第十四話 新しい装備ができました
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とおかご、たのんでいたぶきとぼうぐがかんせいしました。バンザーイ!!
ハッ、僕はいったい何を?
貴族の勉強、無茶苦茶大変だったよ~。何あれ、覚えること多すぎるよ~。
でも、アレクも、アリシアさんも、ついでにイメルダさんまで完璧に憶えているからすごいよ。こんなに面倒臭いものをしっかり理解している貴族を生まれて初めて尊敬したよ。全然わかっていない駄目貴族も多いんだそうだけどね。
でも勉強していて始めて知ったことも多い。まあ当然ではあるけれど。
まず貴族だからといって平民相手に威張り散らしてはいけないのだそうだ。貴族たる者、たとえ平民相手であっても礼節をもってあたるべし。
確かにアレクやアリシアさんはごく自然にそれができている。それが貴族の品位というものだそうだ。
そして、相手が平民だからといって、財産を奪ったり、暴力をふるったり、命を奪ったりしてはいけない。
礼節をもって、は注意義務で罰則はないけれど、こちらは罰則ありの犯罪行為になる。そして平民同士でこれらの行為を行った場合よりも罪が重いのだ。
実際、平民から騎士爵に叙されたばかりの新米貴族が、平民相手に無法なことをやって処罰されるケースが多いらしい。
しかし、(元)平民からすると貴族って平民相手に無法な真似し放題やってるんじゃないの? と思うのだけれど、それは違うらしい。
好き放題やっているように見える貴族は、貴族だから無法をやっているわけではない。権力を握っているから合法的に無茶ができるか、無法な行為が問題になっても握り潰せる力があるだけなのだそうだ。
つまり、僕たちみたいに身分を与えられただけのなりたて貴族は、義務が増えるだけでメリットがあまりないのだ。
前世で言うと、管理職になったけど残業手当が無くなって収入はかえって減ったなりたて課長の悲哀といったところだろうか。
一応身分だけでも貴族になったのだから、色々と特典はあるらしいのだけど、その特典を利用するためには勉強あるのみ。はぁ~。
まあ、貴族の勉強はまた頑張るとして、今は完成した武器だ。
皆で鍛冶屋に取りに行く。装飾用の剣とかならばともかく、実際に使用する武器や防具はその場で試用して問題があれば調整してもらうから、自分で取りに行くのが鉄則だ。
途中で魔法職組のアリシアさんとエレノアさんと別れ、僕たちはトニーさんの鍛冶屋へと向かった。
まずは、メインの装備を試着する。防具は三人とも動きやすい革鎧。アレクとカレンさんはその下に鎖帷子を着こんでいる。革鎧にも要所要所に金属板を仕込んで強化している。その分重くなるのだけど、二人とも力は強いし体力もあるから問題にならない。
僕は左手に金属製の小さな円形盾。表面はなめらかに曲線を描いて湾曲しており、これで相手の攻撃を滑らせて逸らす。手に持つだけではなく、腕に固定したり、腰や背中に装着することも可能だ。
アレクのメイン武器は聖剣だけれど、サブに長剣を用意した。カレンさんは大剣、長剣、短剣の三連コンボだ。僕の武器は短剣一本だけ。一応今まで使っていた短剣は予備の武器として取ってある。
そして、お待ちかね(?)、王宮に展示される予定の見栄え優先の装備だ。
アレクのは例の金ぴか装備。なんと、革鎧の上から装着できるようになっている。さすがに腰の剣は一度外すようだけど。
成金趣味の鎧かと思ったけど、アレクが着ると妙に様になっている。冒険者というより、一軍の将といった貫禄がある。
そして腰に佩くのは鎧とお揃いの金ぴかな鞘と柄を持つ剣。もはやデザイン的に鎧の一部になっている。性能的には今回作ってもらった長剣よりも劣るんだけど、見た目だけなら凄く強そう。
