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元人形少女は神様と行く!  作者: 餠丸
1章~テュワシー~
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16th.特訓


 魔力を練る、それぞれの属性魔力を使い分ける――魔法を放つ。


「魔法を自在に操る為には相当な数の反復練習をする必要がある。気を抜くなよ!」


 魔法科教師グンディーの指導に、練習場を走りながら、スティーはひいひいと悲鳴を上げて、初等魔法を空中に放っていた。


「ど、どうして……はあ…………氷の魔法なのに、火の属性魔力を使うんですか……はあ……」


 スティーの額には大量の汗が滲み出ている。


「つべこべ言わずに、無詠唱で出来るまで練習! 魔術理論は昨日お前に叩き込んだだろう!」

「ひえ~~っ……」


 魔術理論――即ち魔力を練って、任意の魔法を放つまでの魔力の組み込み方を人間が記述したもの。

 魔法を『癒傷』以外使った事がないというスティーに、グンディーは昨日彼女に初等教育で教えられる魔法の魔術理論を徹夜で叩きこみ、そして今に至る。


「魔術師になろうとは言うなよ!? それは甘えだ!!」

「魔術と魔法――どう違うんですかあ~っ!」

「魔法陣や、神聖言語など予め用意されたものを、物に付与するなどして物体を媒介して魔法を発動するのが魔術だ! 自身の魔力を魔法陣等無しで練って放つ――それが魔法だ! ちなみに魔術師になるのにも、陣学じんがくという学習を得る必要がある! 魔導士のがよっぽど楽だぞ!」


 女性としては高身長、褐色の肌、短めの茶髪に同じ色の瞳を持ち、服装は肌の露出が多い青を基準として設計された戦闘服――そんな彼女、グンディーは厳しい。

 無断で休憩をしようものなら、倍以上の練習を課せられる。


「休むなっ!!」

「げ、限界です~!」

「さっき無断で休憩した罰だっ!! 立てアマディウス!!」


 厳格活発――グンディーを言い表すならそれで言葉としては十分だろう。

 スティーの魔力量は神と肩を並べられるほどで、ほぼ無限に近い――グンディーにとって彼女は「鍛え甲斐のある金の卵」なのだ。厳しいのはそういう訳もある。


「休憩したければ命の属性魔力を使って自分の体力を回復させろ!!」

「は、はいぃいい!! い、『癒傷』…………」

「馬鹿者っ!! それは傷を癒す魔法だと昨日教えただろうが!!」

「うへえ……!」


 遂に、ばたりとスティーが倒れた。


「――寝るなっ」


 ぺちぺちとグンディーがスティーの頬を叩く。

 それに対し、もう動けませんと弱音をスティーが吐いた。


「そういうのは、魔力が枯渇してから言うのだ。仮に魔力が枯渇しても、熟練の魔導士は自分の魔力が回復するまで、周りの環境にある魔力を使って魔法を放つ、お前のように「もう無理だ」などという魔導士など見た事ないぞ――お前もそれくらいになって貰わなきゃ困るのだ」

