公式的に加入しているのは信用度が低い。

 そもそも、何故半追放状態にあるのかというのがシエラとスティーの思う所。


「ギルド長がそうした。いつかの腹いせだ」


 特に、シエラにはかなりの恨みがあったようだし、こうなることは予測出来ていた事だとスルトは言う。


「他国のギルドに再度登録するにしても面倒だ。査証の取得とか、他諸々……テュワシーのような査証無しで入国出来るような国の方が少ない。そこで考えたのが……移動型のギルドだ」


 企業証と呼ばれる証明書さえあれば、査証の有無関係無しにどの国にも入国が可能であるという抜け穴を利用する。実際、同じ手口を使う冒険者はいるが……難点がある。


「移動型のギルドは高難易度の依頼しか扱えないんだ。軍隊が手を焼くような内容の依頼とか、戦争に関する依頼とか……」

「結構、キツくない?」

「だが、国の事情に行動を縛られないし、自由だ。様々な国に行けるし、何なら稼ぎも良い――なんせ高難易度の依頼を扱うからな」


 もし、興味があるなら――ギルド名と代表者であるギルド長を決めておけ。スルトのその言葉からギルド設立が始まった。


 ヴィエラ、アレン、レオ、メリア、グンディー、フラン、ユリ、そしてミトとスルトの九人に加えギルド長補佐シエラ、ギルド長のスティー。

 ギルド名――――『(ミグゼリオ)


 テュワシーの南門――スルト、スティー、シエラが会話していた。


「最初は、シエラとスティーの二人の行動になる。理由は信用を得るためだ。代表と補佐の二人で高難易度の依頼を達成するか、国の問題を一つ解決するかを選び、任務の遂行に努めてほしい。頼んだぞ、スティー」

「わかりました。そちらはどうされるんですか?」

「俺とミトは情報収集と人員確保――シルヴェルという国に良い人材が居る。フランさんとユリちゃんに関してはギルドに加入したと言っても、それは安全性を確保するためだ。ヴィエラ、アレン、レオ、メリアさんとグンディーさんに護衛を頼もう。サグラス様には話を通してある」


 ギルド『仁』の人員数は合計で十一人。だがしかし、動かせる人員数は四人だけ。


「……一旦、お別れか」


 シエラが名残惜しそうに言った。


「大丈夫だ。すぐに会える」


 スルトが微笑んで返す。


「最初は、ディトストルという国に行け――このまま南に進むんだ」

「その心は?」

「最近、治安に問題が生じているらしい。聞けば勇者の一人が原因との事だ」

「勇者……」


 「勇者」という単語に、スティーが反応した。


「本来は、世界の秩序を維持するのが『勇者』の役割だ。それが、悪性となって国に悪影響を与えているのは……見過ごせないだろう? シエラ」

「……うん」

「勇者一人一人『権能』を持つ。ここは、お前たちが適任だ」


 だから頼んだぞ、とスルトはシエラの肩をぽんと叩いて言った。


「勇者をどうするかは、そっちの方で考えてくれ」


 スルトが別の方向へと歩む。


「またな」

「うん」

「気をつけてくださいね。スルトさん」

「ああ、スティーもな」


 一時の別れ、シエラとスティーの新たな冒険が始まった。


 ミトさんの戦闘能力自体は、バース様と同格なのでマジで強いです。両方まだまだ成長の余地があります。

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