第六十九話 古代遺跡を探索します4
評価及びブックマーク登録ありがとうございました。
誤字報告もありがとうございました。
何度も見直しているつもりなのですが、それでも結構見落としていました。すみません。
「なんや、胸糞悪い戦いやな。」
傭兵だったカレンさんはそれなりに悲惨な戦場を経験しているはず。そのカレンさんでさえ嫌悪する戦場がそこにはあった。
非戦闘員の虐殺や略奪がない分ましだけれど、最後は狂ったように死ぬまで戦い続けるというのは見ていて気分の良いものではない。手足がもげようと腹から内臓がはみ出そうと戦い続け、しまいには血まみれになりながら相手に噛みつこうとする様はホラーだった。
「おそらく瘴気の影響。魔人薬の症状に似ている。」
エレノアさんが冷静に分析する。瘴気で士気が上がるとかいうのはこう言うことだったんだね。士気が上がるどころじゃないのは、瘴気が強すぎるのだろう。
「おそらく、勇者ローランドが邪竜を封印する以前の暗黒時代の記録だろう。獣人族が戦っていることから見て、『死の大地』と呼ばれるよりもさらに前、まだ邪竜の瘴気が薄い頃のことかもしれない。」
アレクがそう評する。勇者ローランドが邪竜を封印した後も建国王ルーカスが国を作るまでほとんど人が寄り付かなかったわけだから、『死の大地』になる前の話の可能性がある。
「獣人族は人族よりも瘴気の影響を受けやすい。記録に獣人族が少ないのは、瘴気を避けていたのだと思われる。」
エレノアさんの補足に、先ほどの人族と獣人族の戦いを思い起こす。確かに、獣人族側が真っ先におかしくなっていた。
ジェシカさんが思わずといった感じで身震いする。もしもこの遺跡内に瘴気が充満していたら、真っ先に影響を受けるのはジェシカさんだろう。
「アルスター王国周辺の国が獣人族への差別が強いのは、獣人族が邪竜の配下だという迷信があるからだ。おそらく、瘴気に侵された獣人族が多かったからだろう。」
獣人系亜人差別の原因がこんなところにあったんだ。アルスター王国の近辺の人族の国は、昔から獣人族中心の国と戦争していると聞いていたから、亜人や獣人差別はそこから来ているのだと思っていた。
アルスター王国は獣人族が完全にいなくなった後で建国した国だからその辺りの差別意識が薄いのかな?
「一方、獣人族側は邪竜から避難している間に人族に土地を奪われたという認識で、しばしば紛争の原因になっている。我が国が国名を『アルスター王国』にした理由の一つが、邪竜を倒した人族の勇者を前面に出すことで獣人族からの反感を和らげるためだそうだ。」
うーん、本当に根が深い。人族と獣人族の諍いの根源は邪竜なのか。
それにしても、建国王の記録ではその場のノリで国名を決めていたように見えたけど、色々と考えていたんだね。
僕たちは探索を続けた。
この様子だと、まだまだ狂気に満ちた戦いの記録が出てきそうだけど、それもまたこの国、この世界の歴史なのだ。
「何か近付いてきます! 数は不明、足音がしません!」
ジェシカさんが、少々焦ったような声で叫ぶ。
「生命探知に反応なし、これは生物じゃない!」
僕も魔術で確認するが、生きた存在は見当たらない。つまり、これは――
「来るぞ!」
アレクとカレンさんがすかさず剣を手に前に出る。ほぼ同時に通路の先の角からそれは現れた。
白く丸い体。実物を見ると歩くドラム缶のよう。それは勇者ローランドが戦った守護者だった。
それがまとめて十体ほど。
「うっわー、団体さんやで。」
軽口をたたくカレンさんも、一筋の冷や汗が。なにしろ、勇者ローランドが全力で逃げ出した相手だ。
