第二十七話 アレクが酔っ払いました
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今日のアレクは頑張った。
前のように酔い潰れることなく冒険者達のどんちゃん騒ぎをどうにか最後まで乗り切った。
僕も冒険者からの酒を角を立てずに断るテクニックを教えたかいがあったよ。
もっとも、アレクはアレクで酒宴でうまく立ち回る技術はそれなりに身に付けていたらしい。ただそれはあくまで王侯貴族用のもので、冒険者とは作法がまるで異なるのだ。
その上、慣れない安酒を飲んだものだから前回はあっさりと酔い潰れてしまったのだそうだ。
そうした前回の反省を踏まえて、アレクは今回見事に酔い潰れることを防いだのでした。
まあ、潰れなかっただけで、ぐでんぐでんに酔っぱらっているけど。基本的に酒に弱いんだよね、アレク。
それでもどうにか宴会の最後――酒場を追い出される――まで冒険者達と付き合ったアレクは、少しは冒険者の皆に受け入れられたんじゃないかな。
さて、他の冒険者と別れたら、アレクを引っ張って帰りますか。ちょっと足下がおぼつかないけど、あの様子なら何とか歩いて帰れるだろう。
「勇者サマよぅ、魔王を倒したのはいいけど、そのためにグレッグを犠牲にしたんだってなぁ。」
ちょっと! アレクの気にしていることを……って、ミック? しまった、こいつ絡み酒だった。
「あいつは俺の親友だっんだ! そのグレッグを見捨てたお前を、俺は絶対に勇者だなんて認めないぞ!」
いやミック、僕生きているから! と言うか、ミックとはそこまで親しかったっけ?
あ、そう言えば以前ダンジョンで、他の冒険者が捨てて行ったと思しきエロ本を拾った時にミックに譲ったら、「お前は俺の心の友だ!」とか叫んでいたけど、あれ本気だったのかな?
あれ? 何だろう。何か変だ。
気が付くと人気のない裏路地で、冒険者達がアレクを取り囲んでいた。先ほどまでの楽し気な空気はどこへやら、なんだか異様な雰囲気だった。
ミックの行動が発端であるのは確かなのだけど、皆がアレクのことを憎しみの籠った目で見るというのは変だ。僕の交友関係は広いと言っても冒険者にそこまで人気があるわけではない。エロ本拾ったのもミックの時だけだしね。
ダンジョン内で仲間を見捨てるというのは褒められた行為ではないし、可能な限り避けたいことだ。しかし、ダンジョンは甘くない。仲間の犠牲で生き延びた冒険者というのも少なくない数がいる。その時の状況も知らない部外者が責め立てるようなことではないのだ。
ちょっと周囲でひそひそ話している冒険者達の声を拾ってみる。
「……勇者サマが魔王を倒しちまったせいで、もうダンジョンからはモンスターも宝箱も新たに出て来ることはないんだってな。」
「その残り少ないモンスターを勇者サマがまとめて狩っちまったのかよ……」
ああ、これがギルマスの言っていた、「ダンジョンで異変があれば全部お前のせいにされる」と言うやつか。別に異変が起きているわけではないけど、酔った勢いで将来の不安をアレクにぶつけているのだろう。
酔いがさめて冷静になれば、意味の無い言い掛かりに過ぎないことはすぐに分かるだろう。アレクが魔王を倒してから何日も経っているけど、駆け出し冒険者が頑張っている第一階層のモンスターが減った気配はないのだから。
うーん、でもなんかこの光景引っかかるんだよなぁ……。
ああっ! 思い出した! これ、小説にあったイベントだよ。
小説では、ダンジョンの内外で情報収集に勤しんでいた主人公が最初に仕掛けた一手。冒険者の間によからぬ噂を流してアレクに詰め寄らせ、更に魔術で主人公の幻覚を見せアレクを精神的に追い込む。
このエピソードで普段傲慢なアレクの精神の脆さが露呈し、またアレクの言動がさらにおかしくなり勇者パーティーが瓦解する発端となる。
主人公を見殺しにしたことも、ダンジョンの利益を独占しようとしているという話も、全て主人公が流した悪い噂だった。
僕が無事生還したからこのイベントは発生しないと思ったんだけどなぁ。
この世界のアレクのメンタルは強いけど、それ以上に責任感も強くて、あの時僕のことを見殺しにする以外の方法がなかったのかといまだに自問自答しているらしい。
結局、僕も含めて全員生き延びたし、魔王は倒せたし、あの時はあれが最善だったと思うんだけどなぁ。
ダンジョンのあれこれは誤解だからいいとして、ミックの批判は止めさせないと。アレクの心の傷をぐりぐりと抉って塩を塗り込んでいるよ。
「ちょっと、ミック! あれは僕が……」
――ガシッ!
え、なんで後ろから? って、アレク?
