第五話 ギルドマスターに報告しました
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冒険者ギルドのギルドマスターと言う存在は、特にこのロシュヴィルの冒険者ギルドでは、冒険者にとっては国王並みに偉い人である。
僕もギルドマスターの部屋へ来たのは二度目だった。一度目は、アレクのパーティーの雑用係をするように言われた時だ。
豪華すぎる部屋は庶民でしかない僕にはちょっと居辛い。実際、この部屋に国王陛下がやって来ることもあるらしい。
「おう、よく来たグレッグ。まずはダンジョンからの無事生還、おめでとう。」
国王陛下とギルドマスターの最大の違いは、国王陛下が威厳を身に纏うのに対して、ギルドマスターが纏うのは暴力的なまでの威圧感だ。
特に怒っているわけでもないのに、正面で話しているだけで身が竦むような思いがする。家では子供に怯えられて弱っているという噂は本当なのだろうか?
「それで、一人か? 王子様はどうした?」
王子様と言うのは、アレクのことだ。正しくはアレクシス・アルスター。アルスター王国の第四王子である。
王子様が冒険者をやっているのは、魔王エグバートを討つため。ダンジョン内は冒険者ギルドの管轄なので、王族と言えども勝手に進軍することは許されない。そこでアレクは冒険者となり、冒険者としてダンジョンを攻略することにしたのだ。
「アレク達とは第十階層の魔王の間の手前で別れました。アレク達はそのまま魔王討伐に向かったので僕だけ帰ってきました。」
因みに、王子様のことを気楽に「アレク」と呼ぶのは、冒険者としての登録名が「アレク」だからである。冒険者として活動している間は冒険者として扱わなければならない。まあ、本人の強い希望もあるのだけど。
「……『剣聖リチャードの罠』か!? よく生きて帰れたな。」
さすがはギルドマスター。少ない情報であっさり見抜いた。ミックと同じ反応だということはこの際言わないでおく。
僕が嵌った罠は『剣聖リチャードの罠』と呼ばれていた。こう言うと剣聖リチャードが仕掛けた罠みたいに聞こえるけど、剣聖リチャードが見つけた罠としてこの名が付いている。魔王の間に繋がる唯一判明している道だけに、名前を付けないわけにはいかなかったのだ。
僕は、第十階層に到着してかからの経緯を語った。もちろん前世の記憶云々の話は無しだ。信じてもらえないだろうし、信じてもらえたとしてもあまり意味があるとは思えなかった。
それに、前世の記憶が無くても、剣聖リチャードとは逆方向に進むことは一応考えてはいた。僕は弱いから色々考えないと生きていけない。まあ、前方の道がだめだった場合の一案だったから、試す前に小説のように死んでしまったかもしれないけど。
「なるほど、さすがは魔王のダンジョンだ。底意地が悪い。」
誰かを犠牲にすることで魔王への道が開けるという仕掛けだけでも悪趣味なのに、その犠牲者もすぐ背後に脱出路があることに気が付かないという心理的な罠まであるのだ。
魔王がにやにやしながら罠を仕掛ける様子が目に浮かぶようだよ。僕は魔王を見なかったけど。
あ、魔王のダンジョンというのは、あのダンジョンの俗称の一つだ。実はあのダンジョン、正式名称がない。アルスター王国にはダンジョンは一つしかないから、ただダンジョンというだけで通じるのだ。
冒険者の間では、俗称として魔王のダンジョンとかエグバートのダンジョンと呼ぶことがある。他国の冒険者の場合はアルスターのダンジョンと呼ばれる場合がある。
「それで、王子様は勝てそうなのか?」
「たぶん大丈夫。物資が少なくなったと言っても、魔王との一戦くらいなら問題ないし、それにほら。」
僕は持ち帰った迷宮核を取り出した。
「な、これはまさか!」
さしものギルドマスターも驚愕した。
「たぶん、迷宮核です。さっき言った『ポーター』があった部屋にあったので持ってきました。」
ダンジョンと一体化した魔王エグバートが迷宮核の破壊で弱体化するであろうことは、僕の小説の知識とは関係なく、一般的に予想されていた。それゆえ第十階層を探索中に迷宮核を見つけたら破壊するという案は検討されていたのだけれど、魔王エグバートが守っているだろうからまず無理だと考えられていた。
だから、迷宮核を破壊して持ち帰るにしても、魔王を倒した後になるだろうと誰もが考えていた。僕が迷宮核を持って帰ったのはさぞ予想外だっただろう。
「その話、他の冒険者にはするなよ。何をされるか分からないぞ。」
真面目な顔で言うギルドマスター。あの、怖いから顔を近づけないで欲しいんですけど。
