第三十七話 第五階層の探索を始めます
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2021/06/12 誤字修正
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第五階層は再び迷宮型のダンジョンになっている。ただし、第三階層までのような洞窟ではなく、まるで坑道のような作りになっている。
地面は平らで歩き易く、所々落盤を防ぐための坑木が存在する。照明はヒカリゴケのうすぼんやりした光ではなく、魔力で光るクリスタルのようなものが等間隔で並んでいる。
明らかに人の手が入っているように見える通路だけれど、壁も床の天井もむき出しの岩や土で、たまに罠としての落盤事故が仕掛けられている。
「ここは……、完全な未踏領域だね。」
僕は周囲の壁を見てマークが書き込まれていないことを確認した。
地図上の空白地帯と言っても完全に前人未到とは限らない。そこまで到達したものの、その情報を持ち帰れなかった冒険者がいる場合もあるのだ。
第四階層と違って書き残す壁のある第五階層で、何のマークも描かれていないということは、この『ポーターの出口』に出た者がいないということだった。
まあ、ダンジョン用のマーカーペンが開発される前にやって来たとか、『ポーターの出口』とは気付かずに通り過ぎた者がいるといった可能性はあるのだけど。
とりあえず、近くの壁に『ポーターの出口』のマークを記入する。
この時記載する内容にはちょっとした作法がある。基本は『ポーターの出口』であることを示すマークと既存の出口の個数プラス1の番号を記せばよいのだけど、この時記載する番号はまだ仮のものだ。
例えばアレクが第五階層を探索中に別の冒険者が第五階層の別の未発見の『ポーターの出口』を見つけると、同じ番号が二ヵ所に記載されることになる。
番号の重複は後で冒険者ギルドが整理して地図に書き込むのだけど、ダンジョン内のマークは誰かが書き直すまでそのままだ。これでは後から来た冒険者が混乱してしまう。
そこで、新しく発見した『ポーター』や『ポーターの出口』に番号を記載する際は、日付と記載者の署名をセットで入れることになっている。
もしも、最初に発見した時の番号しか書かれていない『ポーター』や『ポーターの出口』を見つけたら、冒険者ギルドで割り振った最新の番号で上書きする必要がある。
けれども、もし冒険者ギルドの発行した地図に該当する正式な番号が記載されていなければ、なおかつ日付が古いものならば、それは情報を持ち帰れなかった先達の夢の跡、なのである。
「それでは、第五階層の探索を始める。」
『ポーターの出口』を確認し、未踏領域に出たことが判明したところで探索を始めることにした。
いきなり未踏領域に出るというのは、アレクにしてみれば移動の手間が省けた、くらいのことかもしれないけど、本来非常に危険な状態なのだ。
まず、昇りの『ポーター』を見つけないことには帰還することができない。ダンジョンは広くて複雑だから、空白地帯で『ポーター』を見つけるまで何日もかかることも珍しくない。モンスターとの戦闘で現在地を見失うと、最初から探索をやり直しになる場合もある。
実際に三百年前の攻略が始まったばかりの頃は、第二階層で多くのベテラン冒険者が命を失ったと云われている。今、第二階層を歩き回れて冒険者として一人前、と言われるのは正確な地図があればこそだ。
いくらモンスターを倒せても、『ポーター』を見つけるまでは帰れない。探索に日数がかかれば疲労もたまるし食糧も尽きる。仲間が傷ついてもその場で応急処置しかできず、魔法薬が尽きれば重傷者は治療もできずにその場に捨て置くしかなくなる。
初期のころ、ダンジョンから帰還できるかどうかは、『ポーター』の近くに出られるかと言う運によるところが多かったのだそうだ。空白地帯の多い第五階層でも同じことが言える。
未踏領域から無事帰還するために必要なのは過剰な戦力ではない。正確なマッピングと効率的な探索こそが重要になる。
つまり、僕の役割が結構重要になる。一応みんなにも地図作りの練習をしてもらっているけど、僕が一番経験長いからね。
そう言えば、以前別パーティーに参加して第五階層に来た時も、マッピングを頼まれたんだっけ。冒険者の中にもマッピングが苦手な人は結構いる。その分戦闘が優秀だったりするけど。
アレク達は受けていないけれど、冒険者ギルドではマッピングの技術を教える講座なども開いている。ジェシカさんは受けたことがあるそうだ。
ジェシカさんの以前所属していた『暁の戦塵』では、ジェシカさん一人にマッピング講座を受けさせ、未踏領域のマッピングは全てジェシカさん一人にやらせようとしたらしい。しかもそのジェシカさんに囮やら壁やら危険な役割をやらせていたのだから、マッピングの重要性を理解していたとは思えない。いずれにしてもこの国のダンジョンでは成功しなかっただろう。
他国の歴史あるダンジョンでは、普通の冒険者が立ち入る領域は既に地図が完成していて、未踏領域に踏み込むのはそれこそ勇者候補に限られるらしい。そんなわけで、他国の冒険者にはマッピング技術を疎かにする者も多いらしい。
まあ、この国の冒険者でも地図の無い空白地帯には絶対に踏み込もうとしない人も多いんだけどね。
アレクはもちろんマッピングの重要性をちゃんと理解している。魔王討伐の時も、募集する雑用係の条件にマッピングができることを挙げていたくらいだ。
前回第五階層に来たときも未踏領域に出たのだけれど、魔王討伐を優先していたので降りの『ポーター』を見つけるとすぐに第六階層に降りてしまった。だから作った地図の範囲も狭く、第五階層の他の地図とも繋がっていなかった。
今回は空白地帯の調査が目的だから、がっつりと地図の作成を行うことになる。
地図の範囲が広がるほど有益になるから、同じ第五階層の他の地図と繋がったらいいな。




