第五十九話 第十階層を探索します(前編)
評価及びブックマーク登録ありがとうございました。
総合評価が200ptに達しました。自己記録更新中です。ありがとうございました。
第十階層の再探索に向けて念入りな準備を行った。
第十階層の重要性を鑑みて、探索期間は三ヵ月、第十階層に到着してからも一ヶ月間に延長された。
それに合わせて持ち込む食糧も半年分用意した。最近あまり使っていない魔法薬も多めに用意し、予備の武具も追加した。
最初のダンジョンアタックでやった、とりあえず必要そうなものを手当たり次第に詰め込んだものではなく、これまでのダンジョン探索で有用だったものを厳選した上で大量に詰め込んだ物資だった。
予備として持ち込んだ武器や防具も、今使用しているのと同じものを複数持ち込んでいる。つまり、特級鍛冶屋の特注品を複数だ。もう、金銭感覚がおかしくなりそうだよ。
けれども、そこまでお金をかけてでも第十階層の探索を行う必要があった。国としても、国防にかかわるだけに、むしろ安い出費だと考えているらしい。
と言うか、これまでのアレクの探索でもたらした経済効果を考えるとお釣りがくるのかもしれない。
そんなわけで、多量の物資を持って、第十階層目指して出発した。
「また、ダンジョンに誘われたのか……。」
アレクがそんなことを呟く。ダンジョン突入して四日目にして第十階層に到着しちゃえばそんな感想にもなるよね。
前回、魔王討伐を果たした時にもかなりあっさり最深部まで進んだわけだけど、それでも第五階層以降、素通りした第六階層を除けば各階層を通過するのに二~四日かかっている。
本来完全な空白地帯を探索して二~四日で次の『ポーター』を発見するのはかなり早い方だ。
それが今回は、一日で二階層以上進んだことになる。前回はかなり慎重に進んでいたこと、全員の戦闘力が上がって戦闘がさらに短時間で済んだこと、ジェシカさんが加わって索敵や罠の回避が容易になったことなどを加味しても、異様に早かった。
やはり、ダンジョンに誘われたのだろう。魔王エグバート亡き後、そこに何の意味があるのかは分からないけれど。
最深部、第十階層は古代遺跡風の迷宮型ダンジョンだった。この階層の情報は非常に少ない。
剣聖リチャード以降も、アレクが魔王討伐するまでに三組の冒険者パーティーが第十階層に到達し、生還している。
ただし、三パーティーとも、仲間を失ったり、重傷を負ったりして逃げかえるように帰還していた。まともに探査が行われたことはこれまでなかった。
数少ない生還者の証言から判明していることは、まず悪質な罠が仕掛けられていること。罠が多く仕掛けられている場所とモンスターが出現する場所が分かれているらしいこと。それから、出現するモンスターは人型だったこと。これくらいだった。
罠の悪質さは僕たちも身をもって知っている。慎重に探索を進めて行った。
「ここが落とし穴になっているね。」
僕は床に仕掛けられた落とし穴の周囲に線を引いて分かり易くする。この印が役に立つ日がいつ来るかは分からないけど、地道な努力の積み重ねがダンジョン攻略には必要なのだ。
「穴に落ちると、五秒でランダム転送される。」
落とし穴を調べていたエレノアさんが、そこに仕掛けられた魔術を解析した。剣聖リチャードの罠といい、この階層にはパーティーを分断するような意地の悪い罠も多い。
僕は更に、落とし穴の左右の床にある微妙に色の違うタイルにマークを付ける。これはおそらく横の壁から槍か矢が飛び出してくる仕掛けのスイッチになっている。
魔術の仕掛けられた落とし穴は魔術で感知すれば比較的見つけやすい。だから魔術で罠を見つけたからといって安易に迂回すると、機械仕掛けの罠が発動して横から矢とか槍とかを受けて落とし穴に叩き込まれるわけだ。
ランダム転送ということは、一度落ちて転送されたらそれまでだ。仲間が後を追って同じ穴に入っても同じ場所には行くことができない。ただパーティーがバラバラにされてしまうだけだ。
ある意味、殺傷能力の高い罠よりも厄介だった。
面倒な罠を丁寧に避けて、僕たちは通路を進んで行った。
しばらく通路を進んでいると、あれだけしつこかった罠がぱったりと現れなくなった。
おそらく、トラップゾーンからモンスターゾーンに変わったのだろう。この先は徘徊するモンスターと遭遇するはずだ。
第十階層に出現するモンスターについては、あまり良く分かっていない。もっとも数多く戦った剣聖リチャードも、仲間と合流するために必死であまりじっくりと観察していなかったそうだ。
目撃されたモンスターも色々で、武装した人型であることは共通しているのだけれど、武器も防具も様で々、中には魔術を使う者もいたという。
結局、元となった種族も不明で、人間そのものをモデルにしたモンスターではないかという予想もある。
魔王を補佐する参謀役や第九階層のモンスターを召喚する召喚術を使うモンスターがいるとすれば、第十階層だろうとアレクも考えていた。
「モンスター、来ました! 前方右側の通路から、数は六体!」
早速ジェシカさんの耳がモンスターを捉えた。
戦闘態勢で待ち換え得ていると、やがて現れたモンスターは……人形?
