第七十九話 古代遺跡を探索します10
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「終わったか……」
肩で息をしながらも、油断なく両断された守護者を見つめていたアレクが、完全に動かなくなったと見てようやく緊張を解いた。そしてそのまま膝をつく。
剣技なのか、魔術なのか、それとも聖剣の秘められた能力だったのか、最後の技は相当に負担が大きかったのだろう。アレクが膝をつく所なんて初めて見た。
通常、冒険者は限界ギリギリの戦いは避ける。目の前のモンスターを倒しても、そこで力尽きたら別のモンスターにやられるだけだ。
まあ、ギリギリの戦いを避けられずに死んでいく者も多いのだけれど。
アレクはその辺り基本に忠実、常に余力を残しながら戦っていた。アレクのこれまでの成果を見たら信じられないと言う人も多いだろうけど、常に無理せず慎重に探索してきたのがアレクだ。成果が大きいのは地力の高さと魔法鞄の中身の豪華さが原因だね。
いつもの慎重なアレクなら、聖剣を失った時点で撤退を始めてもおかしくなかった。
それが強引な攻めに転じたのは、愛用の聖剣を砕かれてアレクも怒っていたのかもしれない。
聖剣はダンジョンの攻略を始める前からのアレクの相棒だった。アレクは仲間思いだからね。
「それでは、探索を再開する。」
守護者と戦った部屋で小休止を取った後、アレクは探索を再開した。
部屋の中は一通り調べ終わり、守護者の残骸も回収済みだ。
カレンさんは破損した革鎧とボロボロになった大剣を予備のものと交換した。僕も折れた直刀を交換している。魔法鞄は本当に便利だ。
アレクは砕けた聖剣を丁寧にしまい、武器を長剣に持ち換えた。
トニーさん作のこの長剣、優秀な武器なのだけれど、これまであんまり出番がなかったんだよね。聖剣の方が強力だし。むしろ、展示用の金ぴか剣の方がよく使われていたというのが何とも言えないところだった。
エレノアさんとアリシアさんは小休止中に魔力回復用の魔法薬を飲んで魔力を回復させている。
準備は万端。最大の懸案事項だった守護者を倒してしまった以上、ここから引き返す理由は無かった。
エレノアさんの事前調査でも、ここから先特に障害になりそうなものは何もない。通路が壊れて塞がれていたりしない限り、目的地までは問題なく着けるだろう。
目的地に何があるかが問題なんだけどね。
そして、あっさりと目的の部屋の前まで到着した。
本当に何の障害もなかった。
塞がって通れない通路には出くわさなかったし、ロックされていた扉もエレノアさんの作った鍵で開いた。
白い守護者にも出会わなかった。たぶん古代文明時代には守護者ではなく人間が警備していたのだろう。
問題はここから先、この扉の向こうにある。
この部屋の扉もロックされていたけれど、エレノアさんの作った鍵で開いた。
この古代遺跡にこれまで人為的な罠は仕掛けられていないけれど、念のため調べてから扉を少しだけ開ける。
うん、とりあえず瘴気が溢れてくる様子はない。
わずかな隙間から覗き見るけれども、見える範囲では危険物は無さそうだ。
僕は部屋の中を確認しながら、徐々に扉を開いて行った。
「何もない部屋だな。」
アレクが部屋の中を見渡して言う。確かに何もない部屋だった。少なくとも邪竜と呼べるものは存在していない。それどころか瘴気を発しそうなものも一切見当たらない。
「それでも遺跡内の瘴気の流れをたどれば、全てこの部屋に行きつく。何かあるはず。」
エレノアさんはそう言って部屋の中を調べ始めた。
瘴気の発生源の場所を特定するためにエレノアさんが利用したのは、古代遺跡の装置から得られた情報だった。王都のどの研究者の持つ情報よりも確かなものだろう。
そして、同じく古代遺跡の装置で調べた地図を見ながらこの部屋を見つけたのだ。周りの通路や部屋の配置から、この部屋であることは間違いなかった。
でも、本当になんにもないな。瘴気みたいな危険物を扱っているのだから、もっとごたごたといろんな装置が置いてあるかと思ったのだけど。
仕方がないので、みんなで部屋の中を調べて回った。
「この辺りから何か嫌な感じがします。」
最初に気が付いたのはジェシカさんだった。獣人族は感覚が鋭敏なだけでなく瘴気の影響も受けやすいからそのためかもしれない。
ジェシカさんの指示したあたりの床を調べてみると、単なる模様に見えていた部分がスライドして取っ手になった。
そのまま取っ手を引っ張ると、床板が持ち上がった。
なるほど、こうなっているのか。
妙にすっきりと何もない部屋と対照的に、床下にはごちゃごちゃとした配線・配管が犇めいていた。
そしてもう一つ。
床下の底から、さらに地下へと向かう階段が待ち受けていた。
……あれ、なんか既視感があるぞ。前世の記憶とかじゃなくて、もっと最近の話だ。
そう、これってダンジョンの第十階層から古代遺跡に降りて行った時と同じパターンじゃない?
地下の古代遺跡から、更にどこへ下りて行くというのだろう?
「ここよりさらに下に何かあるという情報は一切なかった。そして、瘴気の源についても不自然なくらいに情報がない。つまり、全てはこの下にあると考えられる……」
全てはエレノアさんの推測に過ぎない。けれども一番あり得そうに思えた。
「ならば、調べてみるか。」
アレクは即座に決断を下す。どの道この部屋の中に他に見るべきものは無かった。
それに、瘴気が通っているであろう配管も、階段に沿って地下に伸びているんだよね。
そして、僕たちは地下遺跡の下、更なる深淵へと向かって進んで行った。




