第五十四話 第八階層を探索します(後編)
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「左手上空からモンスター来ます! でも、あれは……?」
幾度もカラスやモンスターを撃ち落としつつも、慎重に探索を進めていると、これまでとは少々違ったモンスターが現れた。
数は四体と少ないが、これまでのモンスターより明らかに大きく、形も鳥とは異なっていた。
「あれは、範囲魔法で落とすのは難しい。」
「飛竜か? 大物だな。ここは狭い、少し戻ったところで迎え討とう。」
今いる通路は狭いので、急いで広い場所まで戻り、迎撃態勢を整える。
「俺とカレンが前に出る。エレノアは攻撃魔術、アリシアは防御魔術の準備、グレッグとジェシカは引き続きカラスの警戒を!」
やがてモンスターが近付いてくる。翼を持った大蜥蜴。空を飛ぶために、ドラゴンよりは細身の身体。飛竜と呼ばれるモンスターの姿だ。
前回第八階層に来た時には遭遇しなかったし、過去の冒険者の記録にもなかった新発見のモンスターだ。
間違いなく強敵だった。
あの巨体だけでも脅威だ。狭い通路で襲われたら、谷底へ突き落されていたかもしれない。接近戦でも苦労しそうなモンスターが空から襲ってくるのだ。
いくらアレクでも苦戦は免れない、と思っていたんだけど――
「弧月斬!」
アレクの振り下ろした聖剣から三日月形の斬撃が放たれ、飛竜を切り裂いた。え、なにそれ?
「衝破撃や!」
カレンさんの突き出した大剣から一直線に衝撃波が走り、飛竜を貫いた。カレンさんまで!?
「『紅炎の槍』!」
さらにエレノアさんも強力な単体攻撃魔術で飛竜を仕留める。
たちまちのうちに、飛竜の群れは全滅した。えーと、カラスも見当たらないからこれで戦闘終了。
「意外と使えるものだな。」
「せやな。これなら空の敵とも存分に戦えるで。」
いやいや、アレクもカレンさんも前来た時はそんな技使っていなかったでしょ。二人とも、どこまで強くなるんだよ。
「しかし、この階層のモンスターは偵察や伝令に使われると厄介だと思っていたが、直接の戦力としても脅威になりそうだな。」
そうなんだよね。鳥型のモンスターは、細くてすぐ隣に崖という通路に少人数の冒険者だから脅威になるけど、ダンジョンの外なら弓兵の数を揃えて射かければ射落とすのも難しくない。
けれども、飛竜となるとそれだけで脅威だ。剣で倒せるアレクやカレンさんの方がどうかしている。並の兵では数を集めても対応が難しいだろう。
さて、飛竜は倒せたけれど、摩核はやっぱり崖の下だ。ドロップアイテムもあったみたいだけど同じく下に落ちた。この階層では遠距離攻撃で倒すとだいたいこうなる。
初見の強いモンスターだったし、摩核もドロップアイテムも可能ならば持ち帰りたいところだけれど仕方がない。
この階層で摩核やドロップアイテムを集めようと思ったら、一工夫必要になりそうだった。
そんなことを考えていると――
「それでは、摩核を拾ってきますね。」
そう言って、ジェシカさんは気軽に崖の下に飛び降りてしまった。
慌てて僕とアレクが駆け寄ると、崖の突起を器用に蹴りながら危なげなく下まで降りて行くジェシカさんの姿があった。
「……身軽だな。」
アレクが感心する。
ジェシカさんが身軽なのは知っていたけれど、ここまでとは思わなかった。
崖はほぼ垂直、下までは約十メートル。普通の人は落ちたらまず助からない。
もっとも、第八階層まで来れるほどの冒険者となると一般人ではない。崖から突き落とされても、崖に剣を突き刺して減速したり、魔術を駆使して軟着陸するだろう。アレクやカレンさんならばやたらと頑丈だから、そのまま落ちても落下の衝撃にも耐えられるかもしれない。
一流の冒険者ならばよほど状況が悪くない限り崖下に落ちても死にはしない。けれども、ジェシカさんの身軽さは群を抜いていた。僕だったら飛び降りて怪我をしない自信は無いよ。
しかし、問題は登って来る時だ。空飛ぶモンスターは崖に張り付いた冒険者にも襲い掛かる。崖を登る際は動きが制限されるので一番危なかった。僕たちは崖の上から周囲を警戒することにした。