一応人型と言えば人型なんだけど、顔の造りとかかなりテキトーだ。アンデッドには見えないけれど、生命探知に反応はなかった。
それが六体、鎧を着て手に武器を持ち、隊列を組んで向かって来た。
「あれは、三百年前に軍がダンジョンに攻め入るために考案した部隊編成だ。」
王族であるアレクは軍関係の知識もあるから間違いないだろう。確かにモンスターの手にした武器や鎧も軍隊っぽかった。
「歩兵の一個小隊十名では『ポーター』を通れないので、六名で戦闘行動ができるように考えられた編成、『ダンジョン小隊』だ。ただし、弱点がある。」
うん、見ればわかる。前衛二体が盾と剣を持ち、中衛二体が短槍を構え、後衛は弓と魔術だろうか。
軍としては申し分ないのだろうけれど、ダンジョンで活動するにはちょっと危ない。
――サクサクッ!
こっそりと背後に回った僕が、後衛の二体を一撃ずつで倒した。人形みたいだけど、急所は人間と同じでよさそう。
軍団の一部として動いているのならば前方の敵だけに集中すればいいけれど、ダンジョンでは何時何処から奇襲されるか分からない。
突然後衛を倒されたモンスターたちは、動揺したかのように動きを乱した。その隙を見逃すアレクではない。
残るモンスターもあっという間に倒してしまった。
しばらく進むと、再びモンスターと遭遇した。
今度のモンスターも先ほどと同様に武装した人形のようなモンスターが六体だった。ただし、編成がちょっと違った。
「これは、背後からの攻撃に弱いという弱点に対処するために考えられた、『ダンジョン小隊改』だな。」
先ほどのモンスターの集団と異なる点は、後衛の二体が前衛と同じような盾と剣を構えていることだった。後方にもしっかりと注意を払っており、僕が背後に回って攻撃するのは難しそうだった。
しかし、アレクとカレンさんは躊躇することなく突っ込んで行く。中衛の突き出した槍を二人とも軽く避けると、そのまま盾を構える前衛のモンスターに斬りかかった。
アレクの聖剣は構えた盾ごと前衛のモンスターを両断し、次の一振りでまだ槍を引き戻していなかった中衛のモンスターも斬り伏せ、そのままその奥にいた後衛のモンスターも叩き斬った。
カレンさんの大剣の一振りは、盾を構えたモンスターを真後ろに弾き飛ばし、それを受け止めて折り重なった前衛・中衛・後衛の三体のモンスターを一突きで纏めて串刺しにした。
「この編成の欠点は、正面の敵に対して後衛が攻撃に参加できないことだな。」
今の戦闘はそういう問題ではない気がするけど、まあ戦闘はあっさりと終了した。
更に探索を続けていると、またもやモンスターと遭遇した。
相変わらず六体の人形のようなモンスターだったけど、またもや編成が変わっていた。
「これは、攻撃力を重視した、『ダンジョン小隊改2』だな。」
全員が槍装備という思い切った編成だった。
前衛の槍を躱して接近しても中衛が、後衛が、次々と槍を繰り出してくる。特に浅い階層では近接戦闘を仕掛けて来るモンスターが多いので効果的だろう。
欠点は盾を捨てたので防御が弱くなっていることと、槍より長い間合いの攻撃手段がないこと。
僕とジェシカさんが、第八階層であまり使わなかったクロスボウを乱射すると、割とすぐに全滅した。
まあ、三百年前の国軍は第二階層も攻略しきれずに撤退したのだから、その真似をされても大して脅威とは思えない。
戦力的には第二階層のモンスターにも負けないと思うのだけど、やはりダンジョンを探索する技術が足りなかったのだろう。
しかし、今問題になるのはそういう話ではなく、――
「魔王エグバートはダンジョンに攻めて来た者達を分析してモンスターで再現したのだな。」
そう、魔王エグバートはダンジョンに攻めてきた国軍や冒険者を撃退しただけでなく、観察し分析しモンスターで再現までしていたのだ。
エグバートは単にダンジョンに逃げ込んで引きこもっただけなのではなく、反撃のための準備を着実に進めていたという傍証だった。
「ここまで遭遇したモンスターは、第十階層の中でも雑兵なのだろう。しかし、ダンジョンの外で数がいればそれなりの脅威になる。」
国軍がダンジョン内では精彩を欠いたのとは逆に、一部隊ではかなり雑魚なモンスターでもダンジョンの外で大隊レベルの規模になれば恐るべき戦力になる可能性はあった。
それに、モンスターで再現しようとしているのが兵士だけとは限らないからね。
ようやく第十階層に戻ってきました。
第一話~第三話では脱出して終わりでしたが、今回は真面目に探索します。




