第四十一話 第六階層の探索を始めます
評価ありがとうございます。
2021年11月1日:誤字訂正
誤字報告ありがとうございました
僕たちは第六階層にやって来ていた。
結論だけ言うとあっさりと来たように聞こえるけれども、第六階層ともなるとここに来るまでも一苦労だ。
アレク達の過剰な戦力ならば第三階層まではたいした苦労もないのだけれど、第四階層では動きにくいと不人気な湿地帯エリアに出て大変だった。
第五階層では、また未踏領域に出てしまい、地道な探索を行うことになった。幸い今回は早めに他の冒険者の探索した地図に繋がったので、第五階層の探索は二日だけで済んだ。
そうしてやって来た第六階層は、再びフィールド型のダンジョンになっていた。ただし、第四階層とは大きく異なる光景が広がっていた。
まず、第四階層と異なり、第六階層はエリアに分かれていない。言ってみれば、階層全体が一つのエリアになっているのだ。
そして、この階層にやって来た者の目に映るのは、ただただ広がる一面の水。
海洋エリアとか、大海階層とか呼ばれるのがこの第六階層である。
「『中央島』南東の海岸と。」
僕は新しい用紙に現在位置を書き込む。この階層もマークを書き込む壁はないので、天井の光源や周囲の地形を見て現在位置を特定する。
「相変わらず、水ぱっかやな。」
それがこの階層の特徴だからね。一面水ばかりの中に所々島が突き出ている。今のところそれ以外の光景は見つかっていない。
アレクもカレンさんもこの階層に来る直前に装備を革鎧、つまり装飾用の装備から本来の装備に戻している。
それは、モンスターが強くなってきているということだけでなく、水に落ちた時の対策だ。金ぴかの金属鎧やひらひらのドレスアーマーでは水に落ちると動き難い。
この階層で確認されているモンスターは全て水中にいる。水中戦の得意なモンスターがうようよいる階層で水に落ちるだけでも危険なのに、水中で動き難い装備を身に着けるているのは自殺行為だ。
第六階層では『ポーターの出口』は『中央島』と名付けられた比較的大きな島に集中していた。他の場所に出たという記録はない。
そして中央島の真ん中には帰還用の『ポーター』が存在することが知られている。つまり、この階層に来た者は帰り道を探すのに苦労することはない。
このため、第五階層で行き詰った場合、降りの『ポーター』を見つけていたら、一度第六階層に降りてから帰還するという方法が考えられている。けれどもこの方法を使う冒険者はまずいない。
そもそも第五階層を探索する冒険者が少ないとか、都合よく降りの『ポーター』だけ発見しているケースがレアだと言うだけでなく、本当に第六階層では中央島だけに出るのか確証はないのだ。
実は他の島どころか、陸地のない水上に現れてそのまま水中のモンスターの餌食になった冒険者がいないとは言い切れない。
だから前回も今回も最悪を想定して、エレノアさんが緊急時に水没しないための魔術を何時でも発動できるように準備した上で第六階層にやって来ている。
まあ、後々魔王軍の魔物も使用することを考えたらいきなり水中に放り出されることはないと思うんだけどね。モンスターの中にも泳げなかったり水に弱かったりするものもいるだろうし。
この第六階層、通過するだけならば大して苦労はしない。ここから帰還するだけならば中央島の真ん中まで行けばいい。モンスターに出会うこともなく『ポーター』まで辿り着ける。
逆にさらに下の階層に降りたければ、中央島の周囲の小島、ちょうど東西南北の方向にある島に降りの『ポーター』がある。そこまでは浅瀬の道ができているので、飛び魚っぽい小さなモンスターの襲撃に気を付ければ、足先が濡れるだけで行くことができる。
しかし、それ以上の探索を行おうと思うと、途端に困難になる。
中央島の周囲は比較的水深も浅く、浅瀬や所々架かっている小さな橋を渡って移動することができる。しかし、中央島から離れてより遠くへ向かおうとすると急激に危険度が上がるのだ。
一応、かなり遠くの島まで浅瀬や橋で道ができていることは確認されているのだけれど、細くて滑りやすい浅瀬や、手すりも付いていない橋を渡って進むのはかなり大変だ。
中央島の近辺ならば次の島までの距離も短く、また道を外れても比較的浅いためすぐに戻ることができる。しかし遠く離れた島まで行こうとすると、細く頼りない道が長く続き、道を踏み外せば足も届かない深みが待っている。
