メガネ型デバイスとの出合い
イージスがわは緑地帯……ミドルニアに向かう程に乾燥地帯になっていく。
まるで砂漠のオアシスだ。
そのおかげか、中立国であるバキアの道ではたくさんの種族とすれ違うことが出来る。
(いや~、何度来てもにぎやかなバザールだ)
「そう言や、ここには『くちなし亭』の本店があるはず……ねんがんのマイホームが手に入ったんだ、記念に今日は少しふんぱつして肉を食べよう」
(ラム肉の串焼き……いや、ラム肉のステーキを食べてやろう)
そして、ステーキを食べ、美味さのよいんにひたり、ふと窓の外に目をやると……最近出来たのか、のぼりの目立つ『アストラルデバイス店』が目に入る。
(何か掘り出し物が有るかもな……行ってみるか)
庶民のさがか、店内や店員の様子よりも先に値札に目が行ってしまう。
「所持金的にも、ちょうど良い店だ。新しいデバイスでも買おうかな」
実を言えば、俺も古い『腕輪型デバイス』を身に着けている……といっても戦場の死体からちょうだいしたもので、キズだらけ……それゆえ話相手が死んだか何かで居ない通信機能に、破損が原因で、ときおりずれる時計機能に、ノイズだらけのカメラ機能とまさに子供だましなしろものだ。
多数の製造もとが並ぶが人気はこの御三家
りくつっぽい宣伝文句だが、信頼度の高いしにせ『ITRインテリ』
そこそこの性能だが、その価格はまさにイナズマ『RGNライジン』
最近新しく出て来た、期待のニューフェイス『ADMアダム』
悩んでると『(情弱な)カモ発見』とばかり、ニコニコ顔で店員が話しかけてきた。
「いらっしゃいませ。お客様、デバイスを買われるのは初めてですか?」
「いや……名前も知らない知人からもらった中古を使っている……ほら」
「?(名前も知らないのに知人?)あ……確かに古いデバイスですね……買い換えでしたら、そのデバイスを下取りましょうか?」
(下取りだって! そんなの、情報を調べられ盗品とばれたら何かとやっかいだ)
俺は焦る心をおさえ、あくまで冷静に口を開く。
「いや、記念に持っておきたいんだ……で、この金額で買える……何か掘り出し物はないかな……扱いやすさ重視で、多少ぶかっこうでも良い」
「でしたら、こちらへ……」
案内されたショーケースの中には『国交記念、試作品』と書かれている『メガネ型デバイス』が赤いシルクの上に置かれるなど、いかにも高級そうにかざってある。
「これなどは、いかがでしょう?」
「メガネ型とは珍しい……メガネ型アイテムといえば……もしやこれは、男の夢のアイテム。女の服が透けて見えるメガネ」
みがまえ一歩ひく俺に、店員は冷めた目で言葉をかえす。
「違います、このデバイスは……イージス王国と、ミドルニアの戦争終結と国交記念とし、互いの国に贈られた……まさに世界に二つしかない、異世界に行ける特別なデバイス……その試作プロトタイプです」
「すごいな、でも異世界ね……つまり新しい世界、禁断の世界、同性愛の……つまり同性の服が透けてしまう……(俺の場合)野郎のナニを見たってつまらない。むしろ敗北感が」
「とりあえず、一人下ネタの無限ループはおやめください」
「ああ、すまない」
苦笑いをかえす。
「はい、そしてこれこそ今や当たり前となった、目の前に情報などが見える機能のもととなったものです」
「へえ」
関心する俺に、店員が食いつく。
「試着されますか?」
「ああ」俺の返事に、店員がすかさず鏡を用意しては『メガネ型デバイス』をかける。
「お~、うん」(うん……黒いフレームが顔全体を引き締め……われながら意外と似合っている)
「お似合いですよ」
心の声にあいづちをうつ店員へ、満足気に笑みを返しうなづく。
「うん……おすすめどおり、これにしたい……が、さっきから聞くに記念品とやたら高そうな言葉が」
「そこはご安心ください……世界に一つだけと珍品中の珍品ですが、一人だけで異世界なんて、じっさい怖くて誰も欲しがらず……在庫処分できず困っているので……よろしければ無料で差し上げます」
「タダとは太っ腹……いや『タダより怖いものはない』……という事で予算有ぜんがく、いや、半額出す」
