第四十話 賢者エレノアの休日
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2021年11月1日:誤字訂正
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僕たちは無事第五階層から帰還した。今回の探索も成果は上々、大成功である。
国も冒険者ギルドも鉱石の採掘ポイントには強い興味を持った。第五階層に採掘ポイントが存在することは以前から知られていたのだけど、アレクの発見した数は予想をはるかに超えていたのだ。
うまくすればダンジョン鉱山として大きな利益をもたらすし、もしかすると水晶以外の宝石の原石も出てくるかもしれない。
問題は、第五階層まで潜って採掘できる冒険者がほとんどいないことだろう。せめて第五階層の主要な地図が完成して、落盤の罠対策がしっかりとできないと無理な話だった。
国や冒険者ギルドでは、有望そうな冒険者パーティーに高価な装備を貸与することを検討したり、落盤の罠への対策の研究を始めたりするそうだ。
う~ん、欲望は進歩の原動力だね。
今回のアレクの収入もかなりのものになる。作った地図の範囲は広いし、鉱石のサンプルも採取した。第五階層のモンスターは摩核もドロップアイテムも高値で買い取られる。
剣聖リチャードの作成した範囲の地図も、再確認されたのが初めてなのでまだ買取の対象だった。また、落盤の罠の通路の情報も結構重要なものだったそうだ。わざわざ危険な罠のある通路を通りたがる冒険者はいないからね。
アレクが高額な報酬をもらい、そのまま宴会が始まる流れは既に定番だ。アレクは冒険者ギルドの窓口で、「査定に時間がかかるので、明日の夕方に受け取りに来てください」と言われていた。
地図を含めて初物も多い分、査定に時間がかかるのは確かだけど、宴会が始まることを見越して夕方を指定したね、あれは。
空白地帯の探索も折り返し地点の第五階層まで来たということで、一度全員の装備のメンテナンスを行うことになった。
まあ、アレクもカレンさんもまだ展示用の武器しか使っていないんだけどね。ついでに言えば、防具はモンスターの攻撃が掠ってもいないんだけど。
しかし、本命の武器ではないにしても、アレクもカレンさんもこれまで大量のモンスターを倒してきている。自分でできる範囲の手入れはしているけれども、そろそろプロの手で見てもらっても良い頃だろう。
そう言うことで、少し休みを長めにして、次の探索の準備に当てることになった。
この先、深い階層の探索にかかる時間も長くなる恐れがあるから、ダンジョンの外でやることがあるならば今のうちにやっておけということでもある。アレクは王子としての仕事を片付けて来ると言っていた。
正直、僕には特にやることはない。アレクとかかわる前はその日暮らしの冒険者だったしね。
え、貴族の勉強? ちゃんとやってるよ。そろそろ形だけの貴族としてならばやって行けるとお墨付きをもらったよ。僕は貴族として上を目指す気はないから、勉強止めちゃ駄目? 駄目ですか、そうですか。はぁ~。
そんなこんなで、僕たちはそれぞれ休暇を過ごした。
僕が孤児院に顔を出し、ついでにジャックと連絡を取り合った帰り道のことだった。意外に人物に出会った。
「あれ、エレノアさん?」
何故かエレノアさんがいた。ここは貧民街に近い平民区。エレノアさんがこんなところにどうして……って、エレノアさんは元は王都に住む平民でした。
エレノアさんの家族は貰った屋敷に移り住んでいるらしいけど、平民区に知り合いがいてもおかしくないか。
そうそう、騎士爵に叙されても貴族になるのは本人だけで、その親兄弟や妻子は平民のままだ。けれども貴族用の屋敷に平民の家族を住まわせることは問題ないそうだ。僕の場合、家族は孤児院の皆だからちょっと無理だけど。
「あ、グレッグだ。こんにちは~」
エレノアさんは相変わらずマイペースだ。
「こんにちは、エレノアさん。今日はここで何を?」
「それは……」
