第四十五話 第七階層の探索になかなか行けません
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賢者エレノアの悩み事も解消したところで、心置きなくダンジョン探索を再開した。
次の目標は第七階層の空白地帯になる、のだけれど……。
「今回の探索は、ここまでだな。」
アレクがそう宣言する。ちょっと残念そうだ。
ここは第六階層の中央島。船を係留した浜辺だ。持ち込んだ船は、船底の塗料が頑張ってくれたためか、今のところちゃんと残っていた。
せっかく第六階層まで来たのに、むざむざ引き返す理由は一つ。第五階層の探索に時間がかかりすぎたからだった。
アレクは一回の探索に大まかな期限を設けていた。このダンジョンの、特に深い階層の空白地帯は広大だ。適当なところで打ち切らないときりがない。
お試しのつもりで魔王討伐までやってしまった最初の探索を反省してのことである。
国とも協議した結果、ダンジョンに入って十日経ったら帰還に向けて行動することになっていた。帰還用の『ポーター』を見つけないことには帰れないのでそれほど厳密な期限ではないけれど、あまり遅くなると「勇者死亡説」が流れて大騒ぎになりかねない。
今回はその十日の期限を第五階層の探索で使い切っていた。ようやく降りの『ポーター』を見つけたので第六階層まで降りてきてついでに船の様子を見たのだけれど、この「ちょっと降りてみて様子を調べる」ができるのは第六階層くらいなものだ。
「次からはもう少し期限を延ばすか。」
第七階層まで降りられずに引き返すのは、今回で二度目だった。前回も第五階層の探索に時間がかかり、そのまま引き返している。やはり魔王討伐をした時が例外だったのだろう、そろそろ第五階層の探索でかかる時間も計算に入れて計画を立てた方が良さそうだった。
あ、前回も今回も、ダンジョン探索の成果はいっぱい出ているよ。第五階層の地図もだいぶ広がったし、鉱石の採掘もしている。採掘ポイントではルビーやサファイヤの原石も出てきたし、ますます第五階層のダンジョン鉱山としての価値が高まっているみたいだ。
そうそう、第五階層のモンスターであるジャイアントモールのドロップアイテム、「ジャイアントモールの爪」を加工して作られた試作品のつるはしを貰ったのでダンジョンに持ち込んだのだけれど、これを使って採掘ポイントで掘ると鉱石がザックザックと山ほど掘り出すことができた。さすがにダンジョンの壁は掘れなかったけどね。
おかげで冒険者ギルドで受け取る報酬は、相変わらず金貨がいっぱいだ。
もっとも、アレクのパーティーは装備も高級品だし消耗品も高価なものを使用している。この前なんか船まで持ち込んだ。だから報酬が多くてもそれ以上に経費が掛かっている。たぶん実質的にはまだ赤字だと思う。
ただ、経費は国で出してくれるので、他の冒険者から見れば多額の報酬で儲かりまくっているようにしか見えない。実際使えるお金は増えまくっているし。お金を少しでも還元するために、アレクは毎回頑張って宴会やっています。
でも、本来の目的の方がちょっと足踏み状態だった。
第五階層の地図も広がってきたし、何度も挑戦していればいずれは第五階層をすんなり通り抜けられる時も来るだろうけど、第五階層の探索に時間かかってもそのまま第七階層の探索を行えるように探索期間を延長した方が早くて確実だ。
魔法鞄があるから、数ヶ月くらいダンジョンに潜っていられるくらいの物資を持ち込めるんだよね。
いずれにしても、第七階層の探索は次回ということにして、僕たちはダンジョンから帰還した。
「それでは、行ってまいります。」
ダンジョンから帰還し、定例となっている諸々のことを済ませたある日、アリシアさんがパーティーホームから出かけて行った。
実はダンジョンの外ではアリシアさんは結構忙しい。
まず、帰還直後の国への報告にアレクの補佐として出席している。これは僕たちも呼ばれたら証言することになるのだけれど、呼ばれるまでは待機だった。
それから、冒険者としてみんなと一緒に次の探索に向けての準備。
その合間に、公爵家令嬢としての公務と、聖女としての公務。ある程度は免除されているらしいのだけれど、それでも立場上色々とあるらしい。
この辺りアレクも同様なんだけど、上に優秀なお兄さんがいる王子の公務よりも、下に幼い弟がいるだけの公爵家令嬢の公務の方が大変らしい。
そんなアリシアさんが今日向かったのは王宮の図書室。なんでも、アリシアさんが聖女になったことで、過去の聖女の使った特殊な魔術の資料等の閲覧が許可されたのだそうだ。
一般に公開されていない聖女の魔術なんてものがあったんだ。知らなかったよ。
それにしてもアリシアさん、今でも超一流の治癒師なのに、聖女の凄い魔術を学んだらどうなるんだろう?
王宮は王都ロシュヴィルのほぼ中央に位置している。その王宮を取り囲むように国政を担う各種施設が配置され、行政区を形成している。
王都は大雑把に言うと、東に平民区、西に貴族区、南に商業区、北に職人区と別れている。これに合わせて行政区も、東に平民向け、西に貴族向け、南に商業向け、北に職人向けの施設が集中している。
だから、王宮から西へ進むとほぼ貴族しかいない非常に警備の厳重な地域が広がっている。ここに暮らしているのは貴族とその使用人、あとは特別に認められた身元のはっきりとした平民くらいしかいない。
アレクの確保したパーティーホームは貴族区に位置している。ここから王宮までは、公爵家令嬢が護衛も付けずに行き来できる程に安全な場所である。
そのはずだった。
「おお、我が愛しのアリシアよ。今こそ偽りの婚約から解き放とう。さあ、私と共に来てください!」
この気障ったらしいポエマーな男はハスキンス侯爵家の四男、ライアン・ハスキンス。
「迎えに来たぜ、アリシア。お前のためなら世界の果てにだって連れ出してやる!」
こちらのちょっとワイルドと言うかガラの悪い男はサザーランド伯爵家の三男、スティーヴ・サザーランド。
王宮からの帰り道、アリシアさんの前に立ちはだかった男は二人とも貴族だった。
いくら不審者の侵入を阻んでも、元から住んでいる貴族が変な妄想に憑りつかれてストーカーになってしまっては防ぎようがなかった。




