第十話 パーティーホームができました
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2021/06/12 誤字修正
誤字報告ありがとうございました。
え~と、ここはいったいどこなんでしょう。
あれから僕は、なし崩し的にアレクのパーティーの一員になった。あれだけ派手にアレクと一緒の所をお披露目されたら、もう普通の冒険者はやっていられないよ。ついでに貴族になっちゃったし。
そうしてアレクに連れてこられたのは、王都の西側。僕たちには縁のなかった貴族区、高級住宅街の一角だった。
「冒険者として活動にするために手配していたんだ。さあ、みんな入って。」
アレクに促されて足を踏み入れた其処は、控えめに言っても豪邸だった。
王都に自宅を持っている冒険者は少ない。けれど、全くいないわけではない。
一つは王都に実家がある場合。しかし、実家に住みながら冒険者になる者は、実は滅多にいない。
実家に住まわせる余裕があるならば、家業を手伝わせるのが一般的だ。わざわざ危険な冒険者にさせることはない。実家にいられなくなるか、あるいは自ら家を飛び出して冒険者になるのが普通だった。
例外的にいるのは、副職としてダンジョンには潜らずに簡単な冒険者の仕事をしている者か、貴族や豪商の子息が道楽として冒険者をやる場合くらいなものだ。
一つは所帯を持って、妻や子が住む自宅がある場合。これも滅多にいない。だいたいが所帯を持つか、遅くとも子供ができた時点で冒険者を引退する。
子供ができても冒険者を続けるのは、替えの利かない一流の有能な冒険者か、あるいは他の職に就けなかった者くらいだ。
それ以外で多いのが、パーティーホームと呼ばれるものだ。パーティーメンバー全員で大きめの家を借り、共同生活するというもの。
もっとも、同じパーティーメンバーだけでは一緒にダンジョンに潜ってしまうので結局留守がちになって効率が悪い。そこで、仲の良い二~三パーティーが合同で共有したり、まだダンジョンの深い階層に潜れない駆け出しの冒険者を留守番代わり住まわせたりすることが多い。
僕も駆け出しのころはよくお世話になりました。宿に泊まるより安く付くし、先輩冒険者の話も聞けて有意義だったよ。全パーティーメンバーが一度に帰って来ると途端に手狭になるんだけど。
アレクの確保した物件は、分類としてはパーティーホームになると思う。けれどもこんなに豪勢なパーティーホームはない。
よくあるパーティーホームは男女別の大部屋で雑魚寝だ。土足禁止の大部屋に粗末な絨毯が敷いてあり、毛布を持ってきて寝るのだ。安ホテルのように小さなベッドをたくさん並べ、足りなければ折り畳み式の簡易ベッドを用意する場合もある。寝泊まりする人数がころころ変わるので大部屋に大勢で寝ることになる。
しかし、この屋敷は個室だけで十部屋以上あるぞ。
皆で一通り回ってみたけど、一人二部屋確保してもなお余る個室に、立派な台所、大きな食堂、全員で集まっても寂しいくらいの大広間。ついでに十人くらい纏めて入れる大浴場まである。
このままちょっとしたホテルとして開業できるんじゃないか?
「凄く、大きい。……これが、冒険者の家?」
いえいえ、そんなことはありませんよ、エレノアさん。一般的な冒険者は堅気の平民よりも貧しいくらいです。
よく考えてみると、アレクのパーティーって、訓練終わってから冒険者登録して、そのまま一気に魔王討伐まで突っ走っちゃったんだっけ。普通の冒険者の暮らしを知る機会は無かったか。
「そんなわけあるかい! どんだけ稼いだらこないな邸宅に住めるっちゅうんや。」
はい、カレンさんのおっしゃる通りです。ギルドでもトップクラスの冒険者でないと、この豪邸の維持費も出せないんじゃないだろうか。でも一流の冒険者になると装備に金をかけるから、住居にまで必要以上に金をかけたがらないんだよね。
「ごめんなさい、冒険者向きの家ではないことは分かっているのですが、私たちの立場上、このような屋敷でないと許可が下りなかったのです。」
あ、アリシアさんは分かっているみたいだ。いえいえ、アリシアさんのせいでは……いや、本当にアレクとアリシアさんのためか? ギルドではただの冒険者として扱われるけど、本当は王子様と公爵家令嬢だもんな。
「勇者になってしまったからな。ダンジョンの中でならともかく、外で暗殺されるわけにはいかなくなったんだ。」
何処であろうとも、暗殺されたら困ると思うけど。
そういえば、勇者を擁することで他国に優位に立てるって言ってたっけ。逆に勇者を簡単に殺される国とか言われると立場が弱くなるのかな。
たとえ勇者でも死ぬときは死ぬのがダンジョンだから、ダンジョンの中で死ぬ分には国としては困らないと。
アレクは王子様だから国の心配までしないといけないのか。大変だなぁ。
「それから、こちらはこの家の管理をしてもらう、家政婦のイメルダだ。」
「よろしくお願いいたします。」
アレクが連れて来たのは、メイドっぽい服を着た、いかにも有能ですと言ったオーラを漂わせた女性だった。
そうだよね。こんな立派なお屋敷、僕たちだけで管理できるはずがない。駆け出し冒険者を住まわせても無理だろう。人手の問題ではなく、何をどう管理していいか分からない。
でもそれだけじゃない。このイメルダさん、たぶん護衛も兼ねている。
僕に斥候の技術を教えてくれた冒険者の一人に、元暗殺者じゃないかと噂される人がいた。気配を消して偵察を行う技術だけでなく、戦闘でもモンスターの背後に忍び寄って急所を一撃とか、特に人型のモンスターには強かったりとか、色々と凄い人だった。
イメルダさんのちょっとした動作にも同じようなものを感じるのだ。足音をほとんど立てずに歩き、気配を感じさせないままアレクの横に現れた動作とか、一見ただ立っているだけのようで、周囲の警戒を怠っていない所とか。
あれ? なんか僕のことも警戒していません、イメルダさん? 視線がきついと言うか、威圧感が怖いんですけど。
あ、もしかして、アレクの護衛だけじゃなくて、ローフォード公爵の息もかかっていたりします?
僕は、アリシアさんに手を出すような、そんな命知らずな真似しませんから。だから、睨まないで~。