「よう、エレノアの嬢ちゃんに、……グレッグの坊主じゃねえか。珍しい組み合わせだな。」
そこへ突然声がかけられた。この人は……ダグラスさんだ。僕が生まれる前から冒険者をやっていた大先輩で、しばらく前に引退したと聞いていたけど、こんなところに住んでいたんだ。
と言うか、同じパーティーの僕とエレノアさんより、ダグラスさんとエレノアさんの方が変な組み合わせだよ、接点がないでしょう。
「こんにちは、ダグラスさん。調子はどう?」
やっぱりエレノアさんはマイペースだ。
「おう、嬢ちゃんの薬のおかげで元気だぜ! まあ立ち話もなんだ、二人とも入ってくれ。」
「へえ、ダグラスさんはダンジョン病で引退したんだ。」
冒険者が引退する理由は色々ある。
まともな職に就けたとか、結婚するからと言った理由で引退するならば、それはかなり幸せなことだ。
高価な装備を失って、ろくに戦えなくなる場合がある。
パーティーメンバーを失って、パーティーが解散する場合もある。
九死に一生を得て、恐怖でダンジョンに入れなくなった者もいる。
しかし一番多いのは、病気や怪我、あるいは老いで体が冒険に堪えられなくなるケースだろう。
ダンジョン病とは、主にダンジョンに潜る冒険者が罹る奇妙な病気の総称である。
ダンジョンに潜るほど悪化すると云われているため、ダンジョン病に罹った冒険者はだいたい引退することになる。
「俺も一時は剣も持てなくなっちまって冒険者を辞めたんだが、嬢ちゃんの薬のおかげですっかり元気になったぞ。」
ガハハと笑うダグラスさんは、本当に元気そうだ。今正面から戦ったら、僕よりも強いんじゃないかな。それでも冒険者に復帰しないからには、まだ完治とはいかないのだろうけど。
「私のお爺さんもダンジョン病で冒険者を辞めた。私はダンジョン病の治療法を確立したい。」
エレノアさん、なんだか決意を固めています。表情があんまり変わらないので分かり難いけど。もしかして、薬草採取に夢中になっていたのはこのため?
「しかし嬢ちゃん、これだけ良く効くんだからもう十分治療できているんじゃないのか?」
ダグラスさんがちょっと不思議そうに尋ねる。確かにだクラスさんは日常生活に支障のない程度には回復しているように見える。
「ダグラスさんは症状を抑えているだけで治っていない。それに、ダンジョン病は一つじゃない。原因も症状も治療方法も人それぞれ。」
そう、実はダンジョン病って冒険者が罹る変な病気と言うだけで、明確な定義がない。
ダンジョンと言う特殊な環境で繁殖した細菌に感染したのかもしれないし、異様な環境で過ごすストレスからくる心身症なんかもあり得る。気が付いていないだけで、トラップとして仕掛けられた弱めの毒や呪いを受けたのかもしれない。
実は携帯食ばかり食べてきたことによる栄養失調の可能性もある。貧乏な冒険者の中には、ダンジョンから帰っても余った携帯食を食べ続ける人いるんだよね。あれ絶対に健康に悪いよ。
一般的には、ダンジョンの瘴気に体を蝕まれた結果ではないかと云われている。魔術なんかがある世界だけに、迷信と切り捨てることはできない。
問題は、様々な原因や症状を無視して、馴染みのない病気をダンジョン病と一纏めにしてしまっていることだ。これではまともな治療なんてできない。魔法薬や回復魔術は病気にはあんまり効かないんだよね。
「ダグラスさんは手足に痛みが走るだけで他に問題はない。だから痛み止めで症状を抑えれば普通に暮らせる。けれどもそれだけでは根治しない。」
ダグラスさんは、神経痛かな? 完治しなくても、日常生活に支障がないところまで抑え込めれば十分に有効な治療だと思う。
「私は全てのダンジョン病の治療法を確立したい。」
ダグラスさんの家を出た後、エレノアさんはそう宣言した。
エレノアさん、かなり本気だ。ダンジョン病を症状と原因で分類して個別に治療法を模索する気だ。
この世界だと肉眼で見えない微生物の存在や、ビタミンなどの栄養素なんかも未発見だから大変だろうな。
「今日はあと十軒回る。」
せっかくなので、僕もお供しますよ。みんな冒険者の大先輩だろうからね。




