第八話 アレクが勇者になりました
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2021/06/12 誤字修正
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ギルドマスターが出て行ったところで、アレクが話を始めた。
「先ほど王宮にも報告したが、冒険者ギルドが魔王エグバートの摩核と破壊された迷宮核を確認した。国も正式に魔王の討伐を認めるだろう。」
そうか、ダンジョンと一体化した魔王もモンスター扱いで摩核を持っていたのか。もしかすると、専用に作ったモンスターに意識を移して生き延びていたのかな。
「追って連絡があるだろうが、魔王討伐の公表と共に叙勲と報奨を授与する式典が行われることになる。皆もそのつもりで準備を始めて欲しい。」
念願の魔王エグバート討伐をついに果たしたのだ、国を挙げて盛大にお祝いをするのだろう。
そういえば小説でもそんなシーンがあったなぁ。式典で勇者の称号を得たアレクを、王都の人々が盛大にお祝いする場面。王都中の人々に勇者だ英雄だと褒めたたえられるのを、物陰から主人公が恨めしそうに覗き見るんだよな。
「アレクも本当に勇者になるんだ。おめでとう!」
小説とは違うから、僕も素直に祝うことができる。
「君もだよ、グレッグ。」
え?
「え?」
一体何のことでしょう?
「君だって一緒にダンジョンを攻略した仲間じゃないか。一緒に叙勲を受けてもらうよ。」
えええ?
アレクが妙ににこにこしながら、なんだかとんでもないことを言った!?
「いやいやいや、僕はただの雑用係だし、魔王とも戦っていないし、」
「何ゆうてんの、迷宮核破壊したやろ。魔王、急に慌てふためきおるから何事かと思ったで。あんときの魔王の焦りようと言ったら……ぷぷぷぷぷ。」
突然思い出し笑いを始めたカレンさん、なんか邪悪な笑みになっています。
「そう、あの後急に魔王が弱くなった。」
エレノアさんも同意する。
そうか、アレクの援護のつもりでやったけど、ちゃんと効果があったのか。って、そうじゃなくて。
「それ以前に、身を挺して魔王の間への道を拓いてくれましたわ。今回一番の功労者ですわ。」
アリシアさんもアレクと一緒になってにこにこしながら言う。
どうしよう、味方がいない。
「いや、僕、平民だし、元孤児だし、ただの冒険者だし、そういうのはちょっと……」
突然右手をがっしりと掴まれた。
「大丈夫、私だって平民だから。」
あの~、エレノアさん。掴まれた右手が動かせないんですけど。アリシアさんといい、勇者パーティーともなると後衛でも怪力になるのでしょうか。
「うちなんて、傭兵上がりの流れもんやで。」
カレンさんが僕の左手をがっしりと掴む。同じ女性でもこちらは前衛だ。その気になれば僕の腕ぐらい握り潰されてしまうのではなかろうか。
「お、両手に花だな。手続きは済ませたぞ、ほら。」
戻って来たギルドマスターが、僕の冒険者カードを胸ボットに突っ込んでくれる。それよりも助けてくださいよ~。
「ぜーったい、逃がさへんで―。」
それから数日間の記憶は曖昧だ。
確か、式典用に衣装を作ると言ってやたらと高級そうな店へ連れていかれた。
最低限の礼儀作法だと言って色々と詰め込まれた。なんだか、頭で憶えるな、身体に叩き込め的なノリだった気がする。
それから式典での受け答えを覚え込まされて。
式典のリハーサルをやって。
衣装合わせとかでまた店に連れて行かれて。
リハーサルやって、リハーサルやって、衣装合わせして、リハーサルやって、リハーサルやって、本番やって。
せっかくお金が入ったのに装備の新調どころか、あれからダンジョンにも潜っていないよ。
あっ、装備は買っているな。式典用のそれっぽい装備を国のお金で。違う、僕の欲しいのはダンジョンに潜るための装備だよ!
あれ? 繰り返したリハーサルの間に本番が混じっていたような……って、今本番の真っ最中だったよ。
しかも僕の出番終わっているよ。失敗していないよな?
落ち着け、落ち着いてゆっくりと思い出せ。大丈夫、僕は前世の記憶まで思い出した記憶力の持ち主だ。
うん、問題ない。顰蹙を買うような大失敗はしていない、たぶん。
自分の番が終わって気が抜けたら意識がもうろうとしていたみたいだ。最後まで気を抜かないように注意しよう。
「アレクシス・アルスター。魔王エグバートを討伐した功績を認め、ここに『勇者』の称号を授ける。」
「謹んでお受けします。」
さすがはアレク。国王陛下を前に堂々としている。まあ、アレクは王子様なのだから国王陛下が実の父親なわけなのだけど。
「……よく頑張ったな、アレクシス。」
こそっと、アレクの耳元でささやく国王陛下。さりげなく父親やっているなぁ。
「うーん、緊張した。」
控室に移動し人目が無くなると、アレクは冒険者モードになって伸びをした。
いやいや、一番堂々としていたアレクにそんなこと言われると、僕たち庶民組は立つ瀬がないんですけど。
エレノアさんは緊張でがちがちになっていたし、カレンさんは台詞の度にイントネーションを気にして涙目になっていたし、僕は記憶が飛んでいたし。
「私たちの場合、あなた方のような元庶民の方と違って、些細な間違いでも問題にされてしまうので気を使うことが多いのです。」
堂々としていた側のアリシアさんが、アレクをフォローする。さすがはアレクの婚約者だ。
ん? 元庶民?
「でも、これで君たちも貴族の仲間入りだな。」
「あっ」
「うっ」
「くっ」
アレクのにこやかな一言で、忘れていたかった事実を思い出してしまった。
今回の叙勲で、アレクとアリシアさんは称号と勲章をもらっただけで身分はそのままだ。王族と公爵家令嬢の身分を上げるとなると簡単にはいかない。
しかし、平民だった僕たちは、騎士爵に叙されてしまった。この国の爵位としては一番下だけど、それでも貴族の一員なのだ。
「貴族といっても騎士爵は一代限りだし、領地も持たないから大した仕事はない。貴族としての義務や礼儀作法もあるけど、すぐに覚えられるから心配しなくても大丈夫だ。」
幼少期から貴族の作法を叩き込まれてきた人に、すぐに覚えられるとか大丈夫とか言われても、全く安心できないのですが。
「しばらくは今までと同じように過ごして問題ない。その間に貴族の勉強はしてもらうけど。」
ああ、やっぱり貴族の勉強はしなきゃいけないんだ。
「今後功績を上げて、男爵に陞爵すれば永代の貴族になるし、場合によっては領地ももらえる。その場合は、貴族としての仕事も増えるし、貴族同士の付き合いも避けられなくなるけどな。」
よし、これからは目立たないように生きよう。
この世界の勇者パーティーのメンバーは雑用係の重要性をしっかりと認識しているので、戦闘で役に立たなくても、身を挺して魔王までの道を拓かなくても、グレッグを仲間として扱います。グレッグが生きて帰った以上、この流れは必然です。