デザイン重視の鍛冶師の底力を見た気がするよ。とにかくかっこいい。まあ、僕が着ると単なる悪趣味になりそうだけど。
そして、カレンさんの新装備。これがまた凄い。
純白のドレスのような衣装に、意匠を凝らした白銀の胸当。いわゆるドレスアーマーと言うやつだ。頭にはティアラまで載せている。
腰に挿しているのは、これも流麗な意匠の施された細剣。大剣を振り回すカレンさんはあまり使わない武器だけど、ドレスアーマーと合わせて華奢で美しい女剣士を演出している。
凄いのは、これでも防具としてちゃんと機能していることだろう。純白の布は魔物由来の強靭な繊維を用いたもので、織り込まれた金糸銀糸の装飾は金属ワイヤーによる補強だ。
ひらひらしているように見えるスカートも、内部の骨組みで形が維持され、足に巻き付いて動きを遮ることがない。
細剣も実用に耐えるものだし、カレンさんの腕ならばこの装備でも第三階層くらいまでは楽に行けるのではないだろうか。
「なんやこれ、ふざけとんのか。」
だから、カレンさんが不機嫌なのは武具としての使い勝手の問題でもデザインが気に入らないからでもない。
「うちに対する嫌味かなんかか?」
カレンさんが気にしているのは、おそらく胸当の造形のことだろう。
いや、デザインは素晴らしいんだ。それにカレンさんのよく似合っている。後で知ったことだけど、この装備で活躍するカレンさんを見た冒険者の間で、剣聖カレンは『剣姫』の二つ名で呼ばれるようになったらしい。
問題はそこではなくて、この胸当を付けた胸部は、アリシアさん程ではないにしても、かなりふくよかに見えるのです。
しかし、胸当のふくらみに詰まっているのはほとんどが緩衝材という重装甲なわけでして。
実際のカレンさん本人は、控えめに言って貧乳、と言いますかほとんど絶ぺ……ヒィッ! なんか今凄い殺気が! ……あの、カレンさん、僕何も言っていませんから、何も思っていませんから、だから睨まないで~。
その後、別の工房に装備を取りに行っていたアリシアさんとエレノアさんと護衛として付いて行ったイメルダさんと合流した。
魔法職の装備については詳しくないのだけど、金属の防具は魔術の発動や制御を阻害したり、魔力の回復の妨げになるとして身に付けられないらしい。
前衛職でも簡単な魔術を扱う人はいるし、僕だって斥候として探索系の魔術などを使うけど金属製の防具の有無で魔術が使えなくなるような経験はない。
けれども専門の魔法職ともなると行使する魔術の規模も精度も段違いになる。些細な差異でも命取りになることもあるのだそうだ。
そんなわけで、二人とも魔法職専用の装備を専門の工房で新調している。鍛冶屋とはまた管轄が違うのだけど、最高ランクの職人に依頼したことは間違いない。
エレノアさんは紺色のローブ。アリシアさんは、聖女になったからか、神官服に似た感じのアイボリーの衣装だった。
どちらもある程度の衝撃緩衝や耐刃能力はあるけれど、物理防御よりも対魔術防御や魔術の補助能力を中心に考えられている。
手にする武器は二人とも杖だ。エレノアさんが長杖でアリシアさんが短杖。二人の身長からすると逆に思えるけれど、これは地面に突いて歩くための杖ではない。
小柄なエレノアさんが持つと、先端が頭の上に来る長杖は、大規模な攻撃魔術の発動を助けることに特化している。敵を一掃する範囲攻撃や、強敵に大きなダメージを与えるための大魔術用のものだ。
一方、アリシアさんの短杖は、魔術の発動を早めることに重点が置かれている。戦闘中の回復は一刻を争うことが多いのだ。
来月も週二回の更新で行きたいと思います。次回更新は12月2日予定です。
次話からダンジョンの探索が始まります。