「そうですか? それではこちらへ」
商談席のテーブルに着かされ……使い方などを聞き『異世界転移』以外を実践し……代金を払う
「このまま着けて帰られますか?」
「ああ」
俺は、デバイス同士がかんしょうしないよう、古い方(腕時計型)をカバンに詰め店を後にする……と習慣から直ぐに建物のすき間に隠れてしまう。
(人生かえようとしてんのに、われながら情けない……とさそくあいつ(OS)を呼び出そう)
OSは自分のことを『グラウス』と呼び、冷静な男の声をしている。
「おいグラウス」
『ユーザー様……声に出さず、念じていただくだけで結構です……そして私のことは『グラウス』ではなく気軽に『グラさん』と呼んでください』
(ああ、ではグラさん。異世界に行けるというのは本当だろうな)
『はい、もちろん……しかし路地裏とはいえ……ここではまだ目立ちます』
(言われると確かに、メインストリートの人の流れが見える)
『自宅など、人目を引ない場所から転移されることをお勧めします』
(そうだな、最近手に入れた隠れ家に……それまでお前の能力とか、話相手になってもらうぞ)
『はい。早く私を使いこなせるよう、頑張って下さい』
「えらそうに」と思わず言葉を口にして、隠れ家へと向かう。
(地図は出せるか)
『もちろん』
突然何もない眼前におどろき声を出す俺……なんかおかまいなしに、グラさんは、たんたんと言葉を続ける。
『目的地はどのあたりですか』
(森のちゅうふくだ)
『了解しました……そこまでの最短ルートを表示します』
「おお」
またもや声を出しては……周囲から冷たい視線をもらうこと、五回ほど……そして、ようやく隠れ家に到着し……俺は今回の本題である『異世界転移』について聞き始める。
(ここなら声を出して、お前と話しても大丈夫だな)
『はい』
「じゃ……これから行く、異世界ってのはどんなだ」
『どんなと申されますと?』
「世界、国の名前……気候とか、俺、寒いのは苦手だからな」
『向かう先は、『地球』といういくつも大陸が有り水の多い世界の中にある比較的小さな『日本』という島国で……四季が有り、景色は美しく、気候は比較的温暖と思われます』
「いいね……で、そこでお前の機能は使えるのか?」
『もちろん使えます……ですが、アストラル(魔力)は有るものの、なぜかアストラルワークス(魔法)は使えません』
「大丈夫だ……お前の機能が使えるなら、問題ない……で気になるんだが……異世界ですごした時間と、この世界の時間関係は?」
『良い質問です。優秀な私は転移された互いの世界時間と肉体情報を記憶し……数分の誤差で転移することが出来ます』
「良いね~……良いと言えば、最近まとまった金が手に入って、けっこう所持金持ってんだよな……向こうでもこの金は使えるのか?」
『なんとも庶民らしい、良い質問です……共通価値で使えます(一ルド一円)が、コインなどデザインが変わり、異世界では円という通過単位になります』
「助かる……知らない地でいきなり、もん無しなんて最悪だからな」
『他に質問はございませんか』
「今のところない……あとは異世界に行って、色々と慣れていくしかない」
『分かりました……では、忘れ物などはございませんか?』
「忘れ物って、ガキあつかいするな! 向こうでも金とナイフさえあれば、なんとかなるさ」
と一応、確かめる様にベルトに付けた、ナイフと皮袋をたたく。
『失礼しました……それでは異世界転移を開始します』
(金が無いから、これといって楽しい事も無く……変わり映えのないこの世界に俺はしょうじき嫌気を感じている……だから……異世界に行ったら、面白おかしく生きてやる)
いざ異世界へ……光や煙など演出もなく、ラクシーの姿が消えた。
本日も読んでいただき、誠にありがとうございます。
『メガネ君先輩のたんじょう』
第三部『メガネ型デバイスとの出合い』
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by.グラウス(グラさん)