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勇者パーティーから追放された雑用係は全てを呪う復讐者に、なりません。  作者: 水無月 黒


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第六十二話 魔王誕生前夜

 「それは真か、エグバートよ。」

 「遺憾ながら陛下、まぎれもない真実でございます。」

 その部屋には二人の男がいた。

 「王家に伝わる文書、古代遺跡の調査結果、そして長年にわたる瘴気の観測結果。それら全てを統合すれば出て来る結論は一つです。」

 そして二人以外誰もいなかった。

 「遠くない将来、『悪意の邪竜』が甦ります。」

 二人だけで深刻な会話を交わしていた。

 「邪竜の完全復活はおそらく数百年後、しかしその前兆である瘴気の増加は既に始まっております。数十年後には王都に人は住めなくなるでしょう。」

 それは国の未来を左右する重大な問題だった。

 「どうにか防ぐことはできないのか?」

 一人は国王。アルスター王国の、おそらくは三百年前の国王陛下。

 「難しいです。瘴気だけならば防げるかもしれませんが、邪竜が出てくれば終わりでしょう。彼の邪竜は古代の勇者ローランド・アルスターでさえ倒しきれなかった相手です。」

 一人は宮廷魔導士。後に魔王となる男。

 「ですが、邪竜の復活を遅らせる方策ならばございます。」

 策はあると言いつつも、宮廷魔導士の表情は険しい。

 「そのようなこと、可能なのか?」

 問い返す国王の表情も険しかった。

 「邪竜は瘴気を吸収して力を付けていると考えられています。その瘴気は王都の地下に広がる古代遺跡が地上の人々の負の感情により生まれる瘴気を集めたものです。ならば、その瘴気が邪竜に渡らないようにすればよいのです。」

 淡々と語る宮廷魔導士。けれども、言うほど簡単な話でないことは明白だ。

 「しかし、その瘴気を如何にする? 地上に放出すればそれこそ人が住めなくなるぞ。」

 宮廷魔導士がその程度のことを考えていないとは国王も思ってはいない。それでも王は問う。何の犠牲も払わず、リスクも負わずに解決できる問題ではないからだ。

 「ダンジョンを作ります。古代遺跡を利用すれは私の魔術でも可能でしょう。大きなダンジョンで大量の瘴気を消費すれば、うまくすれば邪竜の瘴気を奪って弱体化させることもできるやもしれません。」

 宮廷魔導士は事も無げに言ってのけたが、それを聞いた国王は顔色を変える。

 「だが、ダンジョン創造は禁忌の魔術だ! 国として認めることはできぬ。」

 ここまで冷静に話していた国王が、ここで声を荒げた。ダンジョンはうまく制すれば利益をもたらすが、モンスターを生み出す危険な存在だ。それを人為的に作り出すことは禁忌とされていた。

 「ならば、私を国家に叛逆した大罪人とすればよいのです。どのみちダンジョン創造の魔術を行使すれば、私はマスターとしてダンジョンに囚われましょう。全ての罪は私が引き受けます。」

 しかし、宮廷魔導士は揺るがない。最初から覚悟を決めていたのだ。

 「何故だ、エグバートよ。何故そこまで己を犠牲にする!」

 ここで国王は国を担う王ではなく、友を心配する友人の顔を見せた。二人には王と臣下という主従関係を超えた絆があった。

 「……陛下、私はこの国が、この街の人々が好きなのです。古代遺跡に瘴気を吸い取られている故少々覇気に欠けますが、優しく穏やかな人々が大好きなのです。それが瘴気に侵されて殺し合う姿など見たくありませぬ。」

 これが偽らざる本心なのだろう。宮廷魔導士は穏やかな顔で語る。

 「……」

 国王は静かにその独白を聞く。この国の王として、この国に住まう一人の人間として、思いは同じだった。

 「幸い私は天涯孤独の身、国家反逆罪に問われても累の及ぶ親類はおりません。適任でございましょう。」

 国王は悟った。何故宮廷魔導士がこのような密談を求めてきたのか。この男は自分一人で全ての罪を背負い国を救うつもりなのだと。

 「本当に、他に方法はないのか?」

 もっとましな方法があれば宮廷魔導士もこんな話はしなかっただろう。それが分かっていても問わずにはいかなかった。

 「残念ながら。勇者でも英雄でも無いこの身故、他に邪竜に抗う術はございません。」

 勇者にも英雄にもなれなかった魔導士は、魔王になるしかなかった。

 「……そうか。ならば止むを得まい。この国の未来、お前に託そう。これを。」

 そして国王は、国のため、民のため、王としての決断を下した。

 「これは、国宝のミスリル貨ではありませんか!」

 国王の手渡した小箱の中に入っていたのは、一枚の硬貨。

 「邪竜に対抗するほどの大魔術を行使するのならばそれくらいは必要であろう。好きに使うがよい。」

 こうして、国宝は一人の魔導士に託された。国の未来と共に。

 「ハッ! この一命にかけて成功させて見せます。」

 この国にダンジョンが誕生することが正式に決まった瞬間だった。

 「忠義の臣を犠牲にしたうえ、末代までの汚名を被せるのだ。これしきのことではまだ足りぬ。望みがあれば申してみよ。」

 宮廷魔導士の忠義に報いる手段はない。どれほど高価な褒賞を与えてもダンジョンマスターになれば価値を失うだろう。名誉すら与えることはできないのだ。それでも国王は何かしてやりたかった。

 「それではまず、屋敷の使用人は無関係なので罪に問われないようにお願いします。」

 「それは当然だな。忘れず対処しよう。」

 身寄りのない宮廷魔導士に親しいものは少なかった。

 「ダンジョンのモンスターは可能な限り倒してください。それが瘴気を晴らすことになります。ダンジョンに軍は不向きなので冒険者を育成すると良いでしょう。」

 「うむ、分かった。国策としよう。」

 それは、ダンジョンができれば当然の処置だった。

 「ダンジョンは時間稼ぎです。邪竜対策の研究は続けてください。」

 「ああもちろんだ。お前の稼いでくれた時間は無駄にはせぬ。」

 これもまた、国の未来を思ってのことだった。

 「強き者を育ててください。そしていつの日かダンジョンマスターとなった私を倒してください。」

 「それは……」

 そして、これだけが宮廷魔導士自身の願いだった。

 「ダンジョンマスターとなれば誰かに倒されるかダンジョンが朽ちるまで自死もできません。私とて百年や二百年は持ち堪えて見せましょう。しかし、瘴気に塗れ、邪竜の怨念に晒され続ければいずれは人としての意識は失われ、ただモンスターを操り人を殺すだけの存在になるでしょう。」

 「……」

 宮廷魔導士は、自分の末路を正しく理解していた。

 「下手をすれば私自身の手で邪竜を解き放つことになるかもしれません。だからその前に私を倒してください。願わくば、その強き者が邪竜をも倒してくれればよいのですが。」

 「分かった。必ずや強き者を育て上げよう。ダンジョンを踏破し、邪竜をも打ち倒す強き者を、いつの日か。」

 それ故に、末代までの悪名を必要としていた。

 「それでは私はこれにて失礼いたします。」

 この日、アルスター王国は一人の忠臣を失った。

 「うむ、これまで大義であった。いずれ地獄で再会しよう。」

 そして新たに生まれたダンジョンと魔王と戦う日々が始まった。


これが、復讐者にならなかった版の魔王エグバートの過去になります。

復讐者になっちゃった方の小説では、アルスター王家を悪役にするためかなり悲惨な目にあってから魔王になります。

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