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元人形少女は神様と行く!  作者: 餠丸
1章~テュワシー~
25/60

20th.伝えたかったこと

ブックマークと評価の数が増えていました!!

三日休んでいたというのに……ありがとうございます!!


 セラー家の屋敷の庭に備えつけられた庭机を挟んで、椅子に腰かけた人の影が四つ。

 サレン、レオ、マックス、そしてセラー家の当主であるトーマス・セラーがその場に居た。

 トーマス・セラー。失脚した時点でマックスは彼の年の事について、齢二百を越すと聞いていた――正確な数値は分からないが、その身体は若々しく保たれている。生まれて二十年ばかりの歳であるようにも見えるのは、彼がこれまでの生活で魔力をよく使うからだろうか――人間の寿命は長いものの、魔力を使わない生活を続けていれば年相応の容姿となる。

 金色の髪に、息子のアレンと同じ瞳、鍛えられた鋼の肉体。


(まだまだ現役……)

「……俺は男色じゃないぞ」


 マックスの視線に気づいたのか、冗談交じりにトーマスが言った。


『いや……そういう事ではない。以前、王宮にて見た頃と数十と年月が経っているのに、見かけが変わらないのだな、と』

「魔法を日常的に使っていれば、歳による容姿の変化など戻せる。センリ大学校で習わなかったのか?」


 話したいはそんな事ではない。

 ――そんな事はマックス自信、自覚していた。だが、中々切り出せずにいたのだ。

 サレンのこと等――聞きたい事が、沢山。

 一番驚いたのは、自分の母親であるセルカもこの屋敷に居た事だ。もう彼女は百という歳を越しているはずなのに、トーマスと同じ年頃にまで容姿に若々しさが蘇っている。


(母さんは……私のことが見えていないようだが……)


 セルカは、かなり鈍感なようで、幽霊と成ったマックスの事が見えていない――見えていない方が良いのだろうが、少しの寂しさを彼は感じていた。

 その一方で、サレンはこちらの事が見えている。

 俯いて、死んだ身となったこちらの様子を、窺っている。


「ディアンス。気になるか」


 サレンとの出会いを、とトーマスが言った。

 聞きたくないと言えば、半分嘘になる――どういう経緯で、サレンはセラー家に引き取られたのか、などと聞きたい。

 だが、聞きたくないという心情がもう半分。もう死んでいるし、聞いたとしても何の意味にもならない。元はと言えば、貴族の仕事は彼女の為にやっていた事だ――愛していた。

 ――最後には、歪んでしまっては居たけれど、愛していた。気持ち悪いと思うだろうけども、愛していた。愛していたからこその、仕事だった。だから、聞きたくない。


(でも――――)


 セラー家に居て、幸せそうな顔をしているサレンを見て、安心感が生じていた。

 複雑な心情、自分自身よく分からない。寂しいような、嬉しいような、悲しいような。


「……俺は、屋敷の中へ戻る」

「私も……」

「サレン。それはいけねえ……ディアンスの矜持の為にも、話しくらい……聞いてやりな」

「話す……ことなんて」


 ぽん、とサレンの金色のさらりとした長い髪に手が乗せられる。


「悪口を言われたら、俺に言え。ここまでの旅分の見返り、暫く帰ってこなかったアレンの戻るきっかけ――それきっかけがディアンスよ。お礼に話しくらい聞いてやりな、サレン」


 ――そうまで言いきるトーマスの器量に、サレンは惚れた。察した。

 翡翠色に輝くその美しい瞳がうっとりとしていて、マックスは尊敬の念を向けると同時、少しだけ嫉妬した。

だが、嫉妬するような権利など自分には無いと、ただただ自分に言い聞かせた。


 屋敷の中、入ってきたトーマスと四人は会話していた。


「嬢ちゃん。下着は何色だ?」


 挨拶をされるかと思えば、開口一番にそれだった。

 セラー家の当主は女好き。美女と聞けば真っ先にその足を運ぶ、仕事に対しては腰が重く中々動かないらしいが、女のこととなれば、やる気もヤる気も見せる、と。


「助兵衛」


 スティーに対して下着の色を聞いたトーマスに、シエラが言う。


「助兵衛な奴は嫌いかい? 神様よ」

「嫌いじゃないけど、時と場合と場所を考えて欲しかった」

「俺はいつだって、こういう感じさ」

「…………アレンとレオとの約束事を果たすまでは見せない」


 そう返すシエラに、トーマスが「約束事?」と聞いた。

 そして、シエラの代わりにスティーが男子二人と交わした約束を彼に耳打ちにて教えた。

 アレンと、ヴィエラに退室を促し、トーマスが言った。


「なんだソレ、俺も混ぜてくんね? 俺もその情報知ってるからさ」

「――――ホントに?」

「ああ、デュグロスのあれだろ? 最近、女が犯されて殺されてって事件の……」


 女好きとして、女が殺されるのは阻止したい。


「一年につき、嫁は一人増やすつもりで数万年は生きたい――限りなく女抱きてえ、女が減って貰っちゃ困る訳だな」

「強欲で色欲」

「悪いか? 神様よ」

「悪くないよ」

「だろ? 俺に抱かれてみるか?」

「私はスティーを愛してるから」

「おっと、そりゃ割り込んじゃいかんな」


 まあ、少しここらで世間話でもしよう――トーマスはそう言って、スティーとシエラと一緒に部屋を出た。


 レオと、サレン、マックスの所に、一人の子どもが立ち寄った。


「母様」


 サレンと、トーマスの間に出来た子の一人だ。

 歳は五つ程か、その女の子の名前をクララとサレンは言った。人見知りが激しいのか、レオの姿を見てはサレンの陰に隠れる。サレンと同じ髪色、同じ瞳の色――まるで分身のよう、よく似ている。

