第五十二話 ジェシカさんの戦いです
評価及びブックマーク登録ありがとうございました。
ホークは剣を抜いて振り回していた。
リッチになったのだから魔術使い放題かと思ったら、そうでもないようだ。単に生前鍛えた剣技の方がよほど強いというだけかもしれないけど。
ホークの剣技は鋭く力強かった。この国まで来てダンジョンに挑むだけあって、それなりに腕に自信はあったのだろう。
対するジェシカさんは二本のナイフを手に速度で翻弄する。ホークの大振りの剣を掻い潜り、隙を見てナイフで切り付けている。
見た感じ、リッチになったホークの強さは第七階層のモンスターに匹敵する。ボルドさんが逃げ出すわけだ。
けれども、ジェシカさんの速さは第七階層のモンスターをも翻弄する。ミノタウロスもオーガもジェシカさんには掠りもしなかった。ホークの剣も当たらない。
しかし、ジェシカさんの攻撃はなかなか有効打にはならなかった。
ナイフで切り裂いても、アンデッドの身体からは血が出ない。痛覚もないのか、ホークの動きは鈍ることもなかった。
両者激しく動きながらも、戦いは膠着していた。
「なーぜーだー、なぜ言うことを聞かないー、ジェシカー。」
自我を持ったままアンデッドになったと言っても、完全に理性を保っているわけではないようだ。ジェシカさんが既に自分の奴隷ではないことを理解していない。
それとも理解したくないだけか。
容赦なく振るわれるホークの剣を、しかしジェシカさんは危なげなく躱し続ける。
「ホークさん、貴方には処分されそうになっていたところを買い取ってもらった恩があります。奴隷としての待遇も、あの国としては悪くありませんでした。」
戦いの手を止めないまま、ジェシカさんはホークに答える。
「けれども、貴方は死んでしまいました。死者は奴隷を持てません。私はもう貴方の奴隷ではありません。」
激しい攻防の中、ジェシカさんは息を切らせることもなく言い放つ。
「今の私は、勇者アレク様の奴隷です!」
ジェシカさんは、強く踏み込むとナイフを振り切った。
ホークの右腕が切り離される。それでも痛みを感じないのか、ホークは左腕一本でなおも剣を振るう。
しかし、腕を一本失ったホークの動きは明らかに鈍った。ジェシカさんは、ホークの剣を楽々と躱して、さらに攻撃を加えて行く。
「ハアッ!」
そして、ジェシカさんはホークの左腕も切り落とした。
「ジェーシーカー!」
両腕と剣も失ったホークは、それでもジェシカさんに向かって行く。
「これで、終わりです!」
ジェシカさんに噛みつこうとするかのように突き出されたホークの頭部を、ジェシカさんのナイフが切り落とした。
――ドサリ。
両腕と頭を失ったホークの身体が倒れて動かなくなった。
「ジェーシーカー……ナーゼーダー……オーレーハー……」
頭部だけになったホークがまだ何か呟いていた。首だけになっても声が出るのはアンデッドだからだろうか?
