第八十一話 始まりの物語2
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――0019983
私たちの創り出した生物は順調に数を増やして行った。
数だけでなく種類も増えていた。第一世代をプロトタイプとして、改良を加えたものも新たに誕生していた。
もちろん、その全てがこちらの思惑通りに行ったわけではない。
物を作る能力を強化した第三世代は、その代りに社会性が低下してしまった。自ら国を作ることは難しいだろう。
メンバーの一人が趣味全開で創った第五世代は、美しい見た目と知性を強化した種だったのだが、なぜか森の奥に引きこもって狩猟採取生活を始めた。小さな部族以上の集団にはならないだろう。
他にも文明社会にはやや不向きな種もいるが、ある程度の集団生活はしているからあまり心配はないだろう。
世代間の交配も可能だから新たな種が発生するかもしれない。
今開発している第八世代は特別目立つ能力を与えることはしないが、代わりに精神活動で発生する有害物質に対する耐性を高める予定だ。
彼らには私たちと他の者たちとの橋渡し役になってもらうつもりだ。
――0020007
私たちの船の上方に、地下施設を構築することになった。
私たちの創造した生物は地上に定着し、繁栄し始めていた。
意外なことに、目立った特徴のない第八世代やプロトタイプの第一世代がかなり健闘していた。
彼らは既に私たちの手を離れたのだ。今後は過剰な干渉は避け、この世界の人類として扱う必要があるだろう。
そして、ある程度文明が成熟したところで彼らと交渉し、エネルギーと情報資源を回収する。それがこのプロジェクトの最終目的となる。
しかし、私たちはこの世界の住人と対面で交渉することはできない。私たちの精神活動が悪影響を与えるため、画面越しでも問題が起こるかもしれない。
そこで、これから構築する地下施設を緩衝地帯とする。この世界の住人には必要な時だけ降りて来てもらえばよいだろう。
――0020026
地上で戦いが起こっていた。
この世界でおそらく初めての大きな戦い。この世界の人類が戦った相手は、私たちが知能強化した動物たちだった。
人類が勢力を増すにつれて住処を追われた動物たちが反旗を翻したらしい。
これまで知性を得ても何もせずに動物であり続けたものたちがなぜ今になって?
気になって調べてみると、動物たちは自らの精神活動によって発生した物質に害され、変質していた。
これは私たちの失策になるのだが、幸い動物たちが世代と共に知性を失う傾向にあることに変わりはない。大勢に影響はないだろう。
戦いの中、興味深い光景を見つけた。
人類側の一部の者であったが、精神活動によって発生した物質をコントロールして様々な物理現象を引き起こしていたのだ。
この世界ならではの現象であるが、彼らが独自に見つけ出し、ものにした技術である。
この世界の情報資源もなかなかに期待できそうだった。
――002-102
メンバーの一人が死亡した。
原因は病死。病名は不明。
もっとも船外活動の多かった者だ。この世界の環境の影響を受けたことが原因である可能性が高かった。
残された私たちが無事である保証はない。
非常事態だった。私たちは急いで本部に指示を仰いだ。
――00-01*4
本部からの回答がないまま、二人目の犠牲者が出た。
事態は切迫している。一刻の猶予もないと考えるべきだった。
隔離措置のレベルを上げる前に受けた影響が今頃になって出ているのか、それともここまで厳重に隔離してもこの世界の環境の影響を受けてしまっているのか。
いずれにしても、私たち全員命の危険にされされていることに変わりはない。
考えてみれば私たちの精神活動の影響が、物質的に完全な遮蔽を乗り越えてこの世界に現れているのだ。逆に、あらゆる隔離措置を乗り越えてこの世界の影響が私たちに現れても不思議ではない。
今回、現地入りしたプロジェクトメンバーは八名。そのうち二名も欠員が出れば、通常業務にも支障をきたすことになる。業務規定から言っても、現場の判断で撤退を進言できる状況だった。
幸い、地下設備にこの世界の観測システムは構築してあった。私たちが一時帰還しても、記録された観測結果を分析すればすぐに開発を再開することも可能だろう。
私たちは、本部からの帰還命令を前提に準備を始めた。
――002?23*
本部から回答があった。
だがそれは、帰還命令ではなく、待機指示だった。
受け入れ態勢が整うまで、現地で一時待機。
理由は分かる。
私たちが未知の病原体を持ち込むことを恐れているのだろう。
しかし、私たちにも猶予はないのだ。
原因はおそらく船内ではなく、この世界からの干渉だろう。一刻も早くこの世界を離れなければ、私たちの命が危ない。
私たち全員と、死亡した二名の診断データを添えて、本部に再度強く帰還要請を出した。
――00*0-8*
もう限界だった。
一度に三名死亡した。この病は発症してから急速に悪化する。治療する間もなく死亡してしまうのだ。
既にメンバーの過半数が亡くなった。残った私たちも時間の問題だろう。
このままでは私たちは全滅する。
しかし、本部の動きは鈍い。
これ以上は待てない。
――0=2-3?3
ここは、いったい……?
ああ、そうだ。私は倒れたのだ。
ここは医療カプセルの中だ。私は機械の力で生き長らえている。
私たちは生き残った三人で打ち合わせをしていたのだ。本部には一方的に通告だけして、私たちの手で強制的に帰還しようと考えていた。
その最中に私は発症したのだ。たまたま近くに人がいる状態で倒れたから、医療カプセルに入れてもらえたのだろう。私は運がいい。
しかし、船に搭載された医療カプセルは最低限の延命措置しかできない。自然治癒で治らなければ快復しない。
医療カプセルから出て治療を受けていないということは、まだ帰還していないか、帰還していても隔離されたままなのだろう。
医療カプセルの中にいてはあまり情報が入ってこない。それに病気のせいか、体もほとんど動かせない。
残った二人は無事他だろうか?
船は帰還できたのだろうか?
――00?054*
あれからどれほどの時間が経ったのだろう?
私は時間をかけてなんとか医療カプセル内の端末を操作し、どうにか状況を確認した。
ここはまだあの世界だ。船は帰還していなかった。二人は失敗したのだろう。
帰還に失敗したとすると、あの二人の生存はかなり絶望的だ。どちらか一人だけならば私と同じように医療カプセルに入っているかもしれない。しかし、発症してから自力でカプセルに入る余裕はないだろう。
確かめる術はなかった。
ほぼ全滅の私たちと対照的に、この世界の人類は繁栄を続けていた。この点だけは、私たちの開発は成功していた。
残念ながら、彼らと対話ができる日は来なかったけれど。
――%02=82?
一体何が悪かったのだろう。
一度に三に亡くなった時点で、打ち合わせとか本部への報告とかを飛ばして帰還すべきだったか。
それとも、二人目、いや一人目の犠牲者が出たところで本部の指示待ちなどせずに撤退すべきだったのか。
あるいは、この世界の環境を変えられないと分かった時にプロジェクトを中断すべきだったか。
予備調査の段階で危険性に気付いていれば……
いまさら言ってもどうにもならない。
今の私は小さなカプセルの中で生きることもできず、死ぬこともできずにいる。
私にできることは、細々と入ってくる情報から地上の様子を窺い、この世界の人類を見守ることくらいだ。
地上の人々はなかなかに精力的だ。既に大きめの国らしきものができていた。
地下施設の入口も自分たちで見つけ出したようだ。内部に入って来た者がいる。
医療カプセルから出られたら、挨拶ができたのに。




