第四十八話 第七階層を探索します(後編)
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数日間の探索の結果、結構な範囲の地図が出来上がった。これまでこの階層にやって来た冒険者の多くはダンジョンに誘われてより深い階層を目指したから、降りの『ポーター』を見つけるとすぐに第八階層へ行ってしまい、その地図は断片的だった。この階層のまともな探索はこれが初めてかもしれない。
たくさんのモンスターとも戦ったけど、やはり戦闘の主体はアレクとカレンさんだ。アリシアさんは新魔術を試し終わった後はいつも通り回復役に戻ったし、モンスターが複数出て来ると僕も不意打ちの一撃で倒すことは難しい。僕もジェシカさんと一緒に後衛を守りつつ周囲の警戒となることが多かった。
それにしても、二人とも強い。特にアレクは何だか気合が入っていて、ミノタウロスでもオーガでも、ほぼ一撃で倒してしまっていた。なんだか、魔王を討伐した時よりも強くなっていない?
「この階層のモンスターは、魔王軍の中核となるかもしれない。」
それが戦ったアレクの感想だった。
「ここのモンスターは、自分で武器を選び技術を磨いている。仲間との連携もできるし判断力もあるから、少なくとも小隊の隊長は務まるだろう。」
なるほど、第三階層のアンデッドは数も多いし死を恐れない厄介な兵士だけど、判断力がないからまともな作戦行動はとれない。しかし、第七階層のミノタウロスやオーガが率いるならば軍として組織的に動くことができる可能性があるわけだ。
第八階層や第九階層にはより強いモンスターもいるけれど、他のモンスターを率いたり細かな指示を出すのにはあまり向いていない。そういう意味で、この階層のモンスターは重要なのかもしれない。
ミノタウロスやオーガを一体倒せば、魔王軍の一個小隊以上の戦果になる、となればアレクも張り切るか。
これまでの探索で、摩核もたくさん集まったし、ドロップアイテムやモンスターの使っていた武具もたくさん手に入った。宝箱もいくつか見つけたけど、中身はだいたいが武具だった。もしかして、モンスターの使っている武器や防具って、宝箱から取り出したやつだったりする?
帰還用の昇りの『ポーター』を一個、第八階層に向かう降りの『ポーター』も二個見つけた。一回の探索の結果としては十分な成果だろう。
期日まではもう少し時間があるけれど、あまり遠出をしても中途半端に終わってしまう。なので、帰還用の『ポーター』から近い範囲で、どこを探索しようかと地図を見ながら検討中だ。
「まずは、ここから行こう。」
アレクは、未探索の扉を指さした。
そこは通路の壁に取り付けられた何の変哲もない扉。その扉の向こうは、近い所にモンスターもいなかったため後回しにして先に進んだ。その結果、今まで未探索のままだった。
既にその周囲は探索済みで、その扉の先の空間は大部屋が入るくらいの広がりはあっても、はるか遠くまで通路が続くようなことはないと思われた。
第七階層にはあまり殺意の高い罠は見つかっていないのだけれど、一方からしか開けられない扉とか変なギミックはあって、迂闊に扉を通ると、さんざん遠回りしないと戻れないこともあるんだよね。
罠がないことを確認して扉を開けると、通路が一本真直ぐに伸びていた。
扉を通り通路を進んで行く。通路は横道も扉もなく真直ぐに進み、突き当りで右に折れていた。
右に曲がると、その先もまた真直ぐな通路が続き、横道も扉もないまま突き当りで右に折れていた。
右に曲がると、その先もまた真直ぐな通路が続き、……そこ、飽きたとか言わない! ずーっと単調な光景でも、やっているこちらは気が抜けない。冒険者には忍耐も必要なのだ。
ともかく、何度も何度も真直ぐ進んでは右に曲がるを繰り返した。なんだか同じところをグルグル回っている気がしてくるけれど、実際にはちゃんと進んでいる。
少しずつ通路の長さは短くなっているし、地図で見ても螺旋を描くように内側に進んでいることが分かる。そして何週目か進んだところで、その中心にモンスターの反応も捉えた。
……でも、このつくりは絶対に嫌がらせだよね。
そしてようやく、本当にようやくグルグル回る通路は終わりを迎えた。
通路の先には何の変哲もない一枚の扉。その扉の向こうには小部屋が一つ。
警戒しつつ小部屋に入ると、そこにはモンスターが一体。しかし、僕たちが小部屋に入ってもモンスターはその場を動かず、襲い掛かってくる気配がなかった。
そいつは奇妙なモンスターだった。姿は牛に似ていた。しかしミノタウロスではない。人の身体に牛の頭が付いたミノタウロスとは逆に、牛の身体に人の頭がのっかっている不気味なモンスターだった。
と言うか、こいつは件か?
前世の記憶の、日本で昔信じられていた件とは人頭牛身の妖怪のことだ。件は牛から生まれ、数日で死ぬがその間に予言をする。その予言は絶対に外れないのだそうだ。
しかしそれは、いわば異世界の伝説・迷信の類だ、目の前のモンスターと関係があるかどうか。
おや、モンスターが何かしゃべろうとしている。
「……魔王は間もなく倒される……」
「もう倒した!」
――ズサッ!