この階層では、水深の深いところほど大きくて強いモンスターが棲息していると考えられている。泳いで渡るのは論外、背も立たないほどの深い水中に落ちるのは非常に危険だった。
今回、第六階層の探索を行うためにいくつかの準備をしてきた。
一つは測量器具を魔法鞄に詰めて持ってきたことだ。準備期間の間に使い方もちゃんと練習した。
陸地にはモンスターが現れないことを利用して、中央島や周囲の島の測量を行ったのだ。やはり目測や歩いた歩数で測るよりも専用の機材を用いれば精度が格段に上がる。
予めどこをどう云う手順で測量するかを決め、測量ポイントも必要最低限に絞ったのだけれど、そこは慣れない素人なので測量だけで三日かかってしまった。
陸上にはモンスターは出ないと言っても水に近い所では水中から飛び魚が襲い掛かって来るし、本当に陸上にモンスターが現れない保証もないから、手分けをせずに全員で固まって警戒しながら測量していたというのもあるんだけどね。
中央島とその周辺の測量が済むと、次が今回の本命。
中央島にある砂浜に移動すると、もう一つの魔法鞄から用意したものを取り出して行った。そう、今回このために高価な魔法鞄を追加でもう一個用意したのだ。
出てきたのは、大量の木材に、様々な部品らしきもの。金属の塊や太い鎖まである。
このままだとただの産廃だけど、ここにもうひと手間加える。
「『修復』!」
エレノアさんの魔術により、魔法鞄から取り出した木材やその他の部品が動き出し、勝手に組み上がって行く。
修復の魔術は壊れたものを直すことができる。とは言っても、折れた剣や破損した鎧を修復しても元よりも脆くなるし、術者が下手ならば修復してもすぐにまた壊れる。
ただし、傷がつかないように丁寧に分解した部品を全て揃えた上で修復を使用すれば、元の状態と遜色ないところまで修復できるのだ。
もっとも、簡単なものならば手で組み立てた方が早いし、複雑なものを修復するのは術者の技量と結構な魔力が必要となる。そんな訳であまり使われることのない魔術なのだのだけど、僕たちにはエレノアさんがいる。
魔術で組みあがったのは、一艘の船だった。全長十メートルちょっとある、クルーザーと言ったところだ。
アレクの用意した魔法鞄はかなりの高級品で、このサイズの船を一艘格納するくらいの容量はある。ただ、さすがにこの大きさのものを出し入れすることはできなかったので、分解して持ち込んだのだった。
そして、苦労して持ち込んだこの船、持ち帰ることはない。持ち込んだ時と同じように丁寧に分解すれば持ち帰ることも可能なんだけど、僕たち六人で再利用可能なほど丁寧に解体することはまず無理だ。
これだけの船となるとはやはり値が張る。内陸部にある王都ロシュヴィルは海からは遠いから、造船所から持ち込むにも手間と金がかかる。これだけの手間と金をかけて持ち込んだ船を使い捨てるなんて、普通の冒険者にはできない発想である。
船一艘を調達できる財力、大容量の魔法鞄、そして賢者エレノアの魔術の技量と魔力量。この三つが揃って初めてできる荒業だった。
もっとも、アレクにしても一回使っただけでただ捨てるつもりはなかった。
船底の黒い色は、ダンジョンの壁に書き込むためのマーカーペンにも使用されている特殊な塗料を使っている。摩核を原料にして作れらるこの塗料は、それ自体ダンジョンの一部であると誤認させることでダンジョンに吸収されて消えることを防いでいる。
ダンジョンに持ち込んで投棄した器物は時間が経つとダンジョンに吸収されてしまうのだけれど、この塗料を使用することで船がダンジョンに吸収されずに残ることが期待できるのだ。
アレクは次にこの階層に探索に来た時、あるいは他の冒険者がこの階層を探索する時に備えて船を残していくつもりだった。
組み上がった船を不備がないか全員で確認する。外側だけでなく内部も見て回ったけれど特に問題は無かった。さすがはエレノアさん、賢者の仕事は完璧だった。
確認が済んだら、今度は船を押し出して水に浮かべる。進水式は無しだ。
……大型船ではないにしても、結構な重量のある船をアレクとカレンさんだけで押して動かせるって、二人ともどれだけ怪力なんだろう。
船が水にちゃんと浮かび、内部に浸水もないことを確認して全員で乗り込んだ。
「それでは、出航する。」
船は静かに進み出した。




