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元人形少女は神様と行く!  作者: 餠丸
1章~テュワシー~
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15th.晴れた疑惑


 アリア、十歳――幼少期。


 その当時よりデュグロスの中でも戦闘に於いてのアリアの才覚は並のデュグロスよりも遥かに優れており、同族の中では最強の名を欲しいままに手にし、そして集落の同族より崇められる立場であった。

 色白症の為、デュグロスによる変容能力をしても髪の色と瞳の色を変容できずに居たが、その戦闘力とあってはそれも最早どうでもいいことと化し、かつては最強の戦闘神バースの感心すらも我が物とするだろうとも言われていた。


 だが――――


「アリアちゃんって…………」


 同じ年頃の友達からは。


「なんだか、ちょっとだけ……」


 本人も不本意な評価――――


「あたま、よわいよね……」


 少しばかり、彼女は、知力に疎い。


** *


 年齢、三十六歳とは到底思えない容姿――声音の美しさがシエラとスティーに向けられる。


「すみませんでした……」


 普段、利用されていない部屋で、スティーとシエラに五体投地の謝罪を見せるのは長く美しい純白の髪に、宝石のような紅い瞳を持ち、絶世の美貌をも持つ色白症のデュグロス――アリアである。

 シエラは彼女が「阿保の子」なのだろうという事は何となく感じていた。

 戦闘に於いての感性と言うのは才能に溢れていると思うが、彼女はどうやら頭が悪いらしい。

 シエラとスティーの編入する時期と、女子生徒の自殺の件数が倍以上に膨らんだ時期がほぼ一致することを発見した時、彼女は「私、今世紀最大の賢さを誇ってる!?」と自身の判断を疑って信じなかったようだ。


「スルトから、自殺者の数が増えているのは事前に聞いているよ」


 シエラの言葉に、アリアが小さな声で、消え入りそうな声にて「はい……」と落ち込んでいた。

 確かに……妙だな、と思うのは当然の事だと思うが――とシエラは続ける。


「疑うのは良いけど、本当に犯人だと思うなら、決定的な証拠があるなら兎も角、最初は泳がせた方が良いと思うな」


 冤罪で捕まって処刑された人が過去にどれだけいると思っているの? そんなシエラの言葉にアリアは泣きそうにも「しゅみません……」とどんよりとした雰囲気を醸し出す。

 元より、女子生徒の自殺が増えていることに関しても調査はするつもりなのだ――それを踏まえてスティーの方からアリアへと事情を話す。


「この学校の誰にもこの事は言及しないでください」


 スティーの忠告に、アリアは「誰にも言いません!」と言うが、シエラは本当かどうか怪しいとジトリとした目付きにて彼女の顔を見た。


「お、夫から、結んだ契約を反故にするのは、人としてあってはならぬ事だ。と言われて以来、ずっと約束はちゃんと守るようにしてます!」


 それが約束を守る証拠に繋がるのかは定かでは無いが、嘘を言っていないようなのでシエラは良しとする事にした。


「アリアちゃん。変容能力ってどこまで出来るの?」

「集落を出てから、一度もした事がありません」

「え?」

「デュグロスの変容能力の自在さって……賢さに比例するんですよ」


 賢ければ賢いほど、変容能力を自在に、体型までもを操れるのだとアリアは言った。

 そして、久し振りにやるという変容能力を見せてもらったが――――個性的な彫像かのような人物が目の前に現れ、それをいた二人はぎょっとした。


「同族の者たちは、並の人間よりも賢くならなくてはなりません。でも、私……その……あ、阿保……だったので……」


 変容能力を活かすことが出来なかった、と。

 様々な国で入国が規制されている魔族――アリアは一番初めの入国で種族を口にした途端に門前払いを喰らった事があると話した。


「でも、デュグロスって耳が尖っているではありませんか!」

「そうだね」


 二国目へと入国の際、エルフと間違えられてからエルフと偽り、門前払いも無くなった。

 しかし、エルフは知力にも優れている。きっとすぐに襤褸ぼろが出る――そこで考えたのが「教師は賢い。教師であれば阿保もバレない。つまりエルフと偽れる? デュグロスとバレない!?」という何とも単純で且つ、何とも言えない作戦。


「上手くいき、今までに私の種族を見抜いた人は神を除き、四人です!!」


 居たのかい――シエラは突っ込んだ。

 そもそも、デュグロスは希少性のある種族であるから、自分から言わない限りは魔族であるとバレないし、バレることの方が珍しい。人間が判別するものなど「人間か、魔族か」のどちらかだ。


(ま、そんな事はどうでもいいか)


