4話(前編) なかなか『力が欲しいか』ができないので、策を弄してみる
『力が欲しいか……』がやりたいだけの僕。
異世界転生する前は、色々迷走した。
ある新興宗教の教祖が『人知を超えた力を得られる粉』を出せると聞けば、入信。実際に粉を貰ってみると、単なる覚醒剤でガッカリしたり。
あと、ヤンデレに殺されたり……
だが貴族の子『アルド』に転生したあとは、順調に『力が欲しいか……』をするための力を蓄えてきた。
力を与える『付与魔法』。
それに時間停止の魔法【停止】を覚えた。
『レイヴン』というキャラを作るため、服装を整え、大塚明夫さん風ボイスも練習した。
そして『力を与える』にふさわしい、スケールの大きな人材と出逢うため、王都の『騎士養成学校』へとやってきた。
いじめっ子の、ゴリアテ達三人に絡まれた僕。
それをリネットという美少女が助けた。
気高い彼女こそ『力を与える』にふさわしい。
そう思ったがリネットは力を受け取ってくれず……なぜか『レイヴン』に弟子入りしてしまったのだった。
●
僕をいじめていたゴリアテたち三人は、あの世へ旅立ってもらった。
死体は絶対見つからない所に捨てたので、学内では『学園をやめて冒険者になった』、『調子に乗りすぎてマフィアに殺された』など様々な噂が立っている。
誰一人、いじめられてオイオイ泣くフリをしてた、僕の仕業だとは思うまい。
「ねえアルド君。ゴリアテ君たちは、どこに行ったのでしょうね」
そう僕に問うのは、リネットだ。助けて貰ったことをきっかけに、一緒に過ごすようになった。
「ゴリアテ君たちの行方に、心当たりはありますか」
「そうだな……千の風になって、この大きな空を吹き渡っているんじゃないかな」
「千の風? 各地をさすらう冒険者になったということですか? 詩的な表現ですね」
僕が転生する前の世界では、死んだという意味である。
「ところで」
僕は、ニコニコしているリネットを見て、
「ご機嫌そうだね」
「わかりますか? 今日からレイヴン様に稽古をつけていただけるのです。とても楽しみ」
レイヴンである僕は、憂鬱だけどな。
リネットにあまり強くなられると『弱き者よ……力が……欲しいか……』がやりづらくなるからだ。
まあ、適当に教えよう。
●
……とは思ったものの。
「違う!」
放課後。騎士養成学校の裏山。
僕は黒衣と仮面をつけてレイヴンの恰好をし、大塚明夫さん風の声でリネットを指導していた。
「基本はなっているが、それだけだ。少しでも相手が絡め手をとってきたら、途端に窮地に陥ってしまうぞ」
「はい!!」
性分のせいか、どうも真剣に教えてしまう。
リネットは熱心な上、飲み込みがいいから、どんどん強くなる。稽古を終えた今でも素振りしてるし。
「あまり無理せずともいいのだぞ?」
「いえ、これくらいで疲れていたら、レイヴン様にガッカリされてしまいますから」
(強くなったら、僕がガッカリするんだよ)
なんとも上手くいかない。
(どうすれば、リネットが力を受け取ってくれるだろう)
そんな事を考えつつ、数日が過ぎ……いつものように稽古をつけていると。
視線を感じた。
リネットは気付いていないようだが、確認しておこう。
「少し席を外す」
と言い残し、近くの林に入った瞬間——
「【停止】」
僕以外の、全ての時間を止める。
リネットも石像のように固まっている。
(しかし綺麗だなリネット……僕が時間停止AV好きだったら、滅茶苦茶にしてるぞ)
アホなことを考えつつ、視線を感じた方向に駆ける。
(いた)
若い男女二人だ。禍々しい紋章が刺繍されたローブを着ている。
木陰に身を隠し、【停止】を解除した。
男女二人が、会話をはじめる。
「俺が見たところ、あのレイヴンという男、かなりの手練。アイツが傍にいては、ターゲットを始末できん」
「ええ」
ターゲットって……こいつらリネットを殺すつもりか? なんでだろ。
「狙うべきは、レイヴンがいない時ね」
「そうだなドロテア——全ては教主の御心のままに」
女の方はドロテアというらしい。ムチムチした身体の美人だ。
(興味深い会話だったな……よし、こいつらを利用させてもらおう)
無論リネットに『力が欲しいか』をするためだ。
僕は作戦を立てる。
(後編に続く ※既にアップ済みです)
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