第五十三話 第八階層を探索します(前編)
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依頼は無事に果たすことができた。けれども大変なのはその後だった。
アレクからの報告を聞いて、ギルドマスターは頭を抱えてしまった。
依頼を出したギルドマスターも、ゾンビやスケルトンの上位種だか変異種だかが現れるくらいは予想していただろう。
ボルドさんが逃げ出した時点で、第五階層以降のモンスター並の強さは覚悟していただろう。
けれども、死んだ冒険者がアンデッドになるというのはさすがに予想外だったろう。
しかも、リッチとか不死之王とか、どこのおとぎ話? という存在が現れたのだ。ギルドマスターといえども混乱するだろう。
即座に国と冒険者ギルドで協議が行われた。
その結果、国の関係者も頭を抱えることになった。まあ無理もない。
協議の結果、ダンジョンで死んだ冒険者がアンデッドになったという事実だけ公表することになった。
問題は、これが今回だけの例外的な出来事なのか、それとも今後も発生し得ることなのかという点だけども、こればかりは情報不足で確実なことは言えない。
当面は冒険者からダンジョンの異変に対して情報提供を求めるとともに、アレクによる深い階層の探索の結果を待つことになった。
そんなわけで、アレクのダンジョン探索は続行することになった。
そんなこんなで、やってきました第八階層。
途中で指名依頼を挟んだけれど、場所が第三階層だったこともあり、出発が五日遅れただけでほぼ予定通りにダンジョンに向かうことができた。
ただ、第八階層ともなると、ダンジョンに入ってからが長かった。
第五階層で六日、第七階層で八日、降りの『ポーター』を探して回った。
これでも結構手早く進んだ方なんだよ。それでも期限を延ばしていなければ途中で引き返すようだったけど。
辿り着いた第八階層は、フィールド型になっていた。ただし、第四階層とも第六階層ともまた違った光景が広がっている。
おそらく、このダンジョンのフィールド型の階層にはそれぞれテーマがある。
第四階層は、地上のさまざまな地形。
第六階層は、海洋もしくは水中。
そして第八階層のテーマは、空。
この第八階層には明確な通路がある。そしてこの通路を外れて進むことはまず不可能だ。
別に、隣接する通路を隔てる壁があるわけではない。逆だ。通路を外れると地面がない。
通路の両側はほぼ垂直に切り立った崖になっていた。場所によっては吊橋になっている場合もある。
高さは十メートルほど。上り下りできないわけではないけれど、そこをモンスターに襲われる危険を考えれば通路に従って進む方が現実的だ。
空中に突き出た細い通路を延々と進む、第八階層は通称、天空エリアと呼ばれていた。
周囲を見回して現在位置を確認すると、僕たちは探索を開始した。
「うっとおしいのが来た。」
エレノアさんの見上げる先には、一羽のカラスが飛んでいた。
ただのカラスではない。あれは、ウォッチャークロウ。ただのカラスに見えるけど、立派なモンスターだ。
「カァァーー」
ウォッチャークロウが攻撃を仕掛けて来ることはまずない。ただこのモンスターは冒険者を見つけると他のモンスターを呼び寄せるのだ。これを放置しておくと何時まで経ってもモンスターに襲われ続けることになる。
僕はウォッチャークロウが近付いたタイミングを見計らい、手にしたボウガンで狙い撃つ。
……よし、命中! 頑張って練習した甲斐があった。
前回の魔王討伐で第八階層に来た時に判明したアレクのパーティーの弱点が、空にいる敵に対する攻撃手段の少なさだった。
主戦力であるアレクとカレンさんの武器が剣だから、空の敵に対して攻撃できるのがエレノアさんの魔術しかない。
そして第八階層に現れるモンスターは、全て空を飛ぶものばかりだった。第八階層が天空エリアと呼ばれるもう一つの理由だ。
エレノアさんに毎回カラスを攻撃させるのは、魔力の無駄でしかなかった。
そこで今回は、僕とジェシカさんがクロスボウを使用することにした。僕の短剣やジェシカさんのナイフでは空飛ぶ相手には届かないからね。
この階層のモンスター相手には牽制くらいにしかならないのだけれど、カラスを打ち落とすくらいのことはできる。
この階層だと、発射したボルトの回収も困難なのだけど、そこは魔法鞄に大量に詰め込んできたから大丈夫。
空を飛ぶモンスターても、攻撃する時には突っ込んで来るから、そこをカウンターで叩き斬ればアレクやカレンさんでも迎撃は可能だ。しかしそれでは失敗したときに後衛にまで攻撃が届いてしまいかねない。何よりモンスターが常に先手を取ることになる。
だから、前回は第八階層ではエレノアさんがほぼ全てのモンスターを倒すことになった。魔力回復の魔法薬の消費が多かったのもこの階層だった。
エレノアさんがカラスを目の敵にするのも無理もないことだろう。敵を一掃したと思っても、カラスが残っているとまた次がやって来てきりがないのだ。
僕とジェシカさんの役割は、襲ってくるモンスターから少し離れた位置を飛ぶウォッチャークロウを見つけて倒し、少しでもエレノアさんの負担を減らすことだった。
「来たか。」
アレクが剣を構える。モンスターを呼び寄せる前にウォッチャークロウを撃ち落とすことは難しい。
遠くの空からこちらに向かう影が見えた。十羽くらいの鳥型のモンスターが編隊を組んで飛んで来る。
まだ遠くて良く分からないけれど、大きさからいってストライクイーグルかハンターファルコンあたりだろう。
「『爆砕』!」
――ドッカーン!!!
エレノアさんの遠距離・広範囲の攻撃魔術が炸裂し、空中のモンスターは消滅した。
あの程度の相手にはもったいない大魔術だけれど、これが前回の探索の結果編み出された効率の良い対処方法だった。
敵が接近する前の纏まって移動している間に大きな魔術で一掃する。モンスターの集団に紛れ込んでいたカラスも纏めて落とせるし、爆音でモンスターが集まって来ても離れた場所になる。
後続のモンスターが来ないことを確認して、アレクは剣を鞘に納めた。
「では、探索を続ける。」
この対処方法の問題点は二つ。
一つは消費魔力の問題。端から大魔術を使用する戦法は、大魔術を連発できるエレノアさんの魔力があってこそ可能となるもの。他の冒険者にはまねができない。
もう一つは、摩核の回収が不可能であること。大魔術まで使ってモンスターを倒しても全く金にならないのだ。
摩核を回収しないで放置すると、ダンジョンに吸収されて再びモンスターを生み出すために利用されると考えられている。冒険者の収入のためだけでなく、モンスターを間引くためにもなるべく摩核は回収しておきたかった。