「核を失ったダンジョンは百年単位で衰退していくらしいが、すぐに影響が出ると思っている冒険者も多い。ダンジョンに異変があったら全部お前のせいにされるぞ。王子様の手柄にしておけ。」
あっ、そういう心配もあったんだ。アレクには悪いけど……いや、どのみち魔王を倒したら同じことか。
「しかし、王子様も本当の勇者様になっちまうのか。」
ギルドマスターがしみじみと言う。
この世界で「勇者」と呼ばれる者は三種類いる。
一つ目は、歴史的偉業を成し遂げた者。世界を救った勇者とかいう奴だ。だいたいは本人の死後に功績が評価されて勇者と呼ばれるようになる。
有名なのは邪竜を討ったと云われているローランド・アルスター。今のアルスター王家とは無関係だけど、国名の元になった古代の英雄だ。
二つ目は、国や冒険者ギルドが業績を認めることで送られる称号。冒険者ギルドが推挙して、国が与える形になる。
どこかの小国では武闘大会の優勝者に無条件で勇者の称号を与えるとか気楽に乱発している所もあるそうだけど、国際的な組織である冒険者ギルドが認める勇者となるとその権威は格段に高まる。
三つ目は、通り名や二つ名としての勇者。これは本人が勝手に名乗ることもあれば人からそう呼ばれることもある。なんとか村の勇者なんて結構いるらしい。
今アレクが勇者と呼ばれるのは三つ目の通り名としてのものだ。
ここロシュヴィルの冒険者の間では、魔王を倒すと豪語する者は皆勇者扱いされる。その大半はたいして深い階層まで到達せずに引退するか、あるいはダンジョンで死んでいる。
だから冒険者の言う「勇者サマ」には大言壮語を吐く口だけ野郎という揶揄が含まれている。
しかし、実際に魔王を倒してしまうとなれば、これはもう二つ目の勇者の称号案件だ。
ダンジョンを踏破してダンジョンマスターを倒したという偉業をなしたのならば、冒険者ギルドとしても勇者に推挙するしかない。ついでに迷宮核の破壊もアレクに受け持ってもらうから、完璧だ。
国としても、王族から勇者が出たとなれば箔が付くし他国に対して優位に立てる。否はないだろう。
「お前もパーティーランクが十階層か。いや、パーティーを離れて一人で帰ってきたわけだから、ソロランクも十階層か。」
「よ、よして下さいよ。アレクについていっただけなのに、ソロまで上げられたら死んじゃいますよ!」
ロシュヴィルの冒険者ギルドには、他とは異なる冒険者の評価基準がある。それはダンジョンを何階層まで潜って帰ってきたかというものだ。
パーティーで潜った場合のランクとソロで潜った場合のランクが併記され、当然ランクが高い方が実力者とみなされる。
ランクが高ければより高額の依頼が受けられるわけだが、逆に困難な依頼が指名で舞いこんだりする。
特にソロで十階層となると、「ちょっと第十階層まで行ってきてくれ」とか言われかねない。断り切れなければ死ぬことになる。
因みに、今までの僕のランクは、ソロで第三階層、パーティーで第五階層だった。今回はパーティーで第十階層になってしまうのは避けられない。
「まあ、冗談はともかく、迷宮核は預かっておこう。査定して買い取ってやるから明日の昼頃に取りに来い。」
冗談でも寿命が縮むから止めてください。
でも、今回はアレクからも危険手当込みで結構な報酬が約束されている。途中解雇でもちゃんと役目は果たしたし、全額支払われる契約だ。そこに迷宮核の代金が加われば相当な大金になるだろう。
装備を一新して冒険者としての腕を磨くか、それとも冒険者を引退して商売でも始めるか。ちょっと真面目に考えてもいいかもしれない。
「最後に一つ、本当に自分から罠にかかったのか? 王子様を庇い立てする必要はねえぞ。」
ギルドマスターとしては、王族や貴族だからと言って冒険者を使い捨てるような真似を見逃すことはできないらしい。
まあ、今回は状況的に仕方がないと言えそうだけどね。
「本当ですよ。アレクはそんな酷いことできる奴じゃありませんよ。ほら。」
僕はエリクサーを取り出して見せる。
「おいおい、何を考えているんだよ王子様は。人がいいってレベルじゃねえだろう。」
それは僕も同感だ。
「あっ、そうだ。これアレクに返しておいてもらえませんか。こんな貴重品持っていると落ち着かなくて。」
エリクサーと言えば国宝。いくらアレクが王子様だからと言って、よく持ち出せたものだ。
「そいつは自分で直接返すんだな。なんだったらガメちまっても黙っといてやるぜ。」
すみません、国に喧嘩売る度胸はありません。
ギルドマスターに追い出されて、僕は冒険者ギルドを出た。
今日は疲れたからさっさと帰って寝よう。