僕たちはジェシカさんの周りに集まってきた。
とりあえずアンデッドは全て倒したけれど、残った死体の処理をしなければならない。特にいまだに何かブツブツ言っているホークの首が何かの拍子に復活しても困るしね。
「オーレーハー……オレーハー……おれはー……俺は全てを取り戻す!!」
「! 皆さん、離れて!」
アリシアさんの警告に、全員一斉にその場を飛び退いた。
ホークの生首が、異様な気配を纏っていた。妖気とでもいうべきか。何か異常な事態が起こっていた。
「何だ、これは?」
アレクが訝しむ。その間にも異変は続いていた。
ホークの首の下へ、倒れた胴体が、切断された両腕が集まってきた。
それだけではない。アレクやカレンさんの倒したアンデッドの身体も、周囲で倒れ伏していたゾンビやスケルトンまで引き摺られるように集まって来る。
そして――
「甦ったのか?」
ホークの身体が、全て繋がって元に戻っていた。
「いいえ、あれは……不死之王です!」
アリシアさんが断言する。不死之王はリッチさえも超えるアンデッドの頂点。実在すら疑われる伝説の存在だった。
よく見れば周囲から倒した他のアンデッドの姿が消えていた。ゾンビやスケルトンも消滅している。それらを吸収して不死之王になったのだろう。
「不死之王か、大物が出て来たものだ。」
アレクはそう言って聖剣を構える。何が出てこようとやることは変わらなかった。
第二ラウンドが始まった。
「ハアッ!」
アレクが鋭く打ち込んだ聖剣を、ホークは手にした剣で受け止めた。
不死之王になって力も増したのか、アレクが押し込めない。いや、これは……
「くっ!」
アレクの方が弱体化しているのだ。これは不死之王の呪い! 小説と同じならば、不死之王は視線だけで弱体化の呪いをかけることができる。
……でも、アレクが弱体化してようやく互角なんだよね。
アレクと鍔迫り合いをしているホークに対して、アレクの左側からカレンさんが走り寄る。しかし――
「なんや!?」
ホークが視線を向けると、走るカレンさんの速度が目に見えて遅くなった。やはり視線だけで呪いをかけている。
「これは呪いです! 『解呪』!」
さすがに気が付いたアリシアさんが、呪いを解除する。力の戻ったアレクは、ホークを蹴り飛ばし、一旦距離を取る。
「呪いとは、厄介だな。」
「どないする?」
「妙なことをする前に畳みかける!」
アレクは強気だ。呪いで弱体化したアレク一人で互角なのだから引く意味は無い。むしろ下手に時間を与えてしまった方が厄介なことになる。
「『聖なる祝福』! これである程度呪いにも耐性が付くはずです。」
アリシアさんの魔術が全員を包み込む。やはり聖女の魔術はアンデッドに対しては相性が良い。
「行くぞ!」
アレクが再び斬りかかる。今度は受けきれずに、ホークは弾かれるように下がる。そこへ、
「せいや!」
カレンさんの大剣が襲い掛かる。ホークは剣で受けたが、勢いのついた大剣を受けきれるものではない。受けた剣は大剣にへし折られ、そのままホークもダメージを受ける。
さらにカレンさんの背後から回り込むようにジェシカンさんが迫り、ホークはそちらに視線を向けるがジェシカさんの速度は落ちない。
「!」
おっと、さすがに気付かれたか! ジェシカさんの反対側から忍び寄っていた僕に気付いたホークがいきなり振り向いた。
でもちょうどいい。僕は短剣を横一直線に振り、こちらを向いたホークの両眼を切り裂くと、そのまま飛び退いた。
「グワァ!!」
痛覚の無いアンデッドでも、さすがに目玉を切られたのは堪えかねたのか、ホークは苦鳴をあげた。アリシアさんの魔術のおかげで呪いは効いていないけど、これで視線による呪いをかけることもできなくなるだろう。
そして、さらに追い打ちが続く。
「『落雷』!」
エレノアさんの魔術がホークの身体を焼き、その動きを封じる。
「ハァーーー!」
そしてジェシカさんが斬撃のラッシュでホークを切り刻む。
「止めだ!」
最後はアレクが聖剣で頭から叩き斬る。
どうやらこれで本当に倒せたらしい。ホークの身体は消え、摩核だけが残された。その数は七つ。
おそらくホークを含めアンデッドになった冒険者のものだろう。彼らもダンジョンのモンスター扱いだったようだ。
残された摩核を回収し、この事件は幕を閉じた。
それにしても……、アレクのイベントのはずが、ほとんどジェシカさんのイベントになっていたよ。
「ホーク」は前世の小説では名前も出てこないモブキャラでした。
アンデッドとして甦っていても自我を持たず、ヒロインの一人であるミーナよりもかなり格下扱いです。
それに比べると、不死之王にまで登りつめたのは大出世と言えます。




