第九話 勇者をお披露目しました
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1月25日:誤字修正しました。誤字報告ありがとうございました。
「アレク、ついに勇者になったんだな。おめでとう!」
その人物は、唐突に控室に入ってきた。
「レオン兄さん! ありがとうございます。」
えーと、アレクの兄さんということは王子様で、レオン? レオンハート・アルスター殿下! あわわ、第一王子様じゃないか! 次期国王候補筆頭だよ。
「君たちも、よくアレクを支えてくれた。アレクが生きて帰ってこれたのも君たちのおかげだ。本当にありがとう。」
ひえ~、止めてください殿下! 王子様が平民に頭を下げちゃ駄目ですよ! あ、今はもう貴族だった。いや、もっと悪い。僕たちは貴族の中でも一番の下っ端。入りたての新入社員に専務がへいこらするようなものだよ~。
「全てはアレクが頑張った結果ですから。それより殿下、頭を上げてください。皆さん困ってしまいます。」
さすがはアリシアさん。公爵家令嬢ともなると王子様相手でもそつなく対応する。まあ、アレクも王子様なんだけど。
「ははは、公式の場ではないから、そう固くなることはないぞ。貴族の礼法なんぞ、おいおい覚えて行けばいいさ。」
さすがはアレクのお兄さん、王族とは思えない気さくさだった。
そしてアレクと同じくらい容赦なく現実を突きつけてくれる。
僕たちはこれから否が応でも貴族として生きて行かなければならない。
例えば貴族と平民では礼儀作法の扱いが違う。貴族の場合、礼儀知らずは顰蹙や失笑を買うだけでは済まない。極論すれば、先ほどのレオンハート殿下への対応で失礼があれば、王家に叛意があると言われて死を賜る危険性すらあるのだ。
「勇者になったのは良いのだがな、アレク。どうやらお前を担ぎ出そうと画策する連中が出てきたようだぞ。」
あの~、それってお家騒動とか、かなり危ない話じゃないですか? 僕ちょっと耳塞いでいていいですか?
「はぁー、個人の武勇を持つだけの者を王座に据えて、いったい何がしたいんでしょうか?」
アレクはさもうんざりといった顔で応える。うん、アレクが権力に興味ないことは知っていた。小説のアレクだと、勇者の称号を盾に王座は俺のものと頭の悪い言動を繰り返すのだけれど、この世界のアレクとは正反対だ。
「武勇だけで後ろ盾もないからから扱いやすいとでも思ったのだろう。勇者王なら大衆に受けもいいだろうし、他国にも睨みが利くが、それだけだ。所詮は時流の読めない小者の考えだよ。ただその分やることがせこいからな、仲間が狙われないように注意しろ。」
あ、既に僕たち巻き込まれていた? 確かに貴族になりたてで、色々と分かっていない僕たちならば騙して取り込みやすいだろうし。
僕は一時雇いの雑用係でアレクの仲間じゃないんです、とか言っても見逃してくれないだろうなぁ。
「……しばらくダンジョンに潜ることにします。どのみち、魔王を倒した影響を調べなければならないし。」
うん、それがいいと思う。陰謀渦巻く貴族社会はダンジョンより怖い。先延ばし大歓迎。
「それがいい。その間に不穏な輩は始末しておこう。」
言葉は物騒だけど、レオンハート殿下、いいお兄さんです。小説だと、アレクの母親は身分が低い上早くに亡くなっていて、アレクにはまるで後ろ盾がなかった。このためアレクは兄たちからも虐げられ国王や貴族からも見向きもされず、それで勇者になって権力を得ようと無茶をしていた。
でも、この世界のアレクは兄弟仲も良好そうだし、権力志向もない。状況だけは怖いくらいに小説と一致しているのに、人柄とか人間関係は全然違っている。不思議だなぁ。
「式典は、残るは勇者のお披露目だけだ。それが終わったら好きにするといい。後はこちらでやっておこう。」
ああ、まだそれが残っていた~。
ドナドナ~♪
心の中で歌ってみる。
あるいは市中引き回し。打ち首獄門はないから安心して。
僕たちは屋根のない大きな馬車に乗って王都ロシュヴィルの大通りをゆっくりと進んでいた。
勇者のお披露目と称して、勇者パーティーのメンバーを見世物にしているのである(偏見)。
主役はもちろん、勇者アレク。冒険者の揶揄を含んだ勇者の二つ名ではなく、国から与えられた本物の勇者の称号だ。
その隣には、聖女アリシア。治癒師として活躍したアリシアさんには、聖女の称号が贈られた。これも国から贈られた正式な称号だ。
その後ろには、剣聖カレン。剣士として無類の強さを見せたカレンさんには剣聖の称号が贈られた。ダンジョンに潜る前から、彼女の剣技に勝てる騎士はいなかったというから納得だ。
カレンさんの隣には、賢者エレノア。魔術師として数多くの魔術を操るだけでなく、魔術以外にも様々な学問に深い造詣を見せたパーティーの知恵袋には、賢者の称号が贈られた。
ここまでは誰もが納得できるだろう。実は小説でもアレク以外の三人にもちゃんとこれらの称号が贈られている。
ここまで小説とびったし同じなのに、一点だけ異なる箇所がある。それが最後尾にいる僕の存在だ。
さすがに国のお偉いさん方も、単なる雑用係にぴったりなかっこいい称号を思いつかなかったらしく、僕だけ称号はもらっていない。小説の主人公には復讐者という最高にイカレた称号があったけど、僕には似合わないので謹んで返上させていただきました。
称号のことは置いておくとしても、このメンバーの中でやっぱり僕だけ浮いているよなぁ。
だいたい、たまたま勇者パーティーに雇われていただけの雑用係を勇者の仲間だと思う人なんて……って、ここは冒険者ギルドの近くだ。よく見れば知った顔がちらほらと……なんか多くないか。なんで昼間から冒険者がこんなに大勢いるんだよ。仕事はどうした!? ああ、名前を呼ぶなよ、恥ずかしいじゃないか。とりあえず手を振っておこう。
ああ、冒険者はみんな仲間思いだなぁ。え、なんでギルドマスターまでいるの! いや、そこでサムズアップとかされても……って、全部あんたの差し金かい! うう、みんな、ありがとう。
あ~恥ずかしかった。この展開は完全に予想外だったよ。小説だと僕はここにいないからね。向こうの物陰からこっそりと、アレクを恨めしそうに眺める場面だからね。ん、今そこの物陰に誰かいなかったか? 混雑を避けて見ていた人かな? 凄い人だかりだからね。




