第六十三話 古代遺跡を探索します1
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「今のは、一体……」
僕は少々混乱していた。
長い階段を降りて、ようやく下の階――第十一階層だかただの隠し部屋だかは分からないけれど――に辿り着き、さあこれから探索してみようというところでいきなり奇妙な映像を見せつけられたのだ。
まあ、意味は分かる。あれはおそらく魔王になる前のエグバートと当時の国王陛下だろう。でもこんな歴史は知らない。この話が本当ならば、この国の常識が幾つかひっくり返る。
「今のはおそらく、エグバートの記憶だろう。」
しかし、アレクは何のためらいもなく認めた。
「この国には、王家と国の一部の者しか知らない秘められた歴史がある。エグバートは国のためにダンジョンを作った。」
え~、やっぱり今のは本当のことなの!? と言うか、これ国家機密じゃない? なんか、とんでもない話を聞いてしまったよ。
「それに、ダンジョンのモンスター対策の研究に隠れて邪竜対策の研究も進められている。俺も教えられたのは勇者の称号を得た後だったが。」
そうか、魔王を倒した時はまだアレクも知らなかったんだ。……いや、問題はそこじゃない。
「邪竜って、勇者ローランドが倒したんじゃなかったの?」
僕は恐る恐るアレクに聞く。
「封印するだけで精一杯だったらしい。邪竜は王都の地下に埋もれた古代遺跡の奥深くに今でも存在しているということだ。」
うへぇ~、邪竜もそうだけど、王都の地下に古代遺跡があるなんて言うのも初耳だよ。この国、ヤバい秘密が多すぎない?
「確認した。ここはもうダンジョンじゃない。ダンジョンの影響は受けているけど、王都地下の古代遺跡の内部。」
周囲を調べていたエレノアさんが、アレクに結果を報告する。そっか、第十一階層ではなくて、ダンジョンを突き抜けていたのか。古代遺跡?
「そうか。王家に伝わる記録によれば、地下に埋もれた古代遺跡への出入口は二ヵ所。王宮の地下と現在ダンジョンがある場所だ。ダンジョンで塞がれた古代遺跡への入り口が第十階層にあったのだろう。」
王城からダンジョンまでって、無茶苦茶広いんですけど、古代遺跡。
それに王都の地下の古代遺跡に邪竜が封印されているということは、僕たちは邪竜の上で暮らしていたのか。うん、知らない方が幸せな真実だね。
既にここは古代遺跡の中ということは、この先進んで行くとどこかに封印された邪竜がいるということ。
「アレク、もしかして邪竜と戦うつもり?」
正直、アレクならばやりかねない。
「せめて何か情報を持ち帰りたいところだな。」
まあ、そんなところだよね。アレクとしても邪竜などという危険な存在は排除しておきたいところだろう。
しかし、伝説の通りならば邪竜は魔王以上の脅威だ。魔王とダンジョンの存在は王都ロシュヴィルの危機という扱いだっだけれど、伝説の邪竜は世界の危機だったと云われている。
アレクは勇敢で時には無茶もするけれど無謀ではない。第十階層の探索結果も含め、ここまでで得た情報を持ち帰る重要性もしっかりと認識している。危険があれば無理せずに引き返すだろう。
国では秘かに邪竜対策の研究を行っているという話だけど、今回は特に対邪竜兵器とか持ち込んでいないしね。
「ダンジョンに瘴気を奪われて十分に弱体化しているようならば、邪竜と一戦交えてみるのも手ではあるな。」
どうせならば弱体化し過ぎて死んでいれば楽なんだけどね。
逆に、邪竜が既に封印から解放されていて古代遺跡の中を自由に動き回っていたりするとかなり面倒なことになる。重要な情報を持ち帰ることなく全滅することが最悪の結果だ。
ダンジョンでなくても、古代遺跡の中には魔物が住み着いていたり、守護者と呼ばれる魔法生物が徘徊していることもあるらしいから注意が必要だ。危険は邪竜だけではなかった。
僕たちは、今まで以上に気を引き締めて、慎重に探索することにした。
「クックック、未知の遺跡。古代のロマン……」
エレノアさんが、不気味な感じでやる気を出していた。
ダンジョンから地下遺跡に移っても、探索の基本は変わらない。
最初に出た部屋を仮の拠点として、地図を作りながら少しずつ行ける周囲を調べて行くだけである。
けれどもダンジョンとは異なる点がいくつもある。これは、ダンジョンに最も慣れている僕が一番注意しなければならないことだ。
例えば、ダンジョンと異なり壁も床も天井も自動的に修復されることはない。壁に記入した文字が自動的に消えることはないが、崩れて埋まった通路が元に戻ることもない。
例えば、ダンジョンは攻略可能なように設計されているから、重要な場所には必ず行く方法がある。しかし、自然の風化で通路の崩れた古代遺跡が目的地まで繋がっている保証はどこにもない。
例えば、ダンジョンと異なり、壁や扉は破壊可能だ。ただし破壊した結果どうなるかはやってみないと分からない。罠と違って意図的に決まった結果をもたらす仕掛けがあるわけではない。
先ほど映像を見せられたように、古代遺跡の中には機能が生きているものもある。何千年も昔のもののはずなのに、古代文明というのはとんでもない技術力だったらしい。
そして、生きている機能も必ずしも侵入者に対するものとは限らない。と言うか、ほぼ関係ない。
ダンジョンの意図を読んで地図から正解のルートを予測するような真似はできないだろう。むしろ、その手の推測は、エレノアさんの領分になる。
それからもう一つ。
「全員、ランタンを装備したか?」
アレクが最終確認を行う。
腰に取り付けたランタンは、魔力で光る魔道具だった。燃料も酸素も消費しない優れものだ。
だいたいの場所で光源が存在したダンジョン内ではほぼ出番のなかった便利アイテムだけど、ここから先は真っ暗闇の通路や部屋に出る可能性が非常に高い。明かりは必須だった。
「それでは、行くぞ。」
未知の遺跡に、僕たちは足を踏み出した。




