第七十話 古代遺跡を探索します5
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「今のは、……何だったんだ?」
これまでも予想外の事実を示した記録があったけど、今回は特に訳が分からなかった。アルスター王国の裏の歴史もある程度知っているアレクでさえも困惑していた。
えーと、とりあえず分かる範囲で整理してみよう。
まず、最後はみんな狂ったように戦うという結末は、瘴気溢れる暗黒時代に共通するものだった。暗黒時代の記録とみていいだろう。
それから、獣人族が出てきていた。瘴気に弱い獣人族は人族よりも先にこの地を離れている。暗黒時代の中でもかなり古い記録だろう。
そして、人族と獣人族が仲良く協力しながら戦っていた。アルスター王国だと、獣人族が珍しいこと以外は違和感ないけど、周囲の国の人が見たら信じられない光景だと言うだろう。「奴隷以外の獣人と共闘したら、いつ背後から刺されるか分からない」などと公言している連中だからね。
つまりは、人族と獣人族が決定的に仲違いする以前の記録だということだ。さらには、人族と獣人族の不仲の原因が邪竜にあるという傍証にもなっている。
まあ、歴史や考古学の話は専門家に任せるとして。
最後に、人間が戦っていた相手が何故か動物だった。途中から魔獣と化したけれど、最初は魔獣でも何でもない普通の動物と戦争をしていたのだ。
いや、普通の動物とは言えないだろう。普通の動物は組織的に戦闘など行わない。
あれは一体、何だったのだろう?
「動物を操って戦わせる技術でもあったのでしょうか? それにしては、指揮官となる人間がいませんでしたが。」
アリシアさんは武門の貴族であるローフォード公爵家の令嬢だ。軍事関係については意外と明るい。そのアリシアさんから見ても、動物たちは普通に人間の軍隊と同じように動いていたようだ。
確かに人間が指揮を執っていれば、軍用に訓練した動物に思えるけれど、指揮をしているのも動物だったんだよね。
「既に滅んだ知的種族がいたのかもしれない。獣人族の中には神獣を祖に持つと主張する者もいる。」
エレノアさんの説明に、へーそうなんだと、ジェシカさんも一緒になって感心している。獣人族一般に浸透している話ではないようだ。
それにしても、神獣というには普通の動物っぽい。魔獣化もしているし。
「せやけど、やっぱり邪竜、おらんかったなぁ。」
そう、それも大きな謎だった。勇者ローランドの記録でも、暗黒時代の記録でも、今のところ邪竜らしい姿は一度も確認されていない。
お伽噺の中では邪竜は天を覆うほどの巨体で、八つの頭を持って近付く者は人も獣も手当たり次第に喰らい尽くす。瘴気を撒き散らして土地を汚染し、魔獣を生み出して人々を襲わせる。そのように云われていた。
しかし、記録の中で確認できたのは魔獣と瘴気だけで、邪竜の姿は確認できなかった。まあ、その瘴気だけで人の住めない土地になっていたのだけれど。
邪竜、いれば目立つと思うんだけどなぁ。
「邪竜、ほんまにおるんか?」
確かに邪竜は伝説というよりもお伽噺の世界の存在だけど、実在はするものと考えられてきた。けれども、これだけの記録があって、姿を見せないとその実在も疑わしくなってくる。
「いや、これだけ広範囲に大量の瘴気を撒き散らしていたのだ、それほどの瘴気を発する何かが存在することは間違いない。」
アレクとしては、王都をまるごと死の大地に変えてしまうほどの瘴気発生源なら、邪竜じゃなくても放置できないよね。
謎は謎のまま、僕たちは探索を続けた。
「この先に何かいます! 先ほどの守護者とは違うものです。」
「生命探知に反応あり、数は七体!」
通路の所々にある扉の前で、僕たちは先の様子を窺っていた。ジェシカさんの聴覚や、生命探知の魔術ならば扉の向こうの様子もある程度調べることができる。
現在、過去の記録から判明している守護者は二種類。白い守護者でなければ、そして勇者ローランドの跡をたどっているのならば、次に遭遇するのは黒い守護者の可能性が高かった。
勇者ローランドは守護者との戦闘を極力避けていた。
一つには邪竜の捜索を優先したため。瘴気を利用して邪竜を探していたローランドは、多少の遠回りをしても目的地に着けると考えたのだろう。
そしてもう一つは、勇者ローランドが単独で探索していたこと。単独での戦闘は危険が大きい。邪竜に遭遇する前に消耗することを避けたのだろう。
しかし、僕たちの場合は条件が異なる。
「この先にいる守護者はここで排除する。」
アレクが決断した。
僕たちの目的は、この古代遺跡のどこかに封印されていると思われる邪竜を見つけ、その脅威に対処するための情報を見つけ出すことだ。
邪竜の封印場所の手がかりが全くない以上、遺跡内を虱潰しに探索するしかない。守護者に出会う度に避けていたら探索が進まない。
そして僕たちは単独ではなくパーティーだ。アリシアさんもいることだし、多少の怪我ならば回復できる。戦闘のリスクをある程度カバーすることができた。
勇者ローランドのように不意打ちに近い遭遇戦にならなかったのは幸いだろう。余裕をもって守護者に対することができる。
その場で簡単な作戦を立てた。
「それじゃぁ、開けるよ。三、二、一!」
アレク達が準備を終えていることを確認して、僕は扉を開いた。
その向こうには、予想通り黒い守護者の一団がいた。彼らがこちらに気付いて行動を始める前に、作戦通りこちらから仕掛ける!
「『鈍足化』!」
まずはアリシアさんの補助魔術。黒い守護者は攻撃力だけでなく、その素早さも厄介そうだった。だから、魔術でその動きを阻害する。
「ハアッ!」
ほぼ同時に、ジェシカさんがネットを投げつける。これは白い守護者から回収したものだ。これが、見事に一番近くにいた黒い守護者に絡みついた。
「『氷弾』!」
そこへ、エレノアさんの攻撃魔術が殺到する。狭くて古い通路であることから大技は控え、威力抑えめの氷の弾丸が、しかし通路を埋め尽くすほどの数放たれた。
この氷弾の魔術は、これも当たるとダメージの他に動きを鈍らせる効果がある。
「行くぞ!」
そして、魔術で動きを鈍らせたところで、アレク、カレンさん、そしてジェシカさんも突っ込んで行った。
勝負は一瞬だった。
魔術で動きを鈍らせた効果もあり、黒い守護者は何もできないままに倒された。
僕もエレノアさんの魔術に紛れて後ろに回り込んでいたんだけど、一体倒したところで終わっていた。
別に、黒い守護者が弱かったわけではない。これは作戦勝ちだ。
「やはり、まともに戦っていたら厄介そうな相手だったな。」
だから、アレクの感想は皮肉でも謙遜でもない。少なくとも第七階層のモンスターくらいの強さはあった。
倒された黒い守護者はまるでモンスターのように消え失せた。ただし残されたのは摩核ではなく、水晶のような結晶体。それを回収して僕たちは先へ進んだ。
そして、守護者が守っていたと思われる部屋を発見した。




