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勇者パーティーから追放された雑用係は全てを呪う復讐者に、なりません。  作者: 水無月 黒


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第四十三話 大先輩のお見舞いに行きます

ブックマーク登録ありがとうございました。

 今日はエレノアさんのお供で、ダンジョン病で引退した冒険者のお見舞いに行くことになった。

 いや~、引退した冒険者と言うのは大先輩なわけで、少なからずお世話になった人もいるんですよ。また来いと言われたら、行くしかないじゃないですか。

 そんなわけで、エレノアさんと一緒に平民区を歩いています。

 王都の東に広がる平民区は、王都の中央の行政区に近い辺りと南側の商業区に近い辺りが地価が高く、平民の中でも比較的裕福な人が住んでいる。

 逆に行政区や商業区から離れるにつれ地価が下がり、最も離れた北東の外れに貧民街が存在する。住んでいる場所が分かればその人がどの程度裕福か、あるいは貧乏かだいたい推測できるのだ。

 普通の冒険者はだいたいが貧乏だ。特に病気で引退した冒険者が悠々自適に暮らせるほどの貯えを持っているはずもない。

 必然的にエレノアさんの向かう先は貧民街に近い所に集中、人によっては貧民街に住んでいる。

 「前回の訪問からだいぶ日が経った。そろそろおいて来た薬もなくなるころ。急がないと。」

 日数がかかった原因の一つが、エレノアさんの釣り三昧だったりします。

 そうこう言ううちに、ダグラスさんの家が見えてきた。


 「ダグラスさん、こんにちは……?」

 「よう、嬢ちゃんにグレッグ、よく来た。元気か? 俺はすこぶる元気だぞ。ガハハハッ」

 ダグラスさんは元気に僕たちを迎えてくれた。いや、なんか、元気過ぎない? ハイテンションと言うか、落ち着きがないというか。

 何だろう、なんかおかしい。よく見ればダグラスさんの目は血走り、手足や額には血管が浮き上がっている。明らかに様子がおかしかった。

 「『睡眠(スリープ)』!」

 ええ!? エレノアさん、ダグラスさんに魔術をかけて問答無用で眠らせた!

 ダグラスさんをベッドに寝かせると、エレノアさんは手早く診察を始めた。

 「これは……、お願い、アリシアを呼んできて!」

 今日、エレノアさんはダンジョン病のさまざまな症状に合わせて色々な薬を持ってきている。それに、回復魔術は病気にはあまり効果がない。

 それにもかかわらず、アリシアさんが必要だという。

 ちょっと、嫌な予感がした。


 アリシアさんはパーティーホームにいたので、事情を話して来てもらった。

 実はここでひと悶着あった。冒険者として活動していても、アリシアさんは公爵家令嬢なのだ。気楽に平民区の、それも貧民街に近い所に出歩いて良い身分ではない。

 しかし、これは賢者エレノアからの要請なのだ。エレノアさんの様子からして、緊急かつ重要な案件である可能性が高かった。

 結局、緊急だからということで、アレクがアリシアさんの護衛として同行することになった。

 ……公爵家令嬢の護衛に王子様が付くというのも結構とんでもないことだけど。まあ、こっちはアレクが勇者でアリシアさんの婚約者(フィアンセ)だからどうとでもなるらしい。


 「お待たせ、アリシアさん連れて来たよ。ダグラスさんの様子はどう?」

 「とりあえず症状の進行は抑えた。ここから先は、アリシアでないと無理。」

 眠っているダグラスさんは落ち着いているように見える。

 「……これは!」

 しかし、ダグラスさんの様子を見たアリシアさんは驚いて息をのんだ。

 「アリシア、瘴気の浄化をお願い。」

 「瘴気だって!」

 エレノアさんの言葉に僕とアレクも驚いた。確かにダンジョンには瘴気が漂っていて、ダンジョン病の原因は瘴気に体を蝕まれたからだと考えられている。

 実際に強い瘴気を浴びると、精神や身体に異常をきたすこと、そして瘴気を浄化することで元に戻ることが知られている。

 ただし、瘴気を浄化して治るのは強い瘴気を浴びた直後の、いわば急性中毒の場合だけだ。瘴気が原因のダンジョン病だとしても、時間をかけて壊された慢性中毒状態の身体は瘴気を取り除いても元に戻らない。

