第四十七話 第七階層を探索します(前編)
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2021年11月1日:誤字訂正
誤字報告ありがとうございました
ようやくやってきました、第七階層。
アレクは国と協議して、探索の期限を少し変更した。
ダンジョンに入ってから一ヶ月、目的の階層に到着してから十日間。それを過ぎたら帰還するための行動を開始する。
これならば第五階層で多少手間取っても第七階層の探索に向かえる。
ということで張り切ってダンジョンにやって来たのだけれど、今回はあっさりと第五階層を通り抜けてしまった。
ちょうど地図の存在する場所に出て、しかもその地図に降りの『ポーター』もあったから、そのままさっさと降りてきてしまった。毎回こうだと楽なんだけど。
さて、第七階層は迷宮型の階層になっている。ただし、洞窟や坑道ではなく、古代遺跡といった趣である。
床も壁も真っ平らでどう見ても人工物、材質は不明だった。石っぽいけど石ではないし、コンクリートでも金属でもない。そして剣を叩きつけても傷一つ付かない強度がある。セラミックか何かかな?
通路は直線的で、曲がり角も直角に折れる。比較的マッピングはやりやすい階層だった。ただ、この階層を真面目に探索した冒険者の絶対数が少ないので、非常に情報が少ない。既存の地図も断片的なものしかなかった。
当然のように、今回僕たちが出た場所も既知の地図の範囲外、空白地帯からの探索開始だった。
「前方、曲がり角の先からモンスターが一体接近してきます!」
ジェシカさんの警告に、アレクとカレンさんが剣を構える。
第七階層の構造は、通路が複雑だけれどフィールド型の階層のような変な仕掛けは無い。殺意の高い罠も今のところ確認されていない。その代わりというべきか、モンスターの強さは跳ね上がっている。一体だけと言っても油断はできなかった。
通路の先に現れたのは、ミノタウロスだった。人間の体に牛の頭がのっかっているモンスターだ。
……この世界にはミノス王の伝説とか無いのに、なぜかモンスターの名前はミノタウロスなんだよね。
ダンジョンの外にはミノタウロスに該当する魔物は存在していない。既に絶滅した太古の魔物か、古代文明が人工的に作り出した魔法生物がモンスター化したものではないかと云われている。
ミノタウロスはこちらの存在に気付いていたのだろう、慌てることなく歩み寄りながら、両の拳を構えた。
素手だからと言って侮ることはできない。モンスターとしての怪力はそれ自体が脅威であり、また牛頭から生えた角も長く鋭い。
――シュッ、シュッ。
ミノタウロスは、軽くといった感じで虚空に拳を繰り出す。だがそのパンチは、風を切る音が聞こえてくるほどに鋭く速い。そして、その足は軽快なフットワークでリズムを刻む。
……ボクサーかい!?
「こいつ、できる!」
ミノタウロスの実力を認めたアレクが、聖剣を構え直す。同じくカレンさんも構えた大剣の柄を握りしめた。
勝負は一瞬。緊迫した空気の中、
――サクッ!
「ブモゥーー!!!!」
短剣で延髄を抉られたミノタウロスが崩れ落ち、摩核に変わった。
「……。」
「やるやないか、グレッグ。」
「いやー、アレクとカレンさんが注意を引きつけてくれたおかげだよ。」
暗殺者スタイルは人型のモンスターには強いと言っても、これほどの相手になると簡単には背後を取らせてくれないんだよね。
「……先へ進もう。」
ミノタウロスの摩核を回収後、ちょっぴり納得のいかない顔をしたアレクに促され、探索を続けた。
「扉に罠は仕掛けられていないけど、この向こうにはモンスターが一体いるよ。」
僕は調べた結果を報告した。
古代遺跡風の第七階層には所々に扉が付いている。扉の先には部屋があったり、別の通路が続いていたりする。また、特定の手順を踏まなければ開かない扉や、罠が仕掛けられた扉などというものも存在する。
今回見つけた扉は通路の壁に付いていた。扉の先にあるのは部屋か横道の通路だろう。後回しにしても良いのだけれど、素通りすると扉の向こうのモンスターが背後から襲ってくる危険があった。
「よし、開けてくれ。」
アレクは即断する。探索は始まったばかり、戦闘を避ける理由は特になかった。
扉を開けると、そこは小部屋になっていた。中にいたのは、一体のオーガ。
オーガは角の生えた人型のモンスターで、見た目はまんま鬼だ。このオーガとミノタウロスの二種類が第七階層で確認されているモンスターだった。
ミノタウロスにせよ、オーガにせよ、第七階層のモンスターはかなり強い。
思えば、第四階層では毒持ちや待ち伏せなど搦手が厄介だった。第五階層は壁や天井に穴を開けてやって来るモンスターと落盤のトラップが凶悪だった。第六階層では冒険者を水中に引き摺り込んで攻撃してくる。
これらの階層に比べて、第七階層では純粋にモンスター自身が強い。
そして第七階層のミノタウロスやオーガには個性があるらしい。過去の記録を見ると、遭遇した個体によって戦い方や装備にも違いがあるらしいのだ。
部屋の中にいたオーガは、簡素な鎧に身を包み、こちらを見ると剣を構えた。手にした剣は反りのある片刃の……って、もしかして日本刀? サムライかよ!?
刀を正眼に構えるオーガに対し、アレクも慎重に聖剣を構える。
この階層のモンスターは武器を操り高度な技を放ってくる。力任せに襲い掛かるモンスターとはまた違った厄介さがあった。
アレクとカレンさんがいて負けるとは思わないけど、下手をすれば大怪我をする恐れはあった。緊迫する空気の中、
――サクッ!