 賢い賢くないは今関係ない。彼女は――教頭という立場にある。

 この状況は、仕えるに違いない。教頭と言う立場なら、普通にセンリ大学校に通学するより遥かに他の学校の校長などを調べることが出来る。


「協力、して欲しい。アリアちゃん」


 シエラが、真剣な面持ちにてアリアへと言った。


「よろしくお願いします。アリアさん」


 スティーも、続いてアリアへとお願いした。

 彼女がどう答えるかによって、依頼の達成成功率は変わる――断って欲しくは、ない。

「勿論、ご協力させてください。私で良ければ」


 頭の足らない自分ですが、と片手を差し出すアリア。

 その差し出された手を、シエラとスティーは順々にして握った。

 そして、その日は二人して寝ることとした。


 夜、寮、部屋にて――スティーは気になっていたことをシエラに話す。


「シエラ様、ああいう事が出来たんですね」


 片付けられた寝台の上、シエラの寝転ぶもう一つの寝台の方に彼女は視線を向けた。

 思い出すのはシエラとアリアによる戦闘描写――自在に自分の姿を変容させていた。恐らくはデュグロスよりも遥かに変容能力が優れていた、最早神業。

 体格も変えて、容姿の年齢も変えて、幼い子供の低身長ながら小回りの利く有利性を利用して戦っていた。


「昔は――――出来なかったよ」


 スティーを創っていて、創造神の持つ権能の、更に核心へと至れたおかげでああいう芸当が出来るようになったのだ、とシエラは背を向けながら答えた。

 恐らくは、生きているものですら想像できるようになっただろう――そう続けた。

 スティー程の最高傑作――それを創るには相当な時間が掛かるだろうけども、スティーの時よりも遥かに短い時間で創れるようにはなったはずだ、とも。


「スティーのおかげだよ」

「そう……ですか」

「ねえ、そっち行ってもいい?」


 顔をスティーの方に向け、シエラが頬を上気させて言う。

 対するスティーは、静かに掛布団を持ち上げる――シエラはそこにゆっくりと入る。

 そして、接吻を交わそうとした時だった。


「ちょっと――――私が居るのを忘れてないでしょうね。するなら別の所に言って頂戴」


 シオンが居るのを、二人は忘れていた。


 翌日、昨日何があったのかと聞いてくるヴィエラを適当な嘘で誤魔化す。

 そして話題を何とか変えて、彼女が学校を案内してくれることとなった。


 センリ大学校の男女の割合は、七割と三割。


「男子寮は、一人一部屋与えられててずるいわよね」


 女子寮を囲むようにして、大きな男子寮がある――男子寮の方は元主人の家、女子寮が元召使いの家。

 そして、学生寮の横には大図書館――色々な書物が置いてあるとヴィエラは言う。


「世界の勇者様に関する本とか、迷宮の事とか……コルテラの学校の図書館に比べれば足元にも及ばないけど――珍しい本などもあるわ」


 この国は商業国家――その特権は学園それぞれの図書館に反映されている。


「他の街に行くこともあるわよ。それぞれの街にしかない書物などが見られると思うと憧れるわね」

「他の街に、ですか?」

「そう。カグマンには迷宮が無いのよ。北西のべテルダなんて迷宮だらけだし、強い冒険者がわんさかいるって聞くわね」


 それを聞いて、スティーは手帳に情報を記していく。


(迷宮……ですか……)


 いつか、行ってみたい――そうスティーは鼓動を大きくした。


「あ、そうだ。私も入っている部活――魔術理論研究部に来てみる? 面白いわよ」


 魔術理論研究部――その部活の活動内容は「未だ開発されていない魔法を研究し、生み出す事」である。

 魔力というものは奥が深く、多くの魔法が生み出されているのは周知の事実として有名なのだが、コルテラの魔導士たちは「全ての一割にも満たない」と、作り得られる魔法全体を見てみればまだまだなのだとか。


「じゃーん! ここが魔術理論研究部の研究室です!」


 東校舎の一室――広めの空間、実験道具の数々、不敵な笑みを浮かべながら試験官と睨めっこに励む生徒たち。

「岩の属性魔力に、光の属性魔力を加え――――――」


 上気した頬、尻を振りながら、我が子を愛でるように魔法の実験を繰り返す生徒たち。男子五名、女子十二名。

 一見して、怪しい部活だ。

 スティーが置いてある本棚のうち一冊を手に取ってみると、一頁一頁がボロボロなのを発見した。


(ニゲラ様が見れば「本の扱いが雑だ」と激怒するでしょうね…………珈琲を本に溢した天使様や、本の扱いで天使様がニゲラ様に怒られていたのを思い出しますね……懐かしいです)