 「分かりました。……『浄化(ピュリファイ)』!」

 アリシアさんの魔術がダグラスさんを包む。心なし、ダグラスさんの寝顔が穏やかになったようだ。……あ、浮き上がっていた血管が元に戻って行く。効果はあったようだ。

 「つまり、王都のどこかで強い瘴気を浴びたということか?」

 アレクの表情は険しい。これが、ダンジョンの中ならば何が起こっても不思議はない。冒険者が強い瘴気を浴びることもあり得るだろう。しかし、ダグラスさんはもう引退してダンジョンには潜っていないのだ。王都の中で強い瘴気を浴びる危険性があるならば、それは大問題だった。

 「違う。瘴気の元はこれ。」

 エレノアさんが指示したのは、錠剤の入った瓶だった。

 「これだけ、私の処方した薬じゃない。たぶん、魔人薬。」

 エレノアさんはダグラスさんの服用している薬の状況を確認して見つけたのだろう。それにしても、剣呑な名前の薬が出てきた。

 「魔人薬? 確か、禁止になった魔法薬(ポーション)だったな。」

 魔人薬は僕が冒険者になるよりも前に作られ、禁止された魔法薬(ポーション)だ。僕も話に聞くだけで実物は見たことがない。アレクもよく知っていたね。

 「正確には、魔人薬と同じく瘴気を成分とする薬。魔人薬ほどの強力な作用はない。」

 魔人薬と言うのは、服用した者の全ての能力を上げる超強力な強化薬なのだそうだ。身体能力が向上してモンスターと素手で殴り合ったとか、魔力も上昇してとんでもない威力の魔術を放ったとか、回復能力も向上して瀕死の状態から生き延びたとか、信じられないような逸話も多い。一時期は最後の切り札として持ち歩く冒険者も多かったとか。

 しかし、効果がとんでもない分副作用も強烈で、使用すれは身体や精神に後を引くダメージを受ける。しかも依存性もあり、服用を続ければ最終的には理性を失って暴れる魔物のようになってしまう。人を魔物に変える薬。魔人薬と言う名称は、使用者の末路を見て、禁止された後から付けられたものだ。

 「ダンジョン産の薬草から魔法薬(ポーション)を作る際に棄てられる瘴気を含んだ不純物、魔人薬はそれを原料に作られる。この錠剤もたぶん同じものを原料にしている。」

 瘴気の出どころはやっぱりダンジョンでした。まあ、そうだよね。

 「つまり、強い瘴気を含む薬物を飲まされて、瘴気に(あた)ったということなのか?」

 「少し違う。毒物でも正しく扱えば薬になる。瘴気も同じ。この薬は、たぶん、副作用を抑えて瘴気の身体を活性化する特性を利用している。問題は、必要以上の量を摂取したこと。」

 毒も薬になるか。そう言えば、猛毒で有名なトリカブトも漢方薬の原料になるとか聞いたことがある……あ、これは前世の知識だ。

 それはともかく、逆に言えば、薬だって使い方を間違えれば毒にもなる。ダグラスさん、用法用量を守らなかったのかな。

 「正しい知識がなければ扱いの難しい劇薬。一度にこれだけの量を渡す方が間違っている。」

 そっか、本来入院して経過を見ながら使用するような強い薬を、常備薬のように気楽に与えたら事故も起こるよね。

 「……その薬は、調薬師のイヴァン先生に貰ったものだ。」

 あ、ダグラスさんが目を覚ました。正気に戻ったみたいで何よりです。

 ん、イヴァン先生?

