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勇者パーティーから追放された雑用係は全てを呪う復讐者に、なりません。  作者: 水無月 黒


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第四十九話 指名依頼を受けました

 冒険者ギルドは大騒ぎになった。

 今回の探索で持ち帰った戦利品は、第七階層の地図(マップ)、ミノタウロスとオーガの魔石、ドロップアイテム、そしてモンスターが使用していたりあるいは宝箱から出てきたりした武具が多数。

 オーガの上位種の存在とか、その上位種と強制的に戦闘させるボス部屋のような(トラップ)とか、重要な情報も色々あったけれど、それ以上に問題になったのが大量の武具の存在だった。

 これまでにも第七階層までやって来てミノタウロスやオーガと戦った冒険者はいたし、モンスターの使用する武具を持ち帰ることができることも知られていた。しかし、ここまで深い階層まで潜る冒険者はそのまま第十階層まで行って魔王討伐を狙う場合が多かった。そうでなくても、重くて嵩張る武具を大量に持ち歩くことは困難だ。だから大量の武具が冒険者ギルドに持ち込まれることはこれまで無かった。

 しかし、ダンジョンに魔法鞄(マジックバッグ)を持ち込んだアレクはこれまでにない数の武具を持ち帰った。第一階層や第二階層とは比べ物にならない上質の武具が多数、中には魔剣のような魔道具(マジックアイテム)になっている武器や防具も多く存在していた。

 正直、ギルドの職員だけでは手に余ったそうだ。アレクに対しては期限を定めずに査定が終わったら連絡すると言って、職人区の鍛冶師にも応援を頼んで必死で査定したらしい。

 結局、武具の査定には五日かかった。ただし、これで全ての武具に値が付いたわけではない。

 持ち込んだ武具の中には精巧な魔道具(マジックアイテム)になっているため鍛冶師では使用者に合わせて調整ができない、武具としては使えないものもある。そんな実用性のない武具でも好事家が高値で購入したり、貴族が拍付けに買ったりする。ものによっては、アレクの聖剣のように、使いこなせるものが現れると信じて王宮で確保する場合もある。

 こうした、鍛冶師や冒険者ギルドでは値のつけられないものについては、後でオークションにかけられることになった。

 まあ、今回支払われた報酬だけで十分に大金だったし、その日はやっぱり盛大に宴会が開かれた。

 アレクに報酬が支払われる日が事前に漏れていたようで、その日は酒場に入りきれないほどの冒険者で溢れ返っていた。酒場の側でも、この日のために酒を多く仕入れていたそうだ。

 そう言えば、最近ギルドの酒場で普通の冒険者が手を出し難い高級な酒や高い料理を扱うようになったみたいだけど、これもアレクの影響なのかな?


 冒険者ギルドとは別に、国の方も水面下でいろいろと動いているらしい。

 アレクが感じたように、第七階層のモンスターが他のモンスターを指揮して組織的な行動を行うようになると非常に厄介だ。アレクの見立てでは、第七階層のミノタウロスやオーガは最低でも下士官、下手をすると将校の働きができそうだということだった。

 その上に将軍や参謀を務めることができるモンスターが存在すれば、それはもう立派な軍隊として成立する。

 これまで、「魔王エグバートがモンスターの軍団を作って攻めて来る」と言っても、ダンジョンから溢れ出したモンスターを王都に嗾けるというイメージを持っていた人が多かっただろう。

 しかし、モンスターたちが指揮命令系統を持ち、組織的、戦略的に動くとなると対応方法も変わって来る。相手はモンスターの力を持った軍隊として、戦略を練り直す必要があった。

 それからもう一つ、第七階層から得られる大量の武具も将来的には問題になるのだそうだ。

 今回アレクが持ち帰った大量の武具は鍛冶屋に卸され、冒険者の装備を強化することになるだろう。しかし、優秀な武器が供給されることで戦力がアップするのは冒険者だけではない。

