第二十話 アレク、初めての報酬をもらいました
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そういうわけで、その日のうちに王都に戻ってきた。
うーん、考えてみると結構な強行軍だった。
武具を取りに行っていたから、ダンジョンに潜ったのは昼の少し前。それから第二階層の空白地帯を探索して、一度第一階層に戻って。また第三階層まで上がって、人命救助して。
第二階層と第三階層で何度か戦闘もしているんだよね。普通ならば一泊してもおかしくないのだけど、やっぱり戦闘が一瞬で終わったからかな。
まあ、野営の訓練は次回に持ち越しになったけど。
僕たちは冒険者ギルドに来ていた。と言っても、僕とアレクとカレンさんの三人だけだけど。アリシアさんとエレノアさんはまだ意識の戻っていない女の子を連れて一足先にパーティーホームに戻った。
アリシアさんから魔法鞄を預かったアレクは、まずはいきなりギルドマスターとの面会を求めた。
普通の冒険者ならばまず窓口で報告して、それからギルドで重要性を吟味してギルドマスターから呼ばれる流れになるのだけど、王族で勇者のアレクならばいきなりギルドマスターに話を通してもまるで違和感がないね。
実際、ミスリルの鉱石と亜人奴隷の件は、下手に噂が独り歩きすると問題になりそうだし。
「なるほど、『毒の回廊』の先にミスリル鉱石の宝箱か。相変わらず殺意が高い。あそこは長いこと挑戦する者もいなかったのだが、正解だったな。」
ギルドマスターもしかめっ面で報告を聞く。このダンジョンの殺意の高さはギルドマスターにとっても頭痛のタネだ。
ついでに、アレク以外の人間がミスリル鉱石などというものを持ち帰った場合はもう少し面倒なことになったかもしれない。特にギルドに買い取ってもらうのではなく自分で売り捌こうとした場合など、どんな事件に発展するか分かったものではなかった。
「まあ、この件は発表しちまっても問題ないだろう。このクラスのお宝が再び現れるのは何百年もかかることはよく知られているからな。」
うんうん、数日で復活する宝箱を見つけてがっかりするのは、冒険者やってればいずれは経験することだ。
「悪いが、ミスリル鉱石の値段はすぐには決まらない。王宮と相談する必要があるから、しばらく預からせてくれ。」
「分かった。それでいい。」
結局は王宮で引き取るのだから、アレクがそのまま持ち帰ればよさそうに思えるかもしれないけれど、それをやっちゃうと色々と問題が出て来る。
ダンジョンの管理を任されている冒険者ギルドの利権を侵害する他、アレク自身も冒険者としてではなく王族としてダンジョンに潜っているとみなされると立場上問題が出るらしい。
「後は、猫型獣人の戦闘奴隷か。最近国外から来たパーティーにそんな連中がいたな。こちらで調べておこう。遺留品は預からせてもらう。」
奴隷を酷使するような冒険者はこの国では評判が悪い。また、使い潰してしまうと国内では合法的に補充ができないからそういう冒険者はこの国にはあまり長居しない。
まあ、奴隷を連れていても仲間として大切にしているパーティーはあるよ。そういう冒険者なら受け入れられているからこの国の冒険者ともそれなりに交流はある。
特に獣人系の亜人はこの国では珍しいから、他の冒険者と交流があればそれなりに知られているはず。それが噂にもなっていないということは、この国に来て日が浅いのだろう。
「それと、その獣人の嬢ちゃんは、当面お前さんの所で面倒見てやってくれないか。下手にギルドで保護するより安全だろう。」
「ああ、初めからそのつもりだ。」
もうアレクの奴隷になっているしね。奴隷から解放するにしても結構手続きが大変らしい。
それに、迂闊に奴隷から解放してもまた攫われて奴隷にされる危険もあるらしい。アルスター王国では違法でも、他国まで連れだせば合法的に奴隷として売り飛ばせるのだ。
逆に、アレクの奴隷であるうちは、勝手に売り飛ばそうとすれば窃盗になる。王族の財産を盗み出したとなれば国際問題になるから迂闊に手を出すことはできない。
また、アレクの用意したパーティーホームなら、他国から来た冒険者も出入りする冒険者ギルドよりも防犯面で優れている。イメルダさんもいるしね。
「全部で金貨五枚と銀貨二十枚になります。」
おお、凄い。日帰りのダンジョン探索で金貨を稼げるなんて! あ、違った。魔王を倒しに行った時に作った地図の値段も入っていた。
ギルドマスターに報告した後、僕たちはギルドの窓口でダンジョンアタックの成果を買い取ってもらっていた。査定に時間のかかるミスリル鉱石は別として。
買い取ってもらったのは摩核と地図だ。魔王討伐を優先した前回は、戦闘も最低限、宝箱もその他換金できる資源も無視して進んだ。その代り、深い階層の空白地帯の地図をいくつも作ることになった。
今回は第三階層までで引き返したから、空白地帯の地図は『毒の回廊』の短い距離だけだ。試し斬り用にあえてモンスターに突っ込んで行ったりもしたけど、やはり時間が短い分得られた摩核の個数も少ない。
今日の探索の分だけだと、だいたい銀貨七十から八十枚くらいかな。消耗品の消費もなかったし、短時間で稼いだにしてはかなり良い方か。
ミスリル鉱石を含めるととんでもないことになるのだけれど、あれは例外中の例外だ。
アレクは、いずれは冒険者としての活動は冒険者としての収入だけで賄えるようになりたいと言っていたけど、意外と早く実現するかもしれない。
アレクは金貨一枚だけ現金で受け取ると、そのままギルドに併設されている酒場に向かった。既にいい時間なので酒場では結構な数の冒険者が飲んでいる。
「これでここにいる冒険者に酒を振舞ってくれ。今日は俺のパーティーの初収入の記念だ、みんな好きなだけ飲んでくれ!」
「オオー!」
歓声が上がった。
これは僕の入れ知恵だった。
正直、今のアレクは冒険者の中で浮いている。
貴族や大金持ちが道楽として冒険者になる場合、格好だけでろくに冒険者としての活動もせず、そのくせ態度だけはでかいというどうしようもない連中も多いのだ。
もちろん中には没落寸前の貧乏貴族とか、大金持ちの商家の子息だけど家を継げずに放り出される三男坊とか、必死になって稼いでいる冒険者もいる。
しかし、金ぴか装備のアレクはどうしてもお遊びで冒険者をやっているように見えてしまう。
最初から良い装備を揃えている金持ちの冒険者の中にも、アレクのように真面目にダンジョンを探索するものも少数存在する。
そんな、一般の冒険者から浮いた金持ち冒険者が、他の冒険者との親交を図る一番簡単な方法がこれだ。とりあえず酒を奢ればいい。
普通の冒険者はたいてい貧乏で単純だから、奢ってもらえるならありがたく頂戴する。
もちろん、それで親しくなっても一時のことに過ぎないのだけど、その間に腹を割って話せばいい。
アレクは目的も手段も普通も冒険者とは異なるけど、お遊びではなく真剣にやっている。それに冒険者を見下すような真似もしない。
ちゃんと話せば受け入れられるはずだ。
そう考えた僕の作戦は、半分だけ成功する。ギルドが混みあう時間だったこともあって、多くの冒険者が飲みまくった。これだけでも結構好感度を稼いだろう。
しかし――
「いや~、アレクがこんなに酒に弱いとは思わなかったよ。」
「せやな、普段からあまり飲まへんと思うとったけど、こないに弱かったんやね。」
あっさりと酔い潰れて眠ってしまったアレクを背負い、カレンさんと共に帰るのであった。




