第十三話 他の武具も見てみました
さて、予定していた武器と防具の注文は終わったのだけど、せっかくだから少し見て行こう。特級の鍛冶屋に来たの初めてだからね。
鍛冶屋は武器屋ではないけれど、武器や防具の見本が幾つか置かれている。
冒険者の中には、これまでメインで使用していた武器や防具の種類を変えることを検討している人もいる。特級の鍛冶屋ともなると、そういった冒険者の相談に乗ることもあるのだそうだ。
だから、参考になるようにと、各種武器や防具が宣伝も兼ねて置かれているのだ。
「グレッグ、盾を使うのか?」
展示されている盾を見ている僕に、アレクが不思議そうに聞いてきた。
まあ、不思議だろうな。僕は冒険者としての役職は斥候だ。攻撃力も防御力も低いから、アレク達以上に回避に専念することになる。
単独で潜っていた時は、潜伏、回避、逃走が基本行動だったしね。
当然装備はなるべく軽く、防具は最低限だったわけだけど……
「今後のことを考えると、このくらいは必要だと思ってね。」
アレクのパーティーの一員として活動するとなると、単独の時と同じようにはいかない。今まで臨時で参加してきたパーティーとも違う。僕も今までのやり方を変える必要があった。
まず、アレクのパーティーには前衛職が二人しかいない。その二人だけでもモンスターを蹴散らす十分な戦力があるんだけど、やはり人数が少ないと守りに入った場合に弱い。
正面から戦えばたいていのモンスターは敵ではないのだけれど、全方位から一斉にかかってこられたら後衛の守りに手が回らなくなる恐れがあった。
実はエレノアさんは接近した敵に対応する魔術も使えるし、アリシアさんも防御用の魔術を使うことができるのだけれど、やはり魔術なので発動するまでにはちょっと時間がかかる。
僕がアレクパーティーの一員になるのならば、何時までも非戦闘員の雑用係でいるわけにはいかない。エレノアさんやアリシアさんが魔術を使うまでの時間を稼ぐくらい、防衛戦をやる必要も出て来るだろう。
「ふむ、円形盾か。お前さんにはちょうどいいかもしれないな。」
うわぁ、びっくりした。いきなり背後から話しかけないでくださいよ。
この人鍛冶師ですよね? 何で気配もなく人の背後に立っているんですか?
「こいつは、円形盾の中でも攻撃を受け止めるのではなく、弾いたり逸らしたりするためのものだ。小さくて軽いから邪魔にもならないぞ。」
確かに僕にはちょうどいいかも。
「さっきの注文に、金貨五枚追加したらそいつも付けてやるぞ、どうだ?」
ああ、鍛冶屋なのになんて商売上手! 金貨三百枚の予算をちょっとオーバーするけど、それとは別に装備の更新用に貯めていた分があるからぎりぎり足りる。
「お願いします。」
まあ、よい買い物でした。
おや、今度はアレクが何か見ている。……げっ、あれは!
「アレク、それ、欲しいの?」
アレクが見ていたのは、やたらと金ぴかで派手な鎧だった。同じく金ぴかな鞘と柄の剣もセットで付いている。
これ、たぶん小説の中でアレクが着ていたやつだ。勇者になって態度がさらに悪くなったアレクに腹を立てた鍛冶師が騙して売りつけた、派手なだけの鎧と剣。
小説ではこの鎧を着るようになってからアレクの見た目と言動が一段と派手になって行く。けれども、この世界のアレクには全く似つかわしくなかった。
この世界の、現実のアレクは派手に目立ちたいとか考えていないからね。どう見ても実用性のない鎧のどこに興味を持ったのかが分からない。
「実はレオン兄さんから頼まれているんだ。王宮に展示する用の『勇者の装備』を見繕ってくれと。」
え? どういうこと?
「なるほど、そういう用途ならばこの鎧はぴったりだな。」
再び現れたトニーさんには分かったらしい。
「王宮に過去の英雄の装備が展示されていることは知っているか?」
あ、それは聞いたことがある。剣聖リチャードの剣とか。
「俺も勇者になってしまったから、勇者の装備を展示しなければならなくなった。」
ああ、魔王を倒したから剣聖リチャードを超えたことになるしね。『勇者アレクの聖剣』とか展示されるのか。
「しかし、一度王宮に飾られた武具は、原則として二度と使用されない。厳重に警備されるし、持ち出すためには非常に煩雑な手続きが必要になる。」
えーと、ということは……
「聖剣は何時必要になるか分からないから展示するわけにはいかない。使用した剣や鎧も高価な素材をふんだんに使っているから、打ち直すなりして冒険者に使ってもらいたい。だから展示用に回せる武具が新たに必要だ。」
「すると、展示されている『剣聖リチャードの剣』というのは……」
「ああ、それは本当に剣聖リチャードが使ったものだ。ただし、ダンジョンの最深部まで行ったものではないけどな。」
そ、そんなぁ~。今明かされる残念な真実。冒険者には剣聖リチャードのファンも多いから、がっかりする人も多いと思う。このことは黙っておこう。
あれ、そうすると……
「もしかして、カレンさんの分も要るのかな?」
勇者になったアレクが目立っているけれど、剣聖の称号を得たカレンさんも剣聖リチャードと同格の英雄になったといえる。
「ああ、あると助かるな。」
やっぱり、剣聖カレンの装備も展示されるらしい。
「なんや、うちにもなんかくれんのか? ただならかまへんよ。」
カレンさんも話に加わった。ただならって……カレンさんらしい。
「一定期間人前で身に付けてもらうことになるが、その後国で買い取る。頼めるか?」
ただでもらった装備を買い取ってもらえるから、カレンさん丸儲け。最後のはトニーさんへの確認だね。
「ああ、分かった。二人とも採寸済みだし、性能にもこだわらないのなら適当にそれっぽいのを仕上げておくさ。なに、性能はさておき見てくれにこだわったものを作りたいやつもいる、任せておけ。」
あ、意外。特級ともなると、「そんなお飾り作れるか!」みたいな人ばかりだと思っていた。
ともあれ、予定外のものも買ったけど、無事武具の購入が済んだ。魔法職組のアリシアさんとエレノアさんとも合流したけど、こちらの買い物も無事に終わったそうだ。
ただ、何分オーダーメイドなので全員の装備が完成するまでに十日ほどかかる。これでも最優先でやってもらっているから無茶苦茶速いんだけどね。
普通の冒険者ならば、新しい武器ができるまでの間は休みを取るか、あるいは浅い階層かダンジョン以外の依頼で少しでも減ったお金を取り戻す。
「アレク、頼んだ武器ができるまではどうする?」
勇者パーティーの目的はダンジョンの調査だ。小銭を稼ぐために潜る必要はないけど、今の装備でも無理をしなければ浅い階層の調査くらいはできるだろう。
「そうだな、せっかく時間もあることだし、貴族の勉強でもしてもらおうか。」
あ……
アレクの一言で約三名固まりました。
はぁ、避けては通れない道だ。仕方がない。
忘れていたかったよ……
完結後、完全に放置していた私の第一作目『最弱勇者は叛逆す』にレビューと評価をいただきました。本作をご覧になっているかはわかりませんが、この場を借りてお礼いたします。ありがとうございました。




