第三十話 第四階層のモンスターと戦います
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「左後方よりモンスター、多数来ます!」
ジェシカさんの警告に振り返ると、十匹くらいのキラーマンティスが現れた。残念ながら、モンスターと戦わずに草原エリアを出ることは叶わなかったようだ。
キラーマンティスは人間サイズのでっかいカマキリだ。こいつらは空を飛べるので、移動速度は結構速い。いきなり現れたように見えたのは、空を飛んで来たからだった。
この第四階層には、虫型のモンスターと植物型のモンスターが現れる。エリアによっても出現するモンスターが変わるので、冒険者ギルドでも第四階層の全てのモンスターを把握しきれていない。この把握しきれていない様々なモンスターによる、予想できない攻撃こそが第四階層の最大の脅威だった。
キラーマンティスの武器は、両腕の大きな鎌だ。昆虫のカマキリとは異なり、その二本の大鎌は切れ味抜群だった。
そのキラーマンティスの群れに向かい、アレクが突っ込んで行く。
「ハアッ!」
振り下ろされたアレクの剣を、キラーマンティスは二本の鎌で、受け止めた!?
嘘っ!? いくらキラーマンティスの鎌が丈夫だからと言って、アレクの剣を受け止められるなんて……って、今のアレクは聖剣ではなく、金ぴか装備の剣を使っていたんだった。
聖剣だったら防御した鎌ごと一刀両断だったろうけど、あの剣ではそこまでの切れ味はない。あっ、そのまま鎌を押し下げてキラーマンティスの頭を切っちゃったよ。この階層のモンスターだと力押しでどうにかなっちゃうのか、アレクは。
アレクも二体目以降は鎌の防御を避けて簡単に倒しているし、カレンさんも防御の暇を与えず一突きで倒している。ジェシカさんも、さすがに一撃で倒すことはできないけれど、キラーマンティスをスピードで翻弄して切り刻んでいる。
後衛もエレノアさんとアリシアさんが何時でも魔術を使えるように周囲を警戒しながらスタンバっている。アレク達の討ち洩らしが向かって来ても問題ないだろう。
問題は僕だ。僕の戦い方は第四階層のモンスターとは相性が悪い。
虫型のモンスターは気配を探るような高度な真似はしないから威圧と潜伏のコンボは効果がないし、外骨格は固いのでアレクやカレンさんのようなパワーのない僕では関節の隙間を狙わないと刃が通らない。
この辺りの事情は第三階層のアンデッドと大差ないのだけど、第四階層の虫型モンスターは動きも素早いものも多い。こちらの動きを読むような真似はしない代わりに、刺激に対して反射で動くからその瞬間は目で追えないほど速い。それをスピードで凌駕するジェシカさんの速さもかなりとんでもない。
キラーマンティスのように空を飛ぶモンスターもいるから、一度見つかると逃げ出すことも難しい。僕が単独で第四階層を探索しなかったのはこのためだ。
この場の戦闘はアレクとカレンさんに任せておけば何の問題もない。けれども、僕ももうただの雑用係ではない、アレクのパーティーの一員だ。この程度の相手に対応できないようでは、この先足手まといになってしまう。
僕は一匹のキラーマンティスに向き合い、武器を構える。トニーさんに作ってもらった武器もあることだし、僕も少し頑張ってみよう。
キラーマンティスは目で見て攻撃してくる。間合いに入れば即座に鎌を振り下ろしてくるだろう。死角から近付ければよいのだけれど、既に相手に見つかっている現状で死角に潜り込むことは難しい。
だったら、こういうのはどうだろう。僕はキラーマンティスに走り寄ると魔術を発動した。
「『囮』!」
この魔術は自分の幻影を作り出すものだ。僕が使えるようなレベルでは自分のすぐ近くに一瞬でバレる雑な幻影を出せるだけだけど、一瞬でも注意を引ければ十分に役に立つ。
キラーマンティスは反射的に幻影に向かって鎌を振り下ろした。よし、今だ!
