第七十五話 古代遺跡を探索します8
「こちら側も同じような感じだな。」
アレクが周囲を見回しながら言う。王宮の地下から入った古代遺跡の通路も、ダンジョンの最深部から入った所と同じようなデザインだった。
「同じ古代遺跡だから同じ様式。ここまで同じだと、同時期に一度に作られた可能性が高い。でも、これほど大規模なものは珍しい。」
エレノアさんが補足する。
確かに、この古代遺跡は大きい。王宮とダンジョン、二ヵ所の入口の距離を考えるだけでも王都ロシュヴィルに収まらないだけの大きさがある。
これだけの大きさの構造物を一時期に、しかも地下に作ってしまったというのだから、古代文明の力はとんでもないものがある。技術力だけでなく、経済力も今のアルスター王国なんかよりはるかに大きいのだろう。
そういえば、王都の平民区でも建国初期に作られたとか言う古い家と最近作られた新しい家ではパッと見で分かるくらいに違いがある。けれどもこの古代遺跡の通路の壁はどこもみんな同じ造りだった。たぶん大量生産して一気に作られたのだろう。徐々に拡張して行ったのならここまで同じ造りにはならない。
「それでは行くぞ。まずは、『瘴気調整部屋』に向かう。」
王都の地下に広がる古代遺跡については、極一部ではあるけれども地図が作られていた。
建国王ルーカスの時代に、何度か王宮側の入口から入って探索していて、主に『瘴気調整部屋』と呼ばれる場所までの道はしっかりと地図ができていた。
この『瘴気調整部屋』は、建国王の記録で古代遺跡の機能を操作して瘴気を吸収するように設定したあの場所である。アルスター王国の急所であると同時に、古代遺跡に異変があった時に駆け付けられるように、地図は王宮で厳重に保管されていた。
実は、ダンジョン側の入口近辺の地図もあったのだけど、その存在を知ることなく僕たちは古代遺跡を探索してしまった。ダンジョンの第十階層から古代遺跡に行けるとは思わないから、国家機密を僕たちに見せるわけにはいかなかったそうだ。
一方、今回は最初から古代遺跡の探索なので、王宮で管理している極秘資料が提示された。それをエレノアさんが嬉々として読み込んでいた。
そして、邪竜対策の研究者とも協議した結果、最初に瘴気調整部屋によって情報収集することが遺跡調査の近道だろうということになった。
瘴気調整部屋は、古代文明時代の記録にあった副制御室の一つ、または主制御室なのだろう。
その部屋で遺跡の機能にアクセスできれば古代遺跡の詳細を知ることができ、効率的に探索が進むと考えられた。
瘴気調整部屋にはあっさりと到着した。
一応簡単に探索しながら来たのだけれど、地図はあるから道順は分かっているし、この古代遺跡にはモンスターも出てこない。
白い守護者が稀に巡回して来る通路もあるらしいのだけど、頻度は少ないしコースは決まっているので隠れてやり過ごせば問題ないそうだ。そのくらいまでは調べが付いていた。
一方で、それ以外の場所に関してはほとんど調べられていなかった。瘴気調整部屋まで安全に行き来できるルートを確立したところでそれ以上の探索を止めてしまったようだった。
「……フムフム、……これは……なるほど……」
エレノアさんがすごい勢いで部屋にあった装置を操作しています。
元々古代文明に関する勉強もしていて予備知識があったところに、前回古代文明時代の記録を見て操作方法を覚えたのだそうだ。
そして今回、王宮に保管されていた資料を読み漁った結果、さらに細かく遺跡の装置を扱えるようになったらしい。
かつて建国王が探索し、遺跡から持ち帰った資料の中には、操作マニュアル的なものが含まれていたと言う話だ。。
過去の研究者はこの資料があっても瘴気の放出量の調整くらいしかできなかった。けれどもエレノアさんは明らかにそれ以上に遺跡の装置を使いこなしている。
エレノアさんの操作に従って、ディスプレイらしき装置に次々と文字が、たまに図形やグラフが表示されて行く。
表示される文字は、古代文字と呼ばれるものだ。古代文明で使われていたと云われる文字で、このメンバーの中ではエレノアさん以外読むことはできない。
古代文明時代の記録を見ていて何を言っているのか理解できる程度には同じ言葉を使っているはずなのだけど、文字の方はまるで別物なのだから不思議なものだ。
エレノアさんによると、古代文字は専門家の間でも完全に解読されていないのだそうだ。もしかして、表意文字だったりするのだろうか?
「ん、見つけた!」
エレノアさんの声と共に、画面の表示が切り替わった。これは……すごい、古代遺跡の全体地図だ!
先ほどからエレノアさんが行っていたのは、古代遺跡に関する情報収集だった。
本当は同じ装置で遺跡に対する捜査――瘴気の放出量を調整したり、隔壁を下ろしたりなど――もできるはずなのだけど、何かあると怖いので最初は情報収集のみ行うように、とアレクが厳命していた。
その結果、この地図が出て来ただけでも大成果だった。僕は大急ぎで紙に書き写していく。
「現在位置はここ。」
しかし、エレノアさんは僕が書き終わるのを待たずに画面を切り替えてしまう。図面の一部が拡大され、その一箇所に赤い光が灯る。今いる瘴気調整部屋の場所だろう。
「そして、この場所に瘴気の発生源がある。」
図面にもう一箇所、光が灯った。
既に、目的地まで見つけ出してしまったらしい。まあ、古代文明にとっても重要なもののはずだから、分かり易く情報が記載されていても不思議はないよね。
どうか、邪竜が居ませんように!
「最短ルートはこれ。」
さらに二つの光点を結ぶ青色の線が表示された。便利だ。まあ、古代遺跡と言っても、昔は普通に人が暮らしていたんだよね。凄い技術を持っていた古代文明ならばこのくらい便利でもおかしくないか。
「問題はここ。この部屋を避けて通る道はない。」
図面に光点が一つ増えた。その場所は……
王宮でもらった地図にも該当する部屋が記載されていた。そこはあの建国王ルーカスが逃げ出した、守護者が存在する部屋だった。