 マックスが彼女に話し掛けようとした時、彼が幽霊であることを察して怖がるクララに、サレンは少しばかり笑った。

 歳五つ――かつての息子と同じ年頃。


『君に似て、可愛らしいな』

「…………お世辞? 余計よ」

『そんなつもりでは、無かった……ちゃんと褒めているのだとも』


 サレンの機嫌を何とか取ろうとするマックスに、彼女は聞く耳を持とうとしない。

 今現在進行形にて愛する夫、トーマスから言われたから話をしているだけ――ぴりぴりとした空気の中で、クララが「母様、怖い」と声を出した。


「ごめんなさい。クララ」

「……そのお化けさんのこと、嫌いなの?」


 いつもは人の話を最後まで聞く母が、今回ばかりは相手の話に耳を傾けないその様子に、クララが聞いた。


「そうね。そうよ」

「どうして?」

「私の大切な物を、失わせたから」

「母様の、大切な物」

「幸せな時間を作ることに、見向きもしてくれなかったから……」


 嫌いになって、愛する人が変わって、子供も産んで、もう忘れてしまえると思っていたのに。


「どうして……忘れる直前に、来るのよ……」


 口を真一文字に引き結んで、涙声にてサレンが言った。

 同じく、セラー家に身を置いているマックスの母であるセルカも、彼のことを口にしなくなってきたというのに。


「分かってる? 貴方、お義母さんの目には姿が映ってないのよ……」

『分かって、いる……』

「お義母さん、貴方が死んでること……知らないのよ」


 離婚したことを残念がっていたセルカは、マックスの事を口にするたびに「元気かしら」と一言、言うのだ。その度に「きっと元気ですよ」なんて言わされるこっちの身にもなってほしい――と口にした時、サレンの涙が溢れだした。


「頑張っていたことは分かるわよ。公爵になって、忙しい――分かってたわ。でも貴方……私の事が視界から外れてた……!」


 歯軋りして、マックスを睨む。


「――行きましょ、クララ。この人は、酷い人だから、近づいちゃいけないわ」

「母様……?」


 席を立ち、その場を離れようとするサレンの背中を、マックスは悲しそうに見やった。


「――――言えよ」


 ここで男を魅せろよ――レオが言い、マックスは「待ってくれ」と声を張る。


『――――私が此処に来たのは、君に謝る為なんだ!!』


 どれだけ謝っても許されないことは承知しているが、ここで謝らなければならないと、マックスは思いのたけを全て吐いた。


『何もかも、間違っていた……申し訳ない。悪かった……いや、違うな……ごめん……済まない』


 謝る為の言葉が、全く口から出てこない。

 こういう時、何と謝れば良いのかが分からない――元妻の彼女に、何と謝れば許してもらえるのか、分からない。


「ごめん、済まない、で済むとでも思ってるの!?」


 マックスに、サレンが叫ぶ。

 病気の息子を、放って仕事に明け暮れて、心配の一つや二つもせずに、金だけ渡して病院に連れて行けと言った彼にひたすら絶望した趣旨を、サレンは口々に言った。

 夫婦喧嘩すら見た事がなかったクララが泣きだす。


(ああ……消えて無くなりたい……)


 マックスはそんな事を、ふと思った。

 だが、シエラの言葉が脳裏に過る。


 ――『人間はよく、病んだ時に「自分は死んだ方が良い」なんて言うね』


(変わるのだ……)


 生きてはいないが、今こそサレンに誠意を見せる。


『――――君が幸せに生きていて、良かった!! 私は死んでしまったが、君が生きていて、私は安心している……嬉しいよ。母さんも……生きていて良かった……謝る言葉が見つからないのは、済まない』


 額を地面に付けて、土下座をしながら叫んだ。


「なに、それ……」


 駄目か、とマックスは意気消沈した。

 言葉を間違えたのか、もう思いつく言葉もない。


「生きた状態で、言いなさいよ……」


 顔を上げる――――サレンは、泣いていた。


「――――マックス?」


 セルカの声が掛かった。

 泣いていることを悟られぬよう、涙を拭うサレンの横を、すれ違う。

 見えないはずだった――彼女は鈍感で、霊感が全く無く、マックスの事など視界には入っていないはず。


『み、見えるのかい? 母さん』


 マックスが死んだことを、知った瞬間だった。


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