思わず突っ込みながら斬り伏せるアレク。
その予言、遅すぎるよ~。
後にこのモンスターは、冒険者ギルドによりミノタウロスの変異種という分類になった。
「次はこちらを調べてみよう。」
まだ時間に余裕があるので、もう一箇所探索してみることにした。さっきのは通路が長いだけで、まともな戦闘すらなかったからね。
今回アレクが選んだのも、壁に設置された一枚の扉。
この扉、こちら側からは開けられるけれど、反対側からは開けることのできない一方通行の仕掛けが施されていることが判明している。
そんな扉、開けっ放しにしておけばよいのではないかと思うかもしれない。けれどもそういうインチキに対しては、ダンジョン側でもちゃんと対策をしていた。
この扉を通った先にもう一枚扉があり、一枚目の扉を閉めなければ二枚目の扉が開かないようになっているのだ。どうあってもここは一方通行にしたかったらしい。
この扉のずっと向こう側に反対側からしか開けられない扉も見つかっているので、一方通行で通り抜けられるのは確かだろう。
どう見ても罠である。
ただ、この階層の傾向からすれば、扉の向こうで待ち受けているのはモンスターとの強制戦闘だろう。アレクのパーティーの戦力ならば、さほど大きな脅威ではなかった。
僕たちは扉を通り抜けた。扉は背後で静かに閉まり、こちらからは開けることができない。
背後は気にせず先に進むと、すぐに第二の扉がある。他の扉とは異なり、飾りのついた豪華な扉だった。レリーフとして描かれているのは立派な角を持つ、オーガかな?
第二の扉も調べてみたけれど、最初の扉を閉めないと開かないこととこちら側からしか開かない一方通行の仕掛けが施されていた。
扉越しにその先を調べてみると、近い所にはモンスターの反応は無かった。少し離れた所のモンスターがいるみたいだけれど、いきなり大量のモンスターに襲われることは無さそうだ。
扉を開けて中に入ると、そこは大部屋になっていた。周囲にモンスターはいない。ただ反対側の壁の辺りに数体のモンスターがいる。
僕たちが部屋に入って来ても、モンスターは動かない。僕たちが近付くのを待ち構えているようだ。たぶんあの辺りに出口があって、モンスターを倒さなければ出られないのだろう。
アレクを先頭に、僕たちは慎重に進んで行った。向かう先にはオーガが五体。ただ、真ん中の一体が他よりも頭一つ大きい。
「あれは……上位種だな。」
オーガの上位種、さすがに王ということはないだろうから、将軍あたりだろうか。このダンジョンで今までオーガの上位種が確認されたことは無いから確実なことは言えない。
ただ、間違いなくこの階層の通常のモンスターよりも強いだろう。下手をすれば第九階層のモンスターに迫る強さの可能性がある。
少し距離を置いて一旦立ち止まり、アレクとカレンさんが剣を構える。オーガたちも既に戦闘態勢だ。
「ガアァ――!」
オーガの上位種が一声高く吼える。これが合図となり、左右の四体のオーガが飛び出してくる。アレクとカレンさんも同時に飛び出した。
すれ違いざまの一閃、アレクとカレンさんはそれぞれ一体のオーガを斬り伏せる。そして残りのオーガは無視して、上位種に向かった。あれをフリーにしておくのは少々危険だった。
生き残った二体のオーガも、アレクとカレンさんは無視してこちらの後衛に向かって来た。これは僕たちで対処しなければならない。
オーガの一体はジェシカさんが引き付けた。ジェシカさんの攻撃力ではなかなか致命傷は与えられないけれど、スピードで翻弄して足止めしている。
しかし、僕ではオーガと正面から戦うことはできない。エレノアさんは上位種向けに強力な魔術を準備していて、近付くオーガには間に合わない。
一体のオーガがアリシアさんとエレノアさんに襲い掛かり――
「ガア?」
アリシアさんの防御魔術によって阻まれた。魔術による障壁はオーガの一撃で消滅したが、それで十分。
――サクリ!
背後から不意打ちでオーガを倒す。これが一番確実な方法なんだけど、アリシアさんの手を煩わせ、後衛を危険にさらすという点で心苦しい。
そのままジェシカさんが足止めしているオーガの背後に回り、こちらもサックリと倒す。
この調子で上位種も……というのはちょっと無理かな。下手をするとエレノアさんの攻撃魔術の邪魔になってしまう。
そう思ってアレク達の方を見ると、
「グワアァーー!!!!」
アレクとカレンさんに切り裂かれたオーガの上位種が、断末魔の悲鳴を上げて倒れるところだった。
あれ、エレノアさんの魔術で止めじゃなかったの?
「出番、なかった。」
エレノアさんが準備していた魔術を解除する。かなり強力な単体攻撃魔術を用意していたみたいだ。やっぱり、アレクとカレンさん前より強くなっていない?
「なかなか強かったな。」
ほとんど瞬殺したアレクがそんなことを言う。
「せやな。一度はアレクの聖剣受けとったし、これ魔剣かいな?」
カレンさんが戦利品の剣を拾ってまじまじと見る。大きい。カレンさんの大剣よりも二回りくらい大きい。
ここまで大きいと、持って帰っても使える人はいないんじゃないだろうか。魔剣だと打ち直すことも難しいらしいし。
「うーん、大きすぎて持ちにくいわな。」
……カレンさん、片手で振り回しています。使いこなせる人もいるかもしれない。
その後部屋の中を調べたところ、宝箱を見つけた。中身はかなり大きな戦斧。強いモンスターが守っていただけあって、かなり上質な武器だった。でも大き過ぎて使い手を選びそう。
オーガの上位種が陣取っていた後ろには予想通り一方通行の扉があり、そこから大部屋の外に出ることができた。出た先の位置を地図上で確認し、今回の探索は終了した。