――――『君ィ…………私は見たぞッッ! 見てしまったッッ! 珈琲を本に溢したなァッ!? 布で叩くんじゃないッ余計に染みるだろう!! 頬を差し出しなさいッ!! お仕置きだオラ!!』『ふぐにゅ……ふぉうひわへもうしません……ふひはへふすみません

――――『なんだこのボロボロの本はァ!? 手入れ班!! 手入れ班を呼べェ!! 定期的に保護魔法を掛けろと言っているだろう!!』

 ――――『こらそこ! ちゃんと栞を挟まないか! 何処まで読んだか忘れないようにという心掛けは兎も角、折るとは何事だい!?』『すみませんニゲラ様、さあお仕置きを!! 莫迦な私めにお仕置きを――あふん!』


 思い出される光景――スティーはシエラに耳打ちした。


「シエラ様。ニゲラ様が本に掛けていた修繕魔法というのを知りたいんですが……」


 修繕魔法――その単語に、ヴィエラ含めギラリとした視線を全員がスティーの方へと向ける。


「修繕魔法!? 聞いた事の無い魔法名だわ!? ニゲラ様と聞こえたけど、交流関係があるのかしら!? 教えて頂戴!! コルテラの野郎共にようやく差を付ける好機――――貴女!! 教えて頂戴!!」


 スティー、たじろぐ。

 細身の女子生徒が凄まじい速度にてスティーに迫り、目をぎらんぎらんと光らせながら聞く様子はまるで恐ろしい。

 シエラの横に居るヴィエラに関しては、耳を傾けさせて聞き耳を立てている一方だ。

 魔力に関してを基本も基本、その中でも一際基本的なものしか知らないスティーに聞いても仕方が無いのに、と溜息を吐いたシエラが、スティーの持っていたボロボロの本をするりと取る。


(うわ…………ニゲラが怒りそうな、扱いの雑さだ。発行年月が一昨年でこれ……)


 スティーと同じ感想を抱いたシエラは、やがて生徒たちに「この本の内容だとかを全て覚えている人は?」と質問する。


「――――――私、覚えてます、一言一句全部。購入したの私なので」


 一人の女子生徒が手を挙げて言った。

 すると、シエラがその女子生徒に本を渡し――「修繕魔法」の魔術理論たる説明をする。


「命の属性魔力の高等応用魔法だよ。まず、新品の状態のこの本を鮮明に思い出し、命の属性魔力と岩の属性魔力を上手く合わせつつ、その練った魔力を本に」


 失敗したら「元」本の自由帳が出来上がるから気を付けて――そう言いだすシエラに女子生徒は緊張感を含んだ表情にて、本に魔力を込めた。


(まあ、神聖言語による呪文転記だと、失敗はないんだけど……ま、いっか)


 ――物質を生成する際に使われる岩の属性魔力が命の属性魔力を加えられたことで回復の特性を持ち、本の失われた紙部分を構成する、復活させる。修繕魔法を掛ける際、細部に至るまで「修繕する物」の事を覚えていない状態であると、文字が記入される前の真っ白な本が完成してしまう。


「ぶっつけ本番…………」


 一人の生徒がそう声を出した。

 そして、一言一句寸分の狂いなく新品の状態の本が、魔法を掛けた女子生徒の手元にあった。

 おお、とヴィエラ含む部員全員が声を出す。


「お、いきなり成功だとはやるね……」


 本当は、重さや香り、その物質に関する「ほぼ全てを知っている状態」でいなければ成功確率の低い魔法なのだが――シエラは舌をちょろっと出す。スティーだけがその心を察し、彼女のジト目を誘った。


「――――今すぐこの人の言った魔術理論を黒板に!!」


 シエラの意図に気が付かず、部長らしき女子生徒が独りの部員に指示を出した。

 白墨にて黒板に、属性魔力の魔術構成式と呼ばれる――魔法を使うに当たっての魔力の扱い方を可視化する式が記述されていく。


「――スティーさん、シエラさん。貴女たち……魔術理論研究部に、入部してくれないかしら……うふふ……」


 シエラとスティーに向けられるヴィエラの笑み。


「剣術とかは……」

「趣味にすれば良いじゃない? 私だって、趣味よ? こっちが本命」

「――――良い提案だなヴィエラ……私たちの知らない魔法を知っているであろう君たちは、この部に入るにふさわしい……」


 ギラリ、とまた部員全員の目つきが二人に向けられた。

 コルテラを出し抜く好機の場面。恐らくは二人を逃がしはしないだろう――スティーとシエラは諦めた。


 学校案内は? と疑問を述べるスティー。そんな事どうでも良いわ、良いでしょ?――そう返すヴィエラだった。


 魔術理論研究部――――半強制的な入部の瞬間だった。


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