しかし、僕たちには勇者ローランドの記録で見た情報があった。対策は一応考えてある。
射出されるネットを躱し、斬り払い、アレクととカレンさんは守護者の集団に近寄る。
「ハァッ!」
「セイヤッ!」
そして先頭の二体の守護者に斬りつけた。
アレクの聖剣は金属の装甲を切り裂き、刃はその内部に届いた。
カレンさんの大剣は、その体を切ることはできずとも、その強力な衝撃を装甲の内部に及ぼした。
精密機械らしき守護者が二体、その一撃で動きを止めた。
そして、アレクとカレンさんは、動かなくなった守護者を思い切り蹴り飛ばした。
――ゴロゴロゴロ
蹴り飛ばされた守護者は通路を転がり、後続の守護者全てを巻き込んで倒した。
予想通り、一度倒れた守護者は自力では簡単に起き上がれないらしい。体に比べて細い腕で何とか起き上がろうとじたばたしている。因みに足はローラーなので体を起こす役には立っていない。
「『雷撃の矢』!」
そこへエレノアさんが放った雷の矢が次々と突き刺さる。
金属製の体ならば電気を通すだろうということで雷系の攻撃を行ったわけだが、当たりだったようだ。全ての守護者が沈黙した。
動かなくなった守護者を魔法鞄に回収し、僕たちは探索を続けた。
――人間と獣が戦っていた。
それは不思議な戦いだった。
人間側は人族と獣人族の混成部隊。人族の兵士と獣人族の兵士の間で連携も取れており、最初からこの編成で訓練していることをうかがわせた。
少なくとも人族の兵士と獣人族の兵士が呉越同舟で一時的に共闘しているというレベルでないことは確かだった。
対するのは獣。魔獣のような歪さのない、大型の動物だった。
獣たちは数も多いが種類も多い。熊、猪、鹿、馬、狼等々。
本来共闘するはずもない獣たちが、一丸となって人間に対峙していた。
戦いは、睨み合いの牽制から本格的な殺し合いへと激しくなって行った。
武装した人間の軍隊が獣と対するならば、それは戦いというよりも駆除になる、と普通は思うだろう。
しかし、それは間違いなく戦い――種族を超えた戦争だった。
信じられないことに、獣たちは組織的に戦っていた。種族も異なる動物たちが連携を取って人間の軍隊と戦っていた。
それは、獣の軍隊だった。
人間と獣の戦争は、最初は互角に進んだ。しかし、武器を振るう分優位だったのか、人間側が次第に押し始めた。
そして、その時は訪れた。
次第に劣勢になりながらも、それでも最前線で戦っていた一頭の獣が、いきなり変異した。
歪に変質したその姿は、紛うことなき魔獣だった。それは、魔獣が誕生する瞬間だった。
最初の一頭を皮切りに、獣が次々と魔獣へと変わって行く。魔獣と化した獣は、本能の赴くままに人間に攻撃を加えて行った。
突然の敵の変貌に驚き、乱れた人間の軍隊であったが、すぐに体勢を立て直した。
魔獣と化したことで、攻撃力や凶暴性は増したものの、仲間との連携や作戦行動といった組織的な戦いができなくなっていた。冷静に戦えば対処のしようはあるように思えた。
しかし、事態はそれだけに留まらなかった。
次々と魔獣と化して行く獣に呼応するように、人間の、獣人族の兵士の中から狂ったように戦い始める者が出てきた。
戦闘狂となった獣人族は、基本攻撃してくる魔獣と戦うのだが、中には近くにいた味方に攻撃を仕掛けてしまう者もおり、事態は混迷してきた。
やがて多くの獣人族の兵士が狂戦士と化すと、人間側の軍隊も作戦行動を取ることが難しくなってきた。身体能力に勝る獣人族は、攻撃の中心となっていたのだ。
そしていつしか、戦場を覆う狂気は人族の兵士にまで感染して行った。
こうして戦争が終わり、ただの殺し合いが始まった。




