第六十話 第十階層を探索します(中編)
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何度か『ダンジョン小隊』系のモンスターと交戦した後、そいつらは現れた。
数は五体。先ほどの雑兵よりは人間に近付いた顔立ちは、かえって非人間性を際立たせていた。
泥人形か自動人形の類だろうか。
武装している点はこれまでと同じだけど、装備に軍隊のような統一感がない。
一体は大きな盾を手にした壁役。一体は剣を手にし、別の一体は槍を手にしている。この二体が攻撃役だろう。一体は弓を手に、もう一体は杖を持っている。この二体は遠距離攻撃担当か支援役だろう。
冒険者パーティーを模したモンスターの一団だった。
「なかなか骨がありそうだな。行くぞ!」
アレクが、そしてカレンさんが突っ込んで行く。それに応じてモンスターも動く。本当に冒険者のような反応だ。
アレクの振り下ろした聖剣を、盾を構えたモンスターが受ける。巧い。頑丈な大盾でも聖剣をまともに受けたらすぐに駄目になってしまうだろう。それが分かっているらしく、盾で受け流すように斬撃を逸らした。
アレクはさらに追撃しようとするが、そこへ槍が割って入る。槍使いのモンスターは援護に徹するようで、盾の背後から槍を突き出して牽制する。
一方カレンさんの前には剣を持ったモンスターが立ちはだかった。カレンさんの大剣の一撃を手にした剣で器用に受け流す。まともに打ち合っても勝てないことが分かっているのか、大剣の威力が最大となる間合いのギリギリ内側に張り付いて防御に徹している。
カレンさんが距離を取ろうとすると、弓を持ったモンスターが矢を放って牽制する。なかなかの連携だ。
……なんか、アレクとカレンさんの方がモンスター扱いされていない?
「行きます!」
ジェシカさんがアレクとカレンさんを迂回して弓使いのモンスターに肉薄した。するとモンスターは弓を捨てて短剣で応じた。防戦一方だけどかなりの反応速度だ。単なる弓使いではなく、レンジャーだったのかな。
カレンさんと戦っていたモンスターへの矢による援護が途絶えたが、代わりに槍使いのモンスターが、アレクとカレンさんを交互に牽制するようになった。かなり忙しそうだ。
どう見てもモンスター側が押されまくっているが、ここから逆転の目があるとすれば、攻撃に参加していない杖を持ったモンスターだろう。おそらくは魔術師なのだろう、強力な攻撃魔術の準備をしているように見える。
おっと、さすがに不意打ちはできないか。こっそりと杖を持ったモンスター背後に回った僕の攻撃は躱されてしまった。でも魔術の妨害はできたようだ。
「『氷の矢』!」
そこへ、エレノアさんの攻撃魔法が突き刺さり、杖を持ったモンスターが消滅した。
「ハアッ!」
ほぼ同時にジェシカさんのシミターが弓使いのモンスターの首を刎ね、そのまま槍使いのモンスターへと向かう。
槍使いのモンスターがジェシカさんに対応するためにアレクとカレンさんへの牽制の手が止まった。当然、アレクもカレンさんもここぞとばかりに畳みかけ、盾と剣のモンスターはすぐに倒されてしまった。
残った槍使いのモンスターただ一体でこの面子に敵うはずもなく、
――サクリ。
背後ががら空きになったので、最後は僕が倒しました。
「元になった冒険者をどの程度再現しているのかは分からないが、人間らしい動きと判断だったな。」
「せやな、技術だけでなく、ある程度の駆け引きもできておったで。」
「魔術師が全体の指示を出していた。」
やはりアレクは相手の能力を見るために手加減して戦っていたみたいだ。モデルとなった冒険者もかなりの実力者だったのだろうけど、さすがに勇者パーティーには敵わないだろう。
問題なのは、そうした強い冒険者の技術や戦術が真似されているということだ。このダンジョン、時間が経つほどにモンスターが強くなって行く可能性がある。
今のうちに魔王を倒して、迷宮核を破壊できたのは運が良かったのだろう。アレク達並に強いモンスターが出てきたら悪夢だからね。
僕たちは摩核とモンスターの装備を回収して探索を続けた。
ただし、アレクの聖剣を受け止め続けた盾はボロボロでもう使い物にならなくなっていたけどね。
そうしてしばらく探索していると、僕たちはその部屋を見つけた。
「お、あれは『ポーター』やないか?」
「そのようだな。調べて問題がなければこの部屋を拠点にしよう。」
部屋の中には『ポーター』が設置されていた。よし、これで退路は確保できた。
あれ、この部屋何だか見覚えがあるような……。
「あっ! 迷宮核のあった部屋だ!」
「なんだって!」
僕は慌てて『ポーター』に駆け寄ると、そこには僕が書き記した番号が……なかった。あれれ?