 他国に流れれば敵対する国の兵力が上がってしまうかもしれないし、国内でも不穏分子やら盗賊やらに渡ると治安が悪化する恐れもあった。テロリストに武器が渡ったら怖いもんね。

 今のところ第七階層から大量の武具を持ち帰れるのはアレクくらいなものだけど、いずれ大勢の冒険者が第七階層の探索を行えるようになれば、たくさんの武具がダンジョンから産出されることになる。対策は必要になるだろう。

 まあ、順番的には第五階層のダンジョン鉱山と、第六階層の海産物の方が先だろうけれどね。


 各所の動きはともかくとして、僕たちは次の第八階層の探索に向けて準備を進めていた。

 そんなある日、僕たちはギルドマスターからの呼び出しを受けていた。

 「お前たち勇者パーティーに、冒険者ギルドからの指名依頼がある。」

 「指名依頼?」

 指名依頼というのは、依頼主が受ける冒険者を指名した上で出される依頼のことだ。指名される冒険者は、有名な冒険者か特殊な技能や実績を持つ者、あるいは依頼主から個人的に信頼されている場合などが多い。

 しかし、冒険者にも断る権利はあるから、むやみに指名しても受けてもらえない可能性が高まるだけだったりする。だから通常の依頼でわざわざ指名することはまずない。

 指名依頼を出すのは、依頼主と冒険者の間で話が付いている場合か、どうしてもその冒険者にしか頼めない理由がある場合に限られてくる。

 その辺りのことをよーく知っている冒険者ギルドがわざわざ指名依頼を出すと言うことは、アレクでなければ達成できない依頼だと判断したのだろう。

 けれども、それだけでアレクを指名して依頼を出すとは思えない。

 勇者になったアレクは有名だし強さも保証されているから指名で依頼したい人も多いだろう。しかし、これまでアレクに指名依頼を出した人はいない。断られることが分かり切っているからだ。

 冒険者としてのアレクは現在国の依頼を受けている形になっている。期限も限定されていないし、方法もアレクに一任された緩い依頼ではあるが、疎かにできるものではない。

 それでもアレクに依頼するということは、アレクのダンジョン探索を妨げずに行えるような内容なのか、それともよほど切羽詰まっているのか。

 「第三階層に奇妙なアンデッドが現れたという報告があった。こいつの調査と、可能ならば討伐をお願いしたい。」

 ……おや? ダンジョンの異変だったらアレクの調査対象になるかな。

 「しかし、第三階層ならば、他の冒険者でも調査はできるのではないか?」

 そう、第三階層を探索する冒険者は割と多い。アレクが空白地帯を探索した結果、更に活気付いている。多少強いモンスターが出てきても、討伐はともかく調査くらいなら出来そうなものだ。

 「そう思って、ボルドのパーティーに調査を依頼したんだが、ボルドの奴、遠目に見ただけであれはヤバいと逃げ帰ってきやがった。」

 ボルドさんは、第五階層の探索も行うロシュヴィルでもトップクラスの冒険者パーティーのリーダーだった。

 「あいつはうちでもトップクラスの実力者だ。それに生存本能というか危機察知能力が高い。奴がヤバいと言ったら本当にヤバいのだろう。ボルドで駄目だったらもう勇者パーティーに頼むしかないのだ。」

 確かにボルドさんで駄目ならアレクが出るしかないかもしれない。ボルドさんは慎重だから危機から逃げ出す話ばかり有名だけど、実は戦闘の方もかなり強い。相手が一体だけだったら第七階層のミノタウロスやオーガと戦っても勝てるんじゃないかな。

 まあ、ボルドさんならギリギリ勝てる相手でも撤退するだろうけど、第三階層には不釣り合いな強いモンスターがいることは確かなようだった。

 「わかった。この依頼、受けよう。」

 第八階層の探索をしようと準備を進めていたアレクだっだれど、こちらの依頼を優先することに決めたようだ。これは明らかにダンジョンに生じた異変だからね。

 しかし、僕にはこの事件に心当たりがあった。小説で、アレクに対する復讐イベントがこんな始まりだった。


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