23rd.親友
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ファブリン区、ギルド――手紙にて、知らせを受けたスルトの下にシエラとスティーが赴いた。
ここのギルド長にはもう話を付けてあり、とある一室へと案内され、そこに向かう。
「スルト様より話を聞いております」
詳細については聞かなかったものの、何かを察した様子をファブリン区ギルド長は見せていた。依頼に関する秘密事項――最近起こる強姦事件の進展に関する内容の相談。
扉を開き、相談室の中にはもう既にスルトが席についていた。
「来てくれてありがと」
学校の生徒より実はスルトが多忙の身である事を聞いていたシエラが、スルトへとそう言う。
「依頼の進展についてだ。これは俺が頼んだ依頼――来ない理由もないだろ」
「それもそっか」
そして、シエラの横に居るスティーを見て、スルトが気付いた。
「魔法の技術が上がってるな。それに、体に保有される魔力総量も増えている――スティーの魔力総量は元から高かったから、増えてると言っても微々たるものなのだろうけど」
「え、分かるんですか?」
瞬時に、自分の魔力に関する全ての上達ぶりを見抜いたスルトに、スティーは驚いた表情のまま聞いた。
「分かるよ。俺、そういうの見るのは得意なんだ」
「凄いですね……」
「対人戦にて、魔力が相手の体の中でどう動いて、どこに集まっていくかを注視していると、相手がどういう魔法を撃ってくるかが分かってくる――鍛錬の賜物、いつかスティーにも出来るようになる。俺は、ちょっとした事情から相手の臓器への作用を利かせる魔法を何度も何度もやらされたから、不本意ながら得意分野になってしまった」
そして、その話を終えた後、本題に入る。
ずっと探していた「校長」がセンリ大学校の校長であったこと等、手紙に書かれていた報告の詳細をシエラより語られ、スルトは眉間に皺を寄せて悩んだ様子を見せた。
「何かの因果か……つくづく、デュグロスの変容能力の利便さには驚かされる」
そして、シエラが唸った所に、スティーが昨晩に気付いたことを述べる。
「闇の属性魔力を扱う魔法の中に、精神的苦痛を促す魔法がありましたよね――今まで、被害者が犯人の事を言及しなかったのって……関係あると思いませんか?」
スティーの言い分に、かなりの説得力があった。
実を言うと、精神的外傷をより深く刻み込む魔法にはかなりの技術がいるとされる。つまり、犯人は魔法を扱うことに関してはかなりの手練れ、かなりの技術を有しているということ。
「かなり、こちらとしても苦労させられる相手になる」
「そうだね」
恐らくは、こちらが犯人を追っていることも気付いているはずだ、とスルトは言った。
犯人を捕らえるにしても、彼の隠蔽工作が働いているという事と、このファブリン区の法律に「確証の無い状態で犯人を捕らえることは許されていない」というものがある為、動けない。
「証拠が要る。明るみにするべく、複数人の証言及び証拠品が」
証拠品を得て、証言と共にファブリン区の代表に提出をして、ようやく犯人を捕らえるまたは罰することが可能になる。
人間好きの神であり、この国の王であるサグラスが定めた法律――良くも悪くも、人間が好きなあまり信じすぎてしまう彼の性格がここで出てしまっているのだ。
「サグラスは、頑固な所もある。私が直接「変えた方が良い」なんて言っても「でも、少しは信じてやらないと」とか言うと思う――でも、分からない。交渉するしかない」
だから、スルトにはサグラスと話を付けて欲しいとシエラは言った。
それに対し、スルトは少し考えて――「わかった」と返事をした。
「ミトさんの調子は、どうですか?」
スティーの疑問に、スルトは態度を変えた。何かあったのだろうか、と二人は顔を見合わせる。
「実は……会おうとしても、避けられてしまって……」
ギルドの仕事も休んでいる。
「先日、食事を持って行ったんだ。だけど扉越しに「置いてくれたら、取るから」って言われて、開けてもらえなかった……」
もしや、嫌われたのか? と衝撃を受けた様子をスルトは見せる。
「勿論、ありがとうとは言われるし、味の感想もちゃんと言ってくれるけど……顔を見合わせようとするとなんか「しばらく動いてなくて太ってるから」とか「寝癖が凄いから恥ずかしい」とか言われて……」
「そっか……そっかぁ……まあ、挫けちゃダメだよ」
シエラはそれだけ言って、扉から出た。
「……スルトさん。嫌われては無いと思います」
「本当か?!」
「はい」
ミトは、きっとスルトと顔を合わせるのが照れ臭いのだろう――その事は言えなかったが、スティーは嫌われていない事だけを言った。
「依頼の進展、時折報告しますので――今後ともよろしくです」
「ああ、分かったよスティー。ありがとう」
笑顔で、安堵した様子を見せるスルトに背を向けて、スティーも機密相談室を抜けた。
「スティー。ここからは、油断できないよ――相手が襲ってくる可能性だってある」
証拠が揃うまでは、訓練を怠らないことを、スティーに促した。
「依頼を達成したら……どうします?」
「…………飛び級で、卒業しよう。生徒たちとはお別れになっちゃうけど、またテュワシーに来ようね」
そう言った後――「忘れてた」と一言発し、シエラがスルトの方に戻った。
「言い忘れてた。実はもう一つお願いが――――――」
そのスルトの言い忘れていたことに、シエラとスティーは驚きを隠せなかった。
* * *
夏休みが過ぎ、はや二か月が経った。
季節は秋、時間が経つのは早く、シエラもスティーもそれぞれ仲の良い友達もでき、その交流もあってか時間の経過が早いのをより顕著に感じていた。
その間に強姦被害の話は出てきていない。犯人である校長も見つかることを警戒しているのだろうか。その推測が正しいものであるのかは定かでないにしろ、もう既にこちらの動きは読まれているであろう可能性を考慮しておくに越したことはない。シエラもスティーに対して「暫く、調査を保留にして普通の学生として生活しよう」と提案し、スルトより聞かされた『お願い』の準備もあちらで忙しいだろうと思い、スティーもそれに了承――今に至る。
(でも……正直、何を考えているのか分からないな……)
話し掛けてきたりする――だがしかし脅しのほうは決してしない。
こちらが気付いていることに気付いていないはずがない。褒めるわけではないが、犯人であるデュグロスは頭の切れる人物だ。「バレていたのか」なんて間の抜けたことは言わないだろうし、何より人の嫌がることをするために入念な準備を進めている可能性だってある。
そもそも、こちらが正体を知っていることを察していなければ、奴は恐らく女性に襲い掛かるだろう。
――それがないということを踏まえて、感付いていると考えておいたほうが良いのではないか?