部屋の中を見回すと、四方の壁には迷宮核を模したレリーフが、四か所全部ある。
「……違う。僕が入った迷宮核の部屋とそっくりだけど、別の部屋だ。」
あーびっくりした。そういえば、剣聖リチャードが帰還した『ポーター』も、前回僕が記入したマークとかも全然見ていなかった。
ダンジョンってたまにそっくりな地形に出会うことがあるよね。まあ、この部屋は迷宮核の偽装のためにわざとそっくりに作ったのかもしれないけど。
一通り部屋の中を調べて、罠や妙な仕掛けがないことを確認してこの場所を探索の拠点とすることに決めた。
まあ、罠は無かったんだけどね……
「これ、迷宮核だ。」
エレノアさんがとんでもないものを見つけました。
確かにこれだけ色つやが微妙に違う。え、でも、何で?
「どういうことだ? 迷宮核はグレッグが破壊して持ち帰ったはずでは?」
アレクも怪訝な顔で問う。僕の持ち帰った迷宮核は冒険者ギルドとその後国の研究機関で調べられて確かに迷宮核だと判定されていた。
「他国のダンジョンで迷宮核が二つあった事例がある。おそらくこのダンジョンも同じ。」
へえ、そんなダンジョンもあるんだ、知らなかったよ。
「他国の例では二つのダンジョンが融合した結果だけど、このダンジョンは人為的に作られたもの。最初から複数の核を持つように作られたのだと思う。」
僕が壊した迷宮核一個だけではダンジョンは死んではいなかったということだろうか。まさか、魔王が復活したりしないよね?
あ、でも魔王が完全に消滅していないのならば、ダンジョンの外で暗躍するモンスターにアレクの仲間を襲うように魔王が指示していた可能性が高まる。魔王が死の間際に指示を出したというよりあり得そうな気がする。
「つまり、この迷宮核も破壊しなければ、ダンジョンは機能し続けるということか?」
迷宮核を失ってもすぐにダンジョンに目立った変化が現れるわけではない。だから気が付かなかった。
魔王エグバートが作ったダンジョンが機能しているということは、将来的に脅威が残るということだ。アレクとしては見逃せないだろう。
「迷宮核が二つだけとは限らないし、グレッグが破壊した方も再生しているかもしれない。魔王の間から離れた所に迷宮核を置いたのも、同時に破壊されることを避けるためだと思う。」
つまり、広大な第十階層に分散して配置されている何個あるのかも分からない迷宮核を全て見つけ出し、同時に破壊しない限りこのダンジョンは終わらないということだ。かなり面倒そうだった。
「ただ、この迷宮核を壊すことには意味がある。迷宮核を失えばその分ダンジョンにできることは制限され、また核の再生に資源を消費する。実際、グレッグが迷宮核を破壊したことで魔王が弱体化した。」
アレクはちょっと考えてから判断を下した。
「この迷宮核は破壊せずにそのまま持ち帰ろう。」
僕は魔王と戦うアレク達を援護するためにその場で破壊したけれど、今はそこまで急ぐ必要は無いという判断だろう。
迷宮核はダンジョンの外に持ち出せばダンジョンを制御する能力を失い、破壊したのと同じ結果になる。ダンジョンマスターを弱体化させるといった必要性がなければ破壊せずに持ち帰った方が価値が高い。
金銭的価値だけでなく、迷宮核の調査を行う上でもそのまま持ち帰った方が役に立つだろう。
アレクは迷宮核を壁から引きはがして、魔法鞄にしまった。




