第十五話 再びダンジョンに潜りました
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「よし、これで全員装備は整ったな。」
アレクが皆を見て言う。
僕たちは今、新調したばかりの装備を身に付けている。アレクとカレンさんは、王宮に飾る用の装備だ。しばらくは人目に付くところではこの装備で行くらしい。
そして全員冒険者御用達のバックパックを背負っている。冒険者向けに売られているだけあって、背負ったままで戦闘もできる優れものだ。
魔法鞄だけに頼る危険性を認識して新たに購入したもので、防具と一緒に注文した。アレクの金ぴか鎧やカレンさんのドレスアーマーの背中に背負っても違和感がないのがすごい。特級の鍛冶屋はここまでやってくれるのだ。
魔法職組も同様で、アリシアさんの場合、衣装と同色のバックパックが衣装の一部と化している。エレノアさんのバックパックはローブの内側なので外からは見えない。
「準備もできたことだし、ダンジョンへ行こうか。」
アレクの一言で、僕たちはダンジョンに向かった。
冒険者がダンジョンに潜る理由はいろいろある。
自分が強くなるための修行の場として利用している者もいる。
大きな武功を立てて英雄になろうと夢見る者もいる。
単に強いモンスターと戦いたいだけの戦闘狂も、たまにはいる。
けれども、ほとんどの冒険者に共通することはお金を稼ぐことだ。しっかりと稼がねば生活して行くことができない。
だから冒険者はダンジョンに潜る前に、冒険者ギルドに寄って行く。
別に冒険者ギルドに寄らなくてもダンジョンに潜ることはできる。そしてダンジョンで入手したものを売却すればお金を稼ぐことはできる。
しかし、冒険者ギルドに立ち寄り、ダンジョンに潜ったついでに達成できそうな依頼を受ければ収入は更に増えるのである。
朝一で冒険者ギルドに立ち寄ってからダンジョンに潜るのは、冒険者の一般的な行動である。
だがここに、冒険者の一般論に当てはまらない人物がいる。アレクだ。
仮にも王族であるアレクは金に困っていない。豪遊できるほど好き勝手に金が使えるわけではないそうだけど、少なくとも生活に困ることはない。
そして、アレクの冒険者としての活動は国からの依頼という形を取っている。今回新調した装備の代金も経費ということで国から出でいる。僕は自分の装備は自分で出したけどね。
更には、国の依頼を遂行中は、パーティーメンバー全員に毎月一定額の活動費が支給される。今回正式にアレクのパーティーのメンバーになった僕も含めてである。
つまり、今の僕たちは世にも珍しいサラリーマン冒険者なのだ。この世界にサラリーマンという概念は無いけどね。
まあ、そういうわけで僕たちは冒険者ギルドには寄らずにダンジョンに直行した。
装備を受け取りに鍛冶屋に行った分遅くなったから、冒険者ギルドに寄ってもたいした依頼はまず残っていないんだけど、それでも普通の冒険者ならば依頼を確認しに立ち寄るものだ。
中途半端な時間だったので、ダンジョン行きの馬車は貸し切り状態だった。ちょっぴり新鮮な体験だったよ。
さあ、久しぶりのダンジョンへ行いこう!
ダンジョンの第一階層は、暗黙の了解で駆け出し冒険者の狩場になっている。
第一階層に徘徊しているモンスターは、ゴブリンとコボルトの二種類だけ。どちらも小型で力も弱いモンスターだ。
三体から五体程度のグループで徘徊しているから、よほどのドジを踏まない限りは駆け出し冒険者でも後れを取ることはない。後れを取るほど弱い冒険者は、駆け出し以前の見習いと呼ばれ、ダンジョンの外の仕事しか受けることができない。
駆け出しを卒業した冒険者がこの階層で戦っているとすれば、偶発的に襲われたか、ドジを踏んだ駆け出しを助けるためか、あるいは高価な武器を失ってしまい、買い直すために地道に稼いでいるかである。
アレクのパーティーは最弱の僕を含めてより深い階層で活動できるだけの実力は持っている。なので第一階層は素通りして第二階層へ続く最寄りの『ポーター』へ向かう。
ダンジョンの調査という意味では第一階層も対象なのだけど、この階層は普段から人が多く、異変があればすぐに冒険者ギルドに報告されるので飛ばすことにしたのだ。
『ポーター』で下の階層に降りたら、真っ先に行うことがある。現在位置の確認である。
「えーと、ここは第二階層の38番。」
これでも僕は五年近くダンジョンに潜っている。第二階層くらいなら、ざっと見まわせばどこに出たのかはだいたいわかる。
まあ、似たような地形の場所もあるからちゃんと確認はするけれど。
近くの壁を確認すると……はい、有りました『38』のマーク。
冒険者ギルドでは、ダンジョンの管理を任されて以来、内部の地図を作ることに熱心に取り組んできた。
特に、『ポーター』で下の階層に降りた際の出現位置に規則性があることが判明してからは、各階層の出現位置、通称『ポーターの出口』に番号を付けて管理するようになった。
最初は地図の上に番号を記すだけだったのだけど、ダンジョンの壁に書き残すことのできる専用のマーカーペンが開発されてからは、『ポーターの出口』近くの壁や床にも番号を書き残すようになった。
実はダンジョンの壁って、破壊しても時間が経つと元に戻る性質がある。通常の方法ではインクで文字を書こうが、壁を彫って刻み込もうが、やがて消えて元の壁に戻ってしまうのだ。
このダンジョンの壁に描いても消えないペンができたことで、ダンジョン探索が劇的に進んだと言われている。
因みに、前回のダンジョンアタックで第十階層に行ったときは、剣聖リチャードが書き記したと言う栄えある1番に出たのだ。だからどうしたと言われればそれまでなんだけど。
「それで、どうする? ここからならば、空白地帯『毒の回廊』に近いけど。」
アレクの目的は、魔王エグバートを討伐したことによるダンジョンの変化の調査がメインになる。
しかし、その他に地図の空白地帯を埋めることも探索の目的に入っていた。情報のない空白地帯にはどのような細工が施されているか分からない。最悪、魔王亡き後も仕掛けが残り、ダンジョンを探索する冒険者や王都そのものが危機に陥るという展開は困るのだ。
前回のダンジョンアタックでは魔王討伐を優先していたため可能な限り最短コースを取ったけれど、今回は色々と寄り道をして行く余裕がある。
「空白地帯に行こう。道案内してくれ。」
アレクの一言で、空白地帯に向かうことになった。