 「嬢ちゃんにもらった薬が残り少なくなってきて不安になったところにイヴァン先生が来てその薬をくれたんだ。飲めば元気になるんで調子に乗って飲み続けちまったんだが……、そうか、魔人薬だったのか。」

 「魔人薬ではないから、必要以上に服用しなければ問題ないはず。でもこれ以上の摂取は危険。」

 魔人薬……イヴァン先生……、そうか、これも小説にあったイベントだ。

 賢者エレノアが隠れ巨乳であることが発覚する事件! ……じゃなくて、主人公(グレッグ)が賢者エレノアに復讐を果たすイベント。

 いや、あのエピソードは読者の間では、賢者エレノアの「隠れ巨乳発覚事件」とか「ロリ巨乳イベント」とか呼ばれているんだよ。特に書籍版ではイラストの人が頑張っちゃって、エライことと言うか、エロイことになってしまって……。

 まあ、それはともかく、小説では、()()()()()()()王都の貧しい人に魔人薬もどきの薬をばらまいていた。そして、危険な薬の存在に気付き、薬をばらまいている犯人が賢者エレノアであることを突き止めたのが、調薬師のイヴァンなのだ。

 うーん、小説とは立場が逆だ。小説の中の賢者エレノアは知的好奇心のためには手段を選ばない倫理に欠けた人物で、興味の趣くままに人体実験を繰り返していた。

 調薬師のイヴァンは偶然危険な薬の存在を知り、それをばらまく賢者エレノアを説得して止めさせようとするのだが、逆上した賢者エレノアに殺されてしまう。

 しかし、この流れの裏には当然のように主人公(グレッグ)の暗躍があった。イヴァンの死後、彼の集めた「賢者エレノアが危険な薬物を配布している」証拠は人手に渡り、王都中にその事実が知られることになる。

 その後、主人公(グレッグ)は賢者エレノアが薬を与えていた実験体(モルモット)を殺してアンデッドの配下とし、適当に暴れさせた。これがちょうど魔人薬の末期症状で暴れているように見えるため、賢者エレノアの評判は完全に地に落ちることになる。

 最終的には、行き場を失った賢者エレノアを魔術を阻害する結界を張った場所へ追い込み、手下にした元実験体のアンデッドに襲わせて「隠れ巨乳発覚事件」になるわけだ。

 あれ、もしかして……。

 「エレノアさんの診ている他の患者さんにも、同じ薬が配られていたりしないかな?」

 「!」

 「……確認するべきだろう。」

 アレクが再び険しい顔になる。濫用すれば魔人薬と同じような効果のある薬だ、ダグラスさんは間に合ったけど、手遅れになれば最悪死ぬ。あるいは正気を失い、心身に多大な後遺症を残すことになる。

 また、魔人薬の末期症状は魔物の如く暴れまわる。街中に突然魔物が出現するようなもので、この被害も無視できない。

 僕たちは、急いで他のダンジョン病の患者の元に向かうことにした。


 一日かけてエレノアさんの診ていた患者全員を訪問して確認した。そのほぼ全員が調薬師のイヴァンから同じ薬を貰っていた。

 しかし、薬を受け取っていてもエレノアさんの処方した薬を優先してまだ服用していない人や、薬を飲んでいてもまだ少量で問題の出ていない人も多かった。副作用の出かかっていた人もいたけど、アリシアさんの魔術で瘴気を取り除いたら問題なく回復した。大事に至らなくてよかったよ。

 なかにはイヴァンの薬で病状が改善した人もいたみたいだけど、全員から薬は回収させてもらった。飲み続けて副作用が出たらたいへんなことになるからね。

 元冒険者だけあって、魔人薬と同じ成分だと言ったら素直に渡してくれた。もしかすると魔人薬の犠牲者を直接知っている人もいたんじゃないかな。

 後は――

 「調薬師のイヴァンならば聞いたことがある。魔法薬(ポーション)を作る工房で働いていたはず。」

 問題の調薬師についてはエレノアさんが知っているようです。小説では若くて正義感のある人物としか書かれていなかったけれど、結構有名な人なのかもしれない。

 いずれにしても、薬を配っている本人に話を付けなければならない。エレノアさんの診ている患者以外にも配っているかもしれないしね。

 ただ、今日はもう遅いので翌日その工房に行くことになった。この世界では照明も結構高価なので、たいていの人は日の出ているうちしか仕事をしないのだ。


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