「私は困りませぇええん」

「まったく……屁理屈を言うな。元々はお前が「魔法を教えてください」と言ったのが原因だろう」


 セニョーラ先生なら、もっと優しかったかもしれないのに――グンディーのその発言に、スティーはうつ伏せで人選を間違えたことを後悔した。


「人選を間違えたと思っているな?」

「うぐっ――――」


 今日は休日――それだと言うのに、教員としての仕事に励むグンディーの優しさにスティーは気付かない。

 しかし、教えてもらっているという立場であり、感謝はしていた――――こんなに厳しいとは思わなかったが。


「何故、私を選んだのだ」

「初めてこのセンリ大学校に来た時、グンディー先生が魔法を生徒に教えていたので…………」

「なるほど」


 編入して数日であるが故に、スティーは魔法科の先生をグンディーしか知らなかった事を明かした。

 もっと、教師陣の名簿を見ておくべきだったと反省する。


「やれやれ……――体力を回復させてやる。頑張れ頑張れ」


 そう言って、グンディーはスティーの頬に触れ、体力を回復させる魔法である『快活パシリエ』を掛けた。

 鼓動が最初、とくんと強く跳ね、みなぎる感覚がスティーの中に宿る。


「お、おお……!!」


 体力の回復をしてもらったスティーは起き上がって、口に入った髪を吐き出しながらグンディーに感謝した。


「……疑問なんですけど、走りながら魔法を放つ必要ってあるんですか?」


 感謝を述べた後にそう言ったスティーに「今更か?」とグンディーは答えた。


「お前、敵がじっとして動かないと思ってるのか? 敵が逃げればこちらも追い掛ける――当たり前だろう。魔力を練りながら体力も付ける。効率が良い特訓だろう」


 グンディーは、笑った。

 その笑顔は大変美しいのだが、スティーには鬼の笑みにも見えた。

 このままでは、体力が尽きて過労で倒れてしまう――何とかしなければ、とスティーは何か別の方法を探す。

 体力を消費しないまま、走る魔法は無いだろうか――――そう思った時、聞かずともグンディーの口から彼女にとって衝撃的な言葉が出た。


「体力を消費させずに走ったり、移動する魔法は――――雷の属性魔力を扱う魔法だから、お前は暫く使えないな」


 その魔法は『動活ヴァーケン』という魔法である――普段無意識に脳が発している電気信号を自分で考えながら、雷の属性魔力を微量で調整しつつ、命の属性魔力にて常時筋肉の疲労を回復し、調整した雷の属性魔力で筋肉を動かさなければならないという難易度の高い魔法だ。