振り下ろされた鎌の横を通り、キラーマンティスの背後に回る。そして首の部分の関節、外骨格の僅かな隙間に短剣を差し込んだ。
――スパッ!
小気味の良い手ごたえと共にキラーマンティスの首が切断される。うん、相変わらず素晴らしい切れ味だ。トニーさん、ありがとうございます。
しかし、ここで油断してはいけない。僕は素早くその場を飛び退く。
――ザクリ!
たった今まで僕がいた場所に鎌が突き刺さり、その後頭部を失ったキラーマンティスは摩核を残して消滅した。
危ない危ない。虫型のモンスターは結構しぶとい。頭を切り落としても、「たかがメインカメラをやられただけだ!」とばかりに最後の一撃を繰り出してくることもあるのだ。
やはり暗殺者スタイルの戦闘はヒットアンドアウェイが基本だ。迂闊にその場に留まっていたら命がいくつあっても足りない。
さて次は……と思ったらもう終わっていた。やはり一撃で倒せるアレクやカレンさんは仕事が速い。草原エリアの端の方まで来ていたせいか、追加のモンスターは今のところなさそうだ。
僕たちは周囲を警戒しつつ手早く摩核を集めた。あ、ドロップアイテムがある。キラーマンティスの鎌だ。鋭い切れ味と、アレクの一撃を受け止めるだけの頑丈さがあるから武器として加工できるらしい。これも回収っと。
「ああ、こっちにはキクニガナが! ちょっとだけ、ちょっとだけ採取させて~」
再び何か見つけたエレノアさんをアリシアさんが抱え上げ、僕たちはその場を後にした。
目の前には砂に覆われた不毛の大地が広がっていた。
「ここが第四階層の空白地帯、砂漠エリアか……」
物事に動じないアレクが、思わず足を止め見入っていた。
第四階層の各エリアは冒険者達が名付けたもので、ダンジョン内に「ここから○○エリア」と明示されているわけではない。しかし、エリアが変わったことは見ただけでよく分かる。
ある一線を境に、唐突に草の生えた草原から砂だらけの砂漠に切り替わるのだ。これが森林エリアから草原エリアならばまだ違和感は少ないのだけどね。
砂漠エリアは砂ばかりでほぼ何もない。一見すると見晴しは良さそうなのだけど、結構地形には起伏がある。少し先に見える砂丘の裏に何があるのかは見えないのだ。また砂埃でも舞っているのか、遠くの方はぼんやりとかすんでよく見えない。
「それでは、行こうか。」
僕たちは砂漠エリアに踏み込んだ。
第四階層を探索する冒険者でも砂漠エリアに踏み込もうと思う者はまずいない。
第一に、採取対象になりそうな植物がまるで見当たらない。あったとしても極僅かだろう。
第二に、徘徊するモンスターも見当たらない。モンスターが配備されていないのか、巧妙に隠れているのか。後者だったらかなり厄介だと考えられた。
第三に、凄く暑そう。太陽代わりの光源は一緒のはずなのだけど、砂漠エリアに入ると明らかに気温が上昇する。本物の砂漠ほどではないかもしれないけど。
第四に、水の補充が不可能に思える。実はこれがとても重要。
ダンジョンに潜る冒険者は水を最低限しか持ち込まない。水は非常に重くて嵩張るからだ。ダンジョンに何日も滞在する場合はそれでは間に合わないから、水は現地調達する。
ダンジョン内には結構水場がある。第三階層までの洞窟っぽい通路には地下水の染み出る場所があちこちにあったし、第四階層では川も流れている。
けれども、そうした水の補充が全く期待できないのが、砂漠エリアだった。水がない上に暑いとくれば、わざわざ踏み込みたいと思う冒険者はいないだろう。
けれど、アレクは別だ。空白地帯を攻略するという明確な目的があり、十分な水を持ち運べる魔法鞄を持っている。実際に、今回は砂漠エリアの探索も視野に入れて、十日分の水を持ってきていた。
現状、砂漠エリアの探索が可能な冒険者はアレク以外にいないだろう。




