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第三十一話 砂漠を探索します

誤字報告ありがとうございました。

 「! 何かいる! 前方やや右側!」

 生命探知(ライフディテクション)の魔術に反応があった。僕の警告にアレクも足を止め、武器を構える……が、何も出てこない。

 生命探知(ライフディテクション)の反応は相変わらず同じ位置にある。モンスターにしては反応が小さい気がするけれど……

 僕は足元の小石を拾って反応のあったあたりに投げ込んでみる。砂漠と言っても砂だけではなく、意外と地面はごつごつしている。

 ――ザバァ!

 砂を噴き上げるようにして突如飛び出して来たのは、サソリ? 大きな二本の鋏といかにも毒針を持っていそうな尾っぽ、体長は一メートル以上ありそうだ。

 「ハアッ!」

 「セイヤッ!」

 アレクとカレンさんの攻撃を受けて、一瞬で魔核になりました。まあ、所詮は第四階層のモンスター。一匹だけならアレクやカレンさんの相手にならない。

 「今のは、スコーピオンと言うやつだろうか? 砂漠にすむ魔物だと聞いたが。」

 アレクは話に聞いたことがあるみたいだ。アルスター王国に砂漠はないから、他国の話だろう。

 「おそらくは、スコーピオンを模したモンスター。たぶん尾に毒を持っているから気を付けて。」

 さすがエレノアさんは博識だった。

 「全く気配がありませんでした。私では見つけるのは難しそうです。」

 ジェシカさんの鋭い感覚でも見つからないとすると、全く身動きせずにあの場所に隠れていたのだろう。

 「生命探知(ライフディテクション)の反応もすごく小さかったから、ほとんど活動せずにあの場所に隠れて待ち伏せていたのだと思う。近付かなければ襲ってこないんじゃないかな。」

 動き出すまで分からないほど巧妙に隠れて待ち伏せし、しかも毒持ちと言うのはかなり厄介そうだ。

 僕たちのパーティーはアリシアさんもいるし、解毒用の魔法薬(ポーション)もあるからどうにかなるけど、普通の冒険者のパーティーではかなりきついだろう。

 とりあえず、僕とエレノアさんでこまめに生命探知(ライフディテクション)で調べることになった。


 「左から来ます! たぶん、ワーム!」

 今回はジェシカさんが最初に発見した。動かずに待ち伏せるモンスターを見つけることは困難だけれど、動いているモンスターならばジェシカさんの鋭い感覚は見落とさない。たとえそれが地中でも。

 砂煙を上げて飛び出して来たのは、ジェシカさんの予想通りワーム。直径一メートルくらいある巨大な肉食のミミズのようなモンスターだ。人間くらい頭から一飲みにしてしまいそうな大きな口を開けて襲ってくる。

 こんなモンスターが砂の下からいきなり現れたら誰だってビビるだろう。しかし、来ると分かっていればやりようはある、アレクなら。

 「そりゃあ!」

 出て来るワームに合わせ、相手の勢いも利用して一刀両断。ワームは瞬時に消滅した。

 このワーム、硬い外骨格はないのだけれど肉厚で、僕の短剣ではダメージらしいダメージを与えることができない。トニーさんの短剣はよく切れるけど、所詮は短剣。大型のモンスターを相手にするには長さが足りない。頑張って斬りつけても急所まで届かないんだよね。

 まあ、長剣を使っていても一太刀で切り伏せられるのはアレクだからこそなのだけど。

 砂漠エリアを探索していて、既に何種類かのモンスターと遭遇していた。

 巨大なサソリのスコーピオン。でっかくて巣を張らない毒蜘蛛、タランチュラ。砂の中を動き回る巨大ミミズ、ワーム。

 全てこれまで未発見のモンスターで、名前も仮称だ。

 どうやら砂漠エリア固有のモンスターらしく、いずれも砂に隠れて待ち伏せし、近付いたものに襲い掛かって来る。

 全部アレクやカレンさんが一瞬で倒しているので戦い方はよく分からないけど、僕が倒すのは難しそうな相手ばかりだった。少なくともモンスターの元になった魔物について調べて、急所の位置を特定しないことには手が出せそうにない。

 他にも分かったことがある。

 この砂漠エリアには道がある。

 一面砂だらけのように見えて、砂のすぐ下に硬い岩石の地面がある場所と、結構深くまで砂だらけの場所がある。硬い岩石のある場所ならば砂に足を取られることなく歩き易い道になる。