「――――――――ぁぁぁぁぁぁああああ…………」


 グンディーの口から伝えられた魔術理論に、スティーは美貌に似合わず、醜い悲鳴を漏らす。


「雷系統の魔法の中では中等難易度だが」

「――――――――ヴぅぅぇぇえええええええ…………」

「反復練習すれば、割と簡単だ。お前にはまだまだ無理だけど」

「………………帰りたいです」

「駄目だ。「帰りたい」一回につき、あと二時間追加」


 悲鳴が、練習場に響いた。


 寮、自部屋――体を使わない勉強と違って、魔法の練習は天界でしていた言語学習などとは比べ物にならない難しさだとスティーはシエラに弱音を吐いた。


「体に動きを覚えさせるのは大変だからね。魔法も同様だよ」


 シエラがそう返すと、スティーは枕に顔をぼふんぼふんと弾ませて「グンディー先生が厳しすぎます」と愚痴った。


「絡繰りを操作するのと一緒。覚えてみれば意外と簡単で、大半が「何でこんなの、難しいって思ってたんだろう……」って思う時が来るよ」

「そうでしょうか。自信がありません……」


 魔法を使う中で、コツを掴めば簡単になる――どの分野においても同様の事だ。


「グンディー先生は、理論的に物を言う性分じゃないもの。仕方ないわ――頑張りなさい、スティー」


 部屋の反対側より、シオンの激励が淡々としてスティーに掛かる。

 一方で、シエラの方は寝台にうつ伏せで寝転がりながら、魔術理論研究部への報告書の作成中――彼女も彼女で頑張っているらしい。

 ――この前の「修繕魔法」に関する報告書だ。魔法名『蘇修繕チェイラー』という文面に、スティーは魔法名を呟いた。


「そ、チェイルの名前から取ったの。どう?」

「――――微妙ですね」

「原初十二神様の名前を元に、だなんて罰当たりも良い所ね。それに、ダサいわ」


 名付けに疑問を述べるシエラに、スティーとシオンがそれぞれ評価を述べる。


「酷い…………」

「ダサい魔法名名鑑に載るくらいはダサいんじゃないかしら」

「酷いっ!!」


 シオンの酷評に、シエラが立ち上がり、彼女の布団を奪った。


「ちょっとっ! 寒いじゃないっ!! 今日の夜は冷え込むって気象報がされてたの知らないの!? 私寒いの無理なのよ!!」

「知らないねっ。あったかいなあ、あったかいなあ……」


 シオンの布団を掴んで離さないシエラ――こうなっては彼女は梃子でも動かないだろうと言うスティーは、仕方が無いのでシオンを自分の布団に入れた。

 そして、疲れに目を閉じ、夢の中へと意識を投じた。


 ――グンディーに尻をひたすら叩かれながら、岩の属性魔力の練り上げに勤しむ夢を見た。


「――――し、尻を岩にする魔法は…………ないんでしょうか……痛いです……グンディー先生……」

「どういう夢を見てるのよ。ある訳ないじゃない」


 スティーの寝言に、シオンは突っ込みを入れた。


 翌日は、水の属性魔力を利用した魔法の特訓に励むことになった。


「昨日はよく眠れたか?」

「……ね、寝不足かもしれ――――――」

「元気なようだな。よし、今日は水の属性魔力に関する魔法だ、バシバシガンガン特訓だ!」


 厳しい特訓を避けたいが為に、優しい特訓を嘘にて狙い、視線を横にずらして言うスティー。そんな彼女にグンディーは食い気味に言った。


「そんなああああああぁぁぁ…………」

「お、元気良いな」


 力なく叫ぶスティーに、笑顔でグンディーは魔法を使う。

 生成魔法――グンディーの横には鉄の重りが付いた棒が大量に現れた。

 これをどうするのか、まさか……これを持ち上げる特訓を、とは言わないでしょうね――そう思いながらスティーがグンディーの顔を見ると、彼女は笑顔、正解である。

 それが水の属性魔力とどう関係があるのか、スティーの顔に疑問が宿る。


「人体の体の大半は水だ。それを、操る事が出来るのも水の属性魔力だ」


 普段、到底持ち上げられないような重量でも、水の属性魔力にて身体強化を促せば、楽に持ち上げられる。


「この重し一つにつき、並の人間二人分の重さがある」


 片手で軽々と持ち上げながら、グンディーがスティーに言った。

 人間一人分? そんな重さをこんな細い腕で持ち上げろと? ――スティーは自分の腕を見ながら思った。


「無理だと思いますッッ!!」


 ピシッと手を挙げて、スティーは言った、言い切った。

 こんなの持ち上げたら骨が折れて、血反吐ぶちまけ、肉は裂け、重さで以て挽き肉状、死んでしまいます――そう明言する。


「そんな訳ないだろう――――あ、そうそう」


 体力を消費せずに行動する魔法は雷の属性魔力による魔法――――


「あれは一部嘘だ」


 水の属性魔力を体内で、命の属性魔力と共に血液へと含ませれば、疲労などは無視できる。


「雷の属性魔力を扱うよりか簡単だぞ~」


 それこそ、相当な特訓と肉体鍛錬を積んで、体内に魔力を滞在させられる頑丈さを持った体を手に入れる為の特訓が必要だが――そう語るグンディーに、スティーは気絶しかけた。


 ――肩が、痛い。


「ふぐぎゅににににににににににににににに…………!!」

「食いしばりが足らん。今まで、歯応えのある食べ物を食べて来なかった、とか言い訳したら許さないからな」


 水の属性魔力を用いて、持ち上げようとするも、中々持ち上がらない。

 汗が一向に止まらない。肩に乗せられた重りが「高い景色見せてよぅ」などと煽ってくる幻覚までもを見た。


「ちなみに、トールセンがいつも振り回している大剣はそれと同じ重さだ」


 ヴィエラの真実に、スティーは言葉を失った。

 こんな重さのを、片手でぶんぶん振り回していたのか――――あの服の内側は筋骨隆々か?