前より聞いていた女子生徒が襲われるということも最近はない。ヴィエラもそれに関して「最近は平和」と言っていたし、現校長は自重している――というよりかは捕まらないようにしている。
(今考えてもしょうがないか……)
シエラは考えていたことを一旦保留とし、昼食を取ることにした。
「メイちゃーん。お昼一緒に食べよ?」
教室の隅でひっそりと本を読んでいた艶の良い黒髪の少女がシエラの方に振り向いた。
「うん。行く……」
返事をすると、いそいそと荷物棚から編み込みの手提げ鞄を取り出したメイは、声を掛けられたのが嬉しいと言わんばかりに笑顔でシエラに付いていく。
――彼女は一か月前いじめられていた所をシエラが助けた少女だ。
灰色を基準とした色合いの上衣と同じ色合いのスカートに身を包み、背丈は小柄、肩の辺りで髪を切り揃え、前髪は鼻のあたりまで伸びている。
長い前髪で顔は隠れているが、その容貌は可愛らしく、シエラにも勝るとも劣らない美少女。いつも自信のない挙動をしており、運動能力は下の下。いじめ自体はシエラの発見の一週間前からされていたらしい――原因は他の教室の一軍だという人物に注意をしたからだとかなんとか……曰く、花壇の花を踏みつけていたからだそう。
暴力及び泥をぶつけられていたり、教材をゴミ箱に入れられるなどの行為をシエラが発見していなければ、今頃どうなっていたか……。
得意な魔法は回復魔法――命の属性魔力を操ることが昔から得意だったらしく、シエラから見てもかなりの上達具合で、いつも驚かされる。
料理も得意で、誰かと結婚した暁には、夫となる人物はきっと幸せな日常を送るに違いない。
そんな彼女がいじめられるとは……世も末だ、とシエラは唸った。創造神が「世も末」だ、なんてやや物騒にも聞こえるが……。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
シエラはメイに首を振った。
「今日……サミヂを作ったんだけど……どうかな」
廊下を一緒に歩きながら、照れくさそうにしてメイが言う。
サミヂとは、麦餅で野菜や調味料、挽肉など様々な種類を挟んだ料理のことだ。メイの故郷の郷土料理らしい。
シエラは「楽しみ」と言って笑った。
「良い景色を見ながら食べたいね。屋上に行く?」
「うん」
階段を上がり、扉を開けて外に出る。
快晴――お弁当日和。鞄を置いて、メイが「じゃんっ」と恥ずかしそうにしながらサミヂを持ち上げる。
対してシエラは「おぉ~」と声を上げ、受け取った。
「美味しそう!」
「召し上がれっ」
がぶり、とシエラが頬張ると、彼女の口内に旨味が瞬間的に広がった。
「ほいひ~っ!」
「ほんとっ?」
「うんうん!」
赤茄子の酸味と挽肉と調味料の均衡が保たれ、シエラの口内には旨味だけでなく幸せも広がる。
シエラの幸せそうな表情に、メイはそれ以上に喜び、続いてサミヂを頬張った。
「うんっ、うん!」
今日もうまくいってよかった――そう思いながら、メイは笑顔で頷いた。
(シエラちゃん。考え事してて心配だったけど……笑顔が戻ってよかった……!)
初めて出来た友達――しかも女神。
同じ教室でも、関わったことのない人に話し掛けられて、助けて貰ったのには本当に感謝している。傷だらけの自分に「大丈夫?」と声を掛けながら手を差し伸べ、起き上がった途端に回復魔法まで掛けてくれて、今となっては一番大切な友達――スティーと恋仲だというのには彼女の自己紹介時に知ったが、その邪魔にならない位置で手助けをしたい。
「シエラちゃん」のちゃん呼びについてはシエラからの要望で、時々「様」と言ってしまうが、彼女からのお願いだから普段から気を付けてはいる。
「シエラ……ちゃんは、家政婦とかって……興味ある?」
「う~ん。どうして?」
「なっ、なんでもっ!」
邪だったか、とメイは聞くのを止めた。
「……メイちゃん。好きな人とかいる?」
「居ないよ」
即答。
「メイちゃんと結婚した人は、すごく幸せになれるだろうね」
「えっ」
「私が男性だったら、お嫁に貰っちゃおうかな~……なんちゃって!」
思考が読まれているかのような時期で聞いてきたその質問に、メイは前髪の内側で真っ赤になっていた。それこそ赤茄子のようだ。
(し、シエラちゃんは……たらしだ…………)
真っ赤になりながら、メイは照れを誤魔化す様に、再びサミヂを頬張った。
そろそろ……文字数を五千から一万に戻すべきか……悩みどころです。