 そして、砂が深く堆積している場所にモンスターは潜んでいる。特に巨大なワームは砂の中しか移動できないらしく、かなり深くまで砂が堆積した場所にしか現れない。

 少なくとも岩石でできた道を歩いていればモンスターを踏ん付ける心配はまずないということだ。たまに道の上にこんもりと積みあがった砂の下に隠れていることはあるけどね。

 また、元になった魔物の性質を反映しているのか、砂漠エリアのモンスターは待ち伏せからの奇襲というパターンばかりなのでほぼ単独でしか襲ってこない。

 索敵で待ち伏せしているモンスターをしっかりと把握して、襲って来てもすぐに倒しているから全く苦労していないけど、並の冒険者では厳しいだろうなぁ。

 単独とは言え、毒持ちのサソリと蜘蛛に、巨大なワームだ。それが砂の下に隠れていると、目視で見つけるのは難しい。奇襲の一撃をまともに受けたら、戦闘不能の怪我人や、最悪死者が出る可能性もある。モンスターの襲撃を退けても、そのまま撤退する破目になるかもしれない。

 それから、この砂漠エリアはかなり広い。砂漠エリアに踏み込んでからすでに一時間ほど。ずっと進んでいるのだけれど、今だに終わりが見えない。

 索敵をしたり、砂漠の道を確認したり、現在位置と進行方向を確認したり、たまに奇襲して来るモンスターを倒したりしているけど、冒険者の足は速い。それに調べるようなものもほとんどないからね。小さなエリアならばそろそろ端が見えても良い頃だ。

 そうして黙々と歩みを進め、幾つ目かになる砂丘を超えたところでそれは見えた。

 「水があります! それに植物も。」

 最初に発見したのは、感覚の鋭いジェシカさんだった。

 あれ、猫って視力も良かったっけ?


 砂漠の只中にあったのは、差し渡し五十メートルくらいの水溜まり――オアシスだった。

 周囲には流れ込む川もなく、雨も降らないダンジョンで、地下から湧き出たと思われる澄んだ水を満々と湛えていた。

 その周囲には草木が生えている。草原エリアや森林エリアのようにダンジョンが用意した植物ではないだろうから、水場の近くで勝手に自生したのだろう。生物って逞しい。

 周囲を念入りに調べるけど、罠も隠れているモンスターも無し。代わりにあったのが――

 「あ、『ポーター』だ。」

 空白地帯に新たな『ポーター』を発見。早速番号を書き込む。

 「えーと、『降り10番』と。」

 砂漠エリアも地面は砂だらけでマーカーペンで書き込むのは無理なんだけど、『ポーター』だけは別だ。『ポーター』はどの階層でも石っぽい台座の上に魔法陣が書かれているから、台座の部分にペンで書き込むことができる。

 「ちょうどいい、ここを拠点にして探索を進める。」

 アレクでなくても同じ判断をするだろう。

 『ポーター』の近くだからモンスターはいないし、水の補充も好きなだけできる。水場が近いせいか、砂漠エリアの他の場所に比べて少し涼しい。ついでに水浴びし放題な場所も珍しい。

 惜しむらくは『ポーター』が第五階層に向かう降りだったことだ。これが帰還用の昇り『ポーター』ならば、何かあればすぐに帰還できるしギリギリまで探索も可能になる。

 「ああ、ここにはツルドクダミが! こっちには、チドメグサが!」

 エレノアさんも何か見つけたらしい。まあ、ここならモンスターも来ないし採取しても大丈夫かな?


 「ここのモンスターはダンジョンへの侵入者の排除専用だろうな。砂漠に特化し過ぎている。」

 オアシスを拠点に砂漠エリアの探索を行って数日、これがアレクの結論だった。

 砂漠エリアをあちこち探索し、新たなモンスターにも遭遇したけど、全て砂漠で待ち伏せするタイプだった。

 岩や砂に擬態した虫型モンスター、近付くと棘を飛ばしてくるサボテン型モンスター、砂の底に引き込もうとするアリジゴクのようなモンスター。

 隠れたり擬態したりする方法が砂漠に特化し過ぎていて、ダンジョンから外に出してもあまり役に立ちそうにない。アルスター王国に砂漠はないしね。

 考えてみると、第四階層全体的に似たような傾向があると思う。

 キラーマンティスなど昆虫型のモンスターは魔王の軍団として王都攻撃にも使えるだろうけど、巣を張る蜘蛛型のモンスターとか、植物型のモンスターなど決まった位置を動かないものも多い。

 深い階層まで冒険者が来ないための防衛用に配備されたモンスターなのだろうか。

 砂漠のモンスターの他に、砂漠の道も何本か確認した。また、新たに帰還用の『ポーター』を一つと、砂漠エリアの東に新たなエリアも見つけた。

 後はエレノアさんがオアシスで薬草を何種類か見つけたらしく、ほくほく顔だった。


ジェシカがオアシスを発見したのは、視覚ではなく嗅覚によるものです。

それから、エレノアが本領を発揮するのは第六階層の予定です。お楽しみください。

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