「ちなみにトールセンは私の教え子でな。最初からあの大剣をぶんぶん振り回していたぞ――彼女は才能がある」


 それに見倣えとグンディーは言うが、スティーは「私には才能が無いのでッ!!」と若干キレ気味に答えた。


「うるさい」

「ふぎゅっ!?」


 顔を掴み、グンディーは顔を近くまで寄せて言う。


「龍のクソを食わせてやろうか……馬の糞が良いか?」

「すみません。頑張ります」


 グンディーは、恐ろしい。


 ――水の属性魔力は、文字通り水に関連する魔力だ。

 水を操る魔法もこの属性魔力を扱う。無論、液体であれば水である必要はなく、水銀などを操れば強力な魔法になる。

 一番身近にある水分は、体の水分である。初等教育では、自身にある水分を、操ることから始まるのだ。


「血液に含まれた栄養を、飽和状態寸前にまで溶け込ませるように想像しろ! 栄養とは即ち水の属性魔力だ!! 魔力の練りが甘ァい!! 上がっていないぞ!!」


 バシン、とスティーの尻がグンディーによって叩かれる。


「すいません!!」

「謝るだけか!! 謝るなら行動、誠意を見せろ鈍間のろまめ!!」

「スァーセェンッ!!」


 最初にグンディーが持ち上げていた重りは、三段階中一段階目の重り――今スティーが持ち上げているのは人間三人分の重さがあるもの、二段階目だ。

 一段階目の重りを五十回持ち上げられるようになった後、それが来たのだ。


「見てみろ! いいか。太腿の筋肉に含まれる水分をもっと奮起させるつもりで、筋肉に力を与えろ!!」


 手本を見せるように、グンディーが三段階目の重り、人間五人分の重さの物を肩に乗せ、持ち上げる。


「へェい!!」

「安心しろっ、お前は才能が無い訳じゃない。魔力の多さ即ち魔導士としての未来への希望でもある!! 最初から持っている魔力総量が多ければ多い程、その成長は早いのだ! お前のその腕輪に刻まれた神バースの象徴画があれば猶更のこと!!」

「ほ、本当ですか!? ――ぉわーッ!?」


 急に褒められ、嬉しさによって力が抜け、スティーは重量に潰れかける。


「お、おい力を抜くなぁっ!?」

「い、いたぁい…………」


 膝ががくんと落ちて、地面に強打したスティーにグンディーがすかさず回復魔法を掛ける。

 なんだかんだ言って、グンディーは優しい一面も持っていた。


 空の色が紅く染まり始めた時、ようやく特訓が終わった。

 差し出される麦餅のまかないに、スティーはがっつく。


「また来週の休日だな――次の特訓は。……なんなら放課後にやるか?」


 全身が筋肉痛、恐らく明日は動けない――スティーはもう今日は帰って入浴したらすぐ寝ようと心に決め、グンディーの言葉など耳から耳へと流れていっていた。


「部活がァ……あるのでェ……」

「そうか」


 夕陽が輝いている――汗を拭く為の布を肩に掛けながら、スティーは肉の挟まれた麦餅を咀嚼し、グンディーの誘いを断る。正直、もう二度とやりたくないと思った。

 だが、しかし依頼の達成の為には魔法の技術の向上なども、必須である事に間違いは無いのだ。

 戦闘特化の魔族、デュグロス――シエラとアリアの戦闘を先日に見て思ったが、シエラに犯人を撃退する事を全て任せてしまうことになることが、嫌だった。


(特訓は辛いし、きついし……二度とやりたくない。でもやらなきゃいけませんよね)


 天界でおこなったバースとの運動を思い出す。


(バース様とした運動は楽しかったですね……限界が来たら「お疲れ」なんて言ってバース様が飲み物を差し出してくれて……ふふふ……重量挙げもあったけど、グンディー先生とは違って、軽量からちょっとずつって感じでしたっけ……)


 グンディーの方を見る。


「ん、なんだ? 私の顔に何か付いてるか?」

「いえ……」

「――――そうだ。お前、部活はどこに入ってるんだ?」

「魔術理論研究部です」

「なんだ。私が顧問を勤めてる所じゃないか」


 スティーは、気絶した。



スティー「属性魔力って、どうやって使い分けるんですか? どう意識すれば……」

グンディー「お前、それ「手足はどうやって動かすんですか」って言ってるようなもんだぞ」

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