第七話 報酬を受け取りました
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「まずは、迷宮核だが、金貨二百枚で買い取ろう。」
ギルドマスターは、金貨の入った袋をドサリと机の上に置いた。
「そんなに!」
予想以上に高額で僕は驚いた。
この国の通貨は、金貨、銀貨、銅貨の三種類ある。その上に白金貨とか、ミスリル貨とかもあるけれど通常使われるものではない。
金貨はだいたい日本円にして十万円。銀貨は千円。銅貨は十円くらいの感覚だ。物価が違うからあんまりあてにはならないけれど。
銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚というのが大まかな貨幣の交換レートになる。厳密には貨幣の価値は金銀銅の貴金属の価値に依存するので、細かな変動はあるのだけれど、ここ百年以上は安定しているのでみんな大まかな変換レートで暮らしている。
金貨二百枚はおおよそ二千万円。物価が安いから貧しい平民の暮らしならば一生働かないで生きて行けるんじゃないかな。遊んで暮らすというほどの余裕はないだろうけど。
ダンジョンの第一階層のモンスターから取れる摩核の買取価格が銀貨二~三枚程度。現在最前線と呼ばれている第五階層のモンスターでもせいぜい銀貨三十枚程度だ。
二つに割れていても金貨二百枚という迷宮核がいかに破格か判ろうというものだった。
「それから、アレクパーティーから依頼の完了を確認した。報酬の金貨百枚、ここで渡しておこう。」
再びドサリと金貨の入った袋が置かれる。これは、アレクからの依頼に対する報酬だった。
アレクは魔王討伐に当たり、必要な戦力を自前で揃えた。自身が腕の立つアレクに、傭兵上がりの剣士カレン、天才魔術師のエレノアに、優秀な治癒師のアリシア。
少数精鋭で攻略しなければならないダンジョンに合わせて選りすぐった人材を集め、訓練を行った。
まあ、前衛が二人とも攻撃役だったから欲を言えば壁役も欲しいところだけど、これで十分だと判断したのだろう。実際第九階層のモンスターでも一体だけなら瞬殺だったし。
しかし、いくら精鋭を集めて訓練しても、それだけで攻略できるほどダンジョンは甘くない。ダンジョンの知識と経験を得るには年単位で時間がかかる。
そこで、アレクは冒険者ギルドに依頼を出した。ダンジョンの知識と経験が豊富な「雑用係」を一名募集と。戦闘は全てアレク達が行うので、非戦闘員の雑用係を募集する形になった。
ただし、第十階層まで潜って魔王を倒す勇者パーティーの雑用係だ。通常の依頼と同じ扱いはできなかった。この依頼はギルドマスター預かりとなった。というか、ギルドマスターに最適な冒険者を斡旋してもらうことにしたのだ。
その結果ギルドマスターの推薦で選ばれたのが僕だった。まあ、普段から単独で第二階層以上まで潜ったり、複数のパーティーにちょくちょく臨時で参加する冒険者は少ないからね。
通常の冒険者への依頼ならば、依頼主に完了のサインをもらうか依頼主自身が完了の手続きを取る。採取系の依頼ならば現物納品で完了する場合もある。
僕が臨時にパーティーに加わる場合はたいていがギルドを通さない冒険者同士のやり取りなのであまり関係ないけど、ダンジョンに同行するような依頼は帰って来てから依頼主が完了手続きをするのが一般的だった。
依頼を受けてダンジョンに同行したが、依頼主が戻らず、依頼を受けた冒険者だけが戻ってきた場合は、一定期間待っても依頼主が戻らなければ戻って来た冒険者の証言をもとに依頼の成否を判定する。
この時その冒険者の証言を否定するような証拠――他の冒険者の証言やその他の物証――が出てこなければ、だいたいその冒険者の言い分が通る。
アレクが罠に飛び込んだ僕に解雇通告を行ったのは、依頼の完了を明示的に示すものでもあったのだ。
場所が第十階層ともなれば基本的に生き残った者の証言が全面的に通る。ただし認められるまでに時間もかかるし、手続きも面倒だ。
しかし、依頼主のアレクが無事生還し、依頼完了の手続きを取ってくれたので無事報酬が全額支払われれることになった。
合計で金貨三百枚。これが今回の僕の取り分だ。特に迷宮核は勇者パーティーに引っ付いていっただけで掠め取ったようで気が引けるけれど、解雇後に単独で見つけて回収した以上、僕の正当な収入だった。下手に遠慮するとギルドマスターの鉄拳制裁が待っている。
これだけあれば、以前から考えていた全装備の更新ももうワンランクアップできる。最上級品を買おうと思ったらこれでも足りないというのが恐ろしいところなんだけど。まあそんなすごい装備があっても僕には扱いきれないし。
「それで、どうする? ギルドに預けるのならば、この場て預かるが。」
冒険者ギルドは金融機関の役割も果たしている。高ランクの冒険者にもなると一度に金貨数十枚の収入も珍しくないし、同じだけ高価な武器の購入も珍しくない。
大量の金貨を持ち歩くのは不用心だし、純粋に重い。だから冒険者ギルドで預かってもらう仕組みがあるのだ。
冒険者ギルドに預けたお金は冒険者ギルドの窓口で下せるし、ギルドと提携した店ならば冒険者カードを提示すれば冒険者ギルドの口座から支払うこともできる。
なお、高額な武器等の支払は先に冒険者ギルドに対して口座残高の問い合わせが行われるのが普通だけど、少額の買い物では月末にまとめてギルドに請求が行くつけ払いになる。このため、残高以上の買い物を行ってしまうと冒険者ギルドに対する借金となってしまう。
冒険者ギルドでも冒険者に対する融資なども行っており、利率はさほど高くないのだけれど、借金が発生すると依頼の報酬から返済分が天引きされ、生活が苦しくなる冒険者も多いので注意が必要だ。
僕は袋の中から金貨を一枚だけ取り出した。残りの袋を指して、
「全部預かっておいてください。」
正直僕は弱い冒険者なので大金を持ち歩くのは怖い。まあ、強い冒険者でも油断すると盗まれるけど。
「分かった、冒険者カードを出せ。手続きをしてくるからちょっと待て。さっきの続きでも好きにしていればいいぞ。」
いや、さっきの続きは勘弁。本当に天国に逝っちゃうので。