第六十八話 暗黒時代
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その地は戦いで満ちていた。
――人間と魔獣が戦っていた。
襲い来る魔獣から仲間を守るためか、それとも魔獣を排して自分たちの領土を拡張しようと考えたのか。魔獣と戦い人間の一団があった。
人間側は軍隊らしく、整然と隊列を組んで、組織的に魔獣を倒して行った。
対する魔獣は何の考えもなくただ闇雲に襲ってくる。各個撃破されているが、魔獣は数が多く、仲間が倒されても一切躊躇しない。いずれは人間の兵士も疲弊し、士気も落ちると思われた。
しかし、予想に反して人間の兵士は粘った。何時間も戦っているはずなのに、まるで士気が衰えない。
……いや、それどころか戦場の熱気にでも当てられたのか、いよいよ猛々しく魔獣を屠って行く。
そして、ついに隊列が乱れ始めた。
魔獣に押し込まれたわけではない。逆に兵士の方が前に出ていた。興奮しているのか、指揮官の指示もろくに聞かずに目の前の魔獣を倒す作業に熱中している。
何か異様だった。魔獣の数はいまだに多く、状況は決して良くないのに、嬉々として魔獣に向かって行く兵士達。
やがて隊列は完全に崩壊した。それでも戦い続ける兵士達。いつの間にか指揮官の姿が見えなくなっていた。一人で逃げ帰ったのか、他の兵士に混じって魔獣と戦っているのか。
もはや連携も何もなく、仲間が倒れ、魔獣に食い殺されてもお構いなく、ひたすら戦い続ける兵士達。その戦い方はまるで魔獣のようだった。
――人間と人間が戦っていた。
国と国の戦争だろうか。同じような格好で武装した者達が二グループ、対峙していた。規模は双方五十名程度、国の存亡をかけた全面戦争ではなく、局地的な小競り合いだろうか。
戦いが始まった。どうやら双方とも歩兵のみで、魔術師もいないようだ。人数だけでなく、兵士の質の上でも両者互角のようだった。
戦力が互角で、勝敗を決定付けるような作戦もなければ、戦局は膠着する。戦いが長引けば長引くだけ消耗し、得るものは無い。
払った犠牲に見合うだけの勝利は得られない。そのことが明白になった時点で、味方の損害をなるべく避け、適当なところで痛み分けとして撤退するのが正しい判断だろう。
しかし、戦いはなかなか終わらなかった。
既に双方とも何人も死傷者を出している。このまま戦い続けて勝利を収めても、その後戦い続けられる者は何人も残らないだろう。それではこの地を占拠することも、ここから先へ進軍することも叶わない。
それでもどちらも戦いを止めようとしない。それどころか、ますますヒートアップして行く。しまいには、負傷していた者達まで立ち上がり、戦いに加わった。
そしてついには乱戦になった。その直前で戦場を離脱した数名はまだ理性を残していたのだろう。
そう、戦場に残った者達は明らかにおかしくなっていた。
敵味方入り混じった乱戦が、敵味方を問わない殺戮に変わるまでさしたる時間はかからなかった。
無差別な殺し合いは、最後の一人が死に絶えるまで続いた。
――人族と獣人族が戦っていた。
人族の国と獣人族の国との戦争なのだろう。人族のみの陣営と獣人族のみの陣営に明確に分かれていた。
人数は明らかに人族の方が多い。しかし、個々の身体能力では獣人族の方が勝っている。勝敗は、戦ってみないことには分からなかった。
戦いが始まると、最初の内は互角だった。予想通り、人族の数の多さと、獣人族の身体能力の高さが拮抗した形だ。
しかし、しばらくすると次第に獣人族側が押され始めた。数の優位を活かした人族側の指揮官の采配が勝ったようだ。
このまま無策に続ければ、いずれ人族の軍が押し切るだろう。そう思われた。
だが、その流れが変わった。獣人族側の策略によって、ではない。
一人の獣人族の戦士が突然突出した。単身敵兵の真っただ中に躍り込み、暴れだしたのだ。
それは自殺行為に他ならない。いくら身体能力に優れる獣人族であっても、多勢に無勢。全方位からの攻撃を捌き切れるはずもない。これは死兵、自らの命を顧みない特攻だった。
意表を突かれ、さらに後先を考えない獣人族の全力を前に、人族の兵士達は多大な犠牲を出したが、それでもその獣人族の戦士はすぐに討ち取られた。
所詮は無謀な特攻だったのだ、長続きはしない。ただ一人が命を懸けたくらいで大局は変わらない。
それがただ一人だけならば。
人族の軍が対策を立てるよりも早く、二人目の獣人族の戦士が特攻を仕掛けた。
そして三人目、四人目と、次々と命を捨てて特攻して行く獣人族の戦士たち。まるで一人目の狂気が乗り移ったかのように、見境なく暴れ始めた。
戦線が崩壊した。獣人族の猛攻に掻き回され、数を活かした連携が取れなくなっていた。
戦局は一転、獣人族側に傾いた。しかし、その代償は大きかった。ただでさえ数に劣る獣人族の戦士を磨り潰しているのだ。優勢は一時的、長続きするはずがなかった。
それでも獣人族は止まらなかった。いつしかその熱気と狂気は獣人族の軍全体に広がっていた。
ただでさえ強い獣人族の戦士が、より一層力と凶暴性を増したことで、連携の乱れた人族の兵士達は為す術もなく損害を増して行った。
まともに考えれば、人族の軍は一度退いてでも体勢を立て直すべきだろう。獣人族の猛攻は一時的なもの。理性を捨てた攻撃ならば、落ち着いて考えれば対処方法もあるはずだった。
だが、人族の軍もまた引かなかった。体勢を立て直すことすらせず、荒れ狂う獣人族の戦士を迎え討った。
まるで獣人族の戦士の狂気が人族にまで乗り移ったかのように、人族の兵士もまた闇雲に戦い始めた。
それはもはや戦争ではなかった。ただの殺し合いだった。
敵も、味方も、人族も、獣人族も、次々と倒れ、死んで行く。それでも戦いを止めようとしない。
そして、戦いは動く者がいなくなるまで続いた。