待つこと暫し。多少散らばったとしても、すべて回収するのにそれほど時間はかからないはずだ。やがて崖の下からジェシカさんが声を上げた。
「怪しい洞窟を見つけました!」
崖の上から下へ、ロープが一本垂らされた。これ一本でジェシカさんほど身軽でない僕たちでも、楽に崖を上り下りできる。
しかし、全員で崖下に降りてしまうと登る時に危険なので、僕とアレクだけ下に降りて、カレンさん、エレノアさん、アリシアさんには上でモンスターの警戒を続けてもらうことにした。
「こんなところに、こんな洞窟があるとはな。」
アレクが苦い顔で言う。
崖の下、上の通路からは見えにくい場所にぽっかりと横穴が開いていた。大きさは人が楽に歩いて通れる程度。
ここはダンジョンの中なのだ。自然の造形に見えても自然に洞窟ができることはない。この横穴は人が入るために作られたものと考えられた。
通路を外れ、崖の下にまで仕掛けがあるとなると、第八階層の全てを調査することは非常に困難になる。
まあ、難しいことは後にして、その洞窟に入ることにした。
洞窟の中は短い一本道だった。さすがにフィールド型の階層の中にさらに迷宮型の領域を作るほど凝った構造にはなっていなかったらしい。
洞窟の行き止まりにあったのは大きな宝箱が一個。中に入っていたものは――
「これは、……魔道具か?」
宝箱から出てきた謎のアイテムも回収して、僕たちは崖の上へと戻った。
さて、飛竜の摩核やドロップアイテムと共に持ち帰った謎の魔道具だけど、僕には少々心当たりがあった、前世の知識的に。
背中に背負って使うらしき構造の装置。その装置にしっかりと取り付けられた二本の大きな筒。装置を背負うためというよりも体にしっかりと固定するための厳重なハーネス。小さな翼。そして装置を背負ったまま操作するためのコントローラー。
この造形から導かれる装置の機能は――
「これは、古代遺跡から出土した魔道具に似ている。空を飛ぶための魔道具らしい。」
そう、人の背中に装着して空を飛ぶためのジェットエンジンだかロケットエンジンだかである。それで本当に飛べるのかはよく知らない。
これで空を飛んでこの階層を攻略しろとでもいうのだろうか?
「操作が難しく、かなり練習しなければまともに飛べない危険なアイテムだったはず。」
エレノアさんの言葉に従い、ダンジョン内で試してみることは見送られた。うまく活用できれば探索に役立つかもしれないけど、危険も大きいからね。
その後の探索は順調に進んだ。
アレクとカレンさんが積極的に戦闘に参加できるようになったのは大きかった。手数が増えたので、「遠くから範囲魔法でまとめて撃退」戦法に頼る必要が無くなり、エレノアさんの負担もだいぶ減った。
モンスターを引き付けて戦闘することができるようになったので、摩核やドロップアイテムの回収もできるようになった。崖下に落ちた分もジェシカさんが難なく回収してくれる。
ただ、崖下の探索は今回は見送られた。そこまで丁寧に探索していると時間がいくらあっても足りない。それに、後々のことを考えれば、通路の詳細な地図を広い範囲で作った方が良いだろうという判断だった。
第四階層でもそうなんだけど、フィールド型の階層の場合、階層内での現在位置を把握しやすい。第八階層の地図は断片的だけれども、その断片的な地図の互いの位置関係はだいたい見当が付いているのだ。
だから、既知の『ポーター』がどちらの方向にあるかはある程度見当が付くのだけれど、それでも目的の場所に行きたかったらやはり詳細な地図は必要だ。空を飛べない身では、十メートル先に見える『ポーター』まで延々と遠回りする必要があったりするからね。
まずは第八階層の通路を最短ルートで移動できるようになって、崖の上り下りの安全対策もしたうえで、崖下の探索ができるようになったらいいなぁ。ロケットエンジンを背負って空を飛ぶのは勘弁してほしいけど。
第八階層の探索では、広めの地図と予定以上の摩核とドロップアイテム、新種のモンスターの情報、そして謎の魔道具を回収して帰還した。
薄々お気づきかもしれませんが、この世界においてチートでハーレムな主人公はアレクです。
グレッグはそれを見て驚いたり呆れたりする立場です。