「すまなかった、グレッグ! 俺に力がないばっかりに、お前をあんな危険な目に遭わせてしまって。」
……アレク、泣いているよ。今までずっと一人で悩んでいたんだろうな。あの時の僕たちの判断は間違っていなかった。だからアレクも今更自分の判断に異を唱えることはできない。でも納得はしていなかったんだろうな。
「魔王を倒せたのも全てグレッグのおかげだ。お前こそが、真の勇者だ!」
「ちょっ、ちょっと止めてよ、アレク! 僕が勇者なんかになったらあっという間に死んじゃうよ。」
なんてことを言い出すんだよ、アレク。僕がアレクの真似をしたら絶対に死ぬから。……って、そこ! うんうんって頷かないで、地味に傷付くから。
それと、そろそろ放してほしいんだけど、アレク。
「しっかりして、アレク。僕もアレクも自分の役割を果たしただけでしょ。アレクだからみんな付いて行ったんだよ。」
そう、自分の役割を果たしただけだ。僕は雑用係として戦闘以外の必要なこと全般を。アレクは勇者として皆を率いて魔王討伐を。
僕にはアレクの真似はできない。戦闘能力の優劣ではなく、アレクだからこそ皆魔王討伐なんて無茶に付いて行ったんだ。
「アレクだから付いて行ったんだ。アレクじゃなきゃ駄目なんだ。アリシアさんも、カレンさんも、エレノアさんも、ジェシカさんだって……」
あれ?
「……考えてみたら、アレクって異様にモテるね。」
――ピキ!
「……は?」
なんかまた空気が変わった。それに気付いたのかアレクが顔を上げた。
よくよく考えてみると、アレクのモテっぷりはすごい。
アリシアさんは政略結婚的な婚約者なのだそうだけど、いくら才能があっても普通はここまで尽くさない。アレクのパーティーに参加してのはアリシアさん自身の意思なのだそうだ。
カレンさんは世界的にも有名な傭兵で、これまでいろいろな国から誘われたのだけど仕官することは無かったのだそうだ。それを、冒険者パーティーの一員としてではあるけれども、アレクは引き入れてしまったのだ。
エレノアさんもその才能を買われ、王宮や魔導の研究機関からもスカウトがあったりしたのだけれど、結局アレクが直接出向いて仲間にしてしまったのだそうだ。
ジェシカさんにいたっては、保護して数日でべた惚れ状態だよ。ジェシカさんのメンタルケアは女性陣が担当していたのに、いつの間に好感度を稼いだのやら。
しかも、アレク自身は全然気が付いていないからたちが悪い。
「ええい、この鈍感ハーレム野郎! アレクなんか、アリシアさんの尻に敷かれていればいいんだ。」
「それはそれで、羨ましいぞ! 俺も聖女様の尻に敷かれたい!」
周囲の冒険者からも野次が飛ぶ。ああ、こんなところにも勇者がいた。
気を付けよう、月のない夜と鬼将軍。健闘を祈る!
「俺は剣姫様の胸に抱かれたい!!」
これ、本人が聞いたら確実に不機嫌になるよ。
カレンさんは脱いだら凄いんです。逆の意味で。
「エレノアたんは俺の嫁!!」
おまわりさんこいつです!
いや、エレノアさんは小柄で幼く見えるけど、僕より年上なんだよね。この世界基準ではそろそろ行き遅れに……ゲフンゲフン。
「ジェンカちゃんの奴隷になりたい!」
いや、それはちょっとアブノーマルが過ぎない?
因みに、この国でも他国でも、奴隷が奴隷を所有することは認められていません。
「ウォー! 俺の仲間は俺が守る!」
あ、アレクが復活した。というか、なんか変なスイッチ入った!?
大乱闘になった。
乱闘は十分ほどで終了した。
アレクも他の冒険者も最低限の自重はしたようで、武器も抜かなかったし死者や重傷者は無し。打身やたんこぶくらいなら冒険者同士ではじゃれ合いの内だ。
実は冒険者というのは女にモテない職業なのだ。アレクのようにモテる冒険者もいるけれど、道楽でやっている金持ち冒険者か、高ランクの超一流冒険者と言った極一部の者に限られる。
なにしろ、いつ死ぬとも知れぬ危険な仕事なのに、その大半はとっても貧乏なのだ。これほど結婚相手として不安な者はそうそういないだろう。
だから、そんなモテない冒険者に彼女でもできようものならば、やっかみ半分の手荒いお祝いが待っている。どうも途中からそういうノリに切り替わってしまったみたいだ。
まあ、アレクはお祝いする必要もないほどにモテすぎるんだけどね。
乱闘そのものはアリシアさんがやって来たことで終了した。遠巻きに見ていた冒険者の一人が異様な雰囲気に気付いて呼びに行ったのだそうだ。
アリシアさんの一喝で荒くれ者の冒険者達が一瞬でおとなしくなったのは見ものだった。さすがは鬼将軍ローフォード公爵の御息女、笑顔で言う言葉に誰も逆らえませんでした。
そして現在、アレクも含めて乱闘に参加した冒険者全員、正座してアリシアさんのお説教を聞いております。
え、僕? もちろん一緒に正座していますよ。この世界に正座なんて文化あったっけ?
「ちゃんと聞いていますか、グレッグさん?」
は、はい! ちゃんと反省しています!
冒険者達へのお説教は深夜まで続いた。
でも、アレクもちょっとは他の冒険者と親しくなれたかな。
冷静そうに見えて、実はグレッグも酔っぱらっています。