「グワアァーー!!!!」
脊髄を切断されたオーガが崩れ落ち、摩核に変わった。
「……。」
「グレッグ、あんた結構強いんとちゃうか。」
「いやいや、向こうがアレクとカレンさんに集中していたからできたんだよ。僕だけだったら斬られていたよ。」
正直、僕の潜伏ではこの階層のモンスターに気付かれずに背後に回るのは難しい。アレクとかカレンさんとか言った、一瞬たりとも目を離せない強者に意識を集中していたからこそ僕は見逃されていたんだ。
サムライオーガの横を通る時は、バレて斬りかかって来んじゃないかとドキドキだったよ。
それに、何よりトニーさんの短剣。この切れ味があってこそ一撃で仕留めることができた。前の短剣では致命傷にならずに、返す刀でバッサリと斬られていたかもしれない。
さて、それでは戦利品の回収だ。オーガの摩核の他に、鎧と刀が転がっているので回収する。ドロップアイテムではないのだけれど、モンスターの使用している武具も消えずに残るんだよね。
第一階層のゴブリンとかがたまに持っているナイフなんかは質が悪くて鋳つぶした方がましだったりするんだけれど、さすがにこの第七階層ともなるとモンスターの武具も質が高い。持ち帰れば高値で売れて、鍛冶屋で冒険者用の武具として打ち直されることになる。
その後、小部屋の中を調べて特に何もないことを確認すると、部屋を出て探索を続行する。
アレクがまた何か納得できないような顔をしていたけど、モンスターも倒したし、探索も進んでいるし、問題ないよね?
探索を進めて行くと、通路の先に扉があり、その向こうは大部屋になっていた。
モンスターが犇めくモンスター部屋ではなかったので扉を開けて入ってみたけど、モンスターがいないわけではなかった。
「モンスター来ます! 別々の方向から五体!」
どこに待機していたのか、別々の方向から走り寄る影、その数五体。
現れたのは、オーガ三体にミノタウロス二体の混成部隊。それが僕たちの少し前方で一度集まると、横一列に並んだ。そしてぴったりと息の合った動作でピシリとポーズを決めた!
……えっと、それやるために奇襲のチャンスを放棄して集合したの? 五体のモンスターの顔は、何かをやり遂げたとでもいうかのように輝いていた。
背後に爆煙でも上げれば戦隊ものの登場シーンのようだ。何レンジャーさんですか?
しかし、モンスター同士が息の合った連携をやられると厄介そうだ。少なくとも睨み合っている隙に僕が近付いて背後から攻撃というのは無理だ。一体は倒せても二体目に僕がやられてしまう。
アレクとカレンさんが前に出て構える。エレノアさんも魔術の準備を始めた。僕とジェシカさんは後衛を守りつつ遊撃を行う。そして――
「少し試してみたいことがあるので、ここは私に任せてもらえませんか。」
アリシアさんが突然そんなことを言い出した。珍しい。
回復役はパーティーの生命線になりかねないので、普通は攻撃に参加しない。アリシアさん自身そのことを良く分かっているから、聖女が無双できる第三階層でも攻撃はアレクに任せていた。
そう言えば、アリシアさんは新たに聖女の魔術を憶えたと言っていたっけ。でも直接攻撃するような魔術は無いはずだけど、どうするつもりだろう?
アレクの許可を取ったアリシアさんは、さっそく魔術を発動した。
「『混乱』!」
これは……?
「ブモゥ!?」
「ガアァ!!」
突然ミノタウロスの一体とオーガの一体が、味方のモンスターに襲い掛かった。いきなりで混乱するモンスターたち。
「『付毒』! 『暗黒』! 『狂化』! 『麻痺』!」
畳みかけるように、次々とアリシアさんが魔術をかけて行く。これが、聖女の魔術……なんか思っていたのとちょっと違う!
聖女と言えば、状態異常からの回復の方が得意分野だと思うのだけど、回復ができるのならば状態異常にすることも可能ということだろうか。
目の前では、味方を攻撃する奴、見当違いの方向に攻撃する奴、血を流しながら暴れる奴、身動きできずに味方の攻撃を受け続ける奴。敵ながらなかなかにカオスな状態だった。
やがてモンスターは一体、また一体と摩核に変わり、味方を攻撃していた最後の一体も毒で力尽きて倒れた。
うーん、状態異常攻撃って結構えぐい。
この世界の支援魔術って、攻撃力、防御力、スピード等を数パーセント上げたり下げたりするのがせいぜいなんだよね。毒とか麻痺とか混乱とかは毒薬か呪いの範疇になることが多い。
これほど強烈な状態異常を引き起こす魔術があるとは知らなかったよ。やはり悪用されると危険だから非公開なのかな? もしくは聖女の使う魔術としてはイメージ悪すぎるから秘密にしているのか。
ともかく、アレクやカレンさんが手を出すまでもなく戦闘は終わった。
またちょっぴり納得のいかない顔をしたアレクを先頭に、探索を再開した。
王族であるアレクの剣は正統派です。正面から堂々と向かってくる敵にはこちらも正々堂々戦う傾向があります。
モンスター相手に正々堂々もないのですが、相手が技術を磨いてきた武人のようだったため、不意打ちであっさりに納得いかない気分になったようです。
このあたり、安全で効率的を求める冒険者のグレッグや元傭兵のカレンとは意識